番外編 あたしメリーさん。いまミノタウロス迷宮にいるの……。(前編)
「あたしメリーさん。いまシューイン村にあるミノタウロス迷宮にいるの……。と、一行目でタイトル回収なの……」
『いきなり一仕事終えたみたいなノリで終わらせようとするな!」
メリーさんからの通話に、地球にいるターゲット兼コイビト(メリーさんの認識)である平和が即座にツッコみを入れた。
『……というか、珍しく勇者というか異世界ファンタジーみたいな冒険をしてるんだな』
「メリーさんは滅茶苦茶やる気はないんだけど、月に累計150ポイント以上の討伐とか攻略とか採集とか面倒な依頼を受けないと、ライセンス剝奪されるから仕方ないの……」
本気で不本意そうに愚痴るメリーさんであった。
『ああ……言われてみれば、異世界生活冒頭で冒険者登録してたな、滅びたストロングニートタウンで。作者同様、ほぼ忘れてた』
「一度登録すると、全国の冒険者組織で共有されるから、登録した場所が壊滅してもデータやポイントは引き継がれるから面倒なの……。ちなみにメリーさんは冒険者ランク‟S”級なの……」
『なんでろくな実績もない幼女が、いきなりS級なんだ!? 勇者の忖度だとしても度が過ぎるだろう!!』
「? えー、びー、しー……から12番目だか13番目のS級なの。なんかおかしいの……?」
素朴なメリーさんの疑問に、電話の向こう側で平和が黙りこくる。
ややあって――。
『――ああ、普通にアルファベットの並び順か。そうか……そうだよな。A級の上がS級とか日本競輪の常識だもんな』
「よくわからないけど。とりあえず手っ取り早く150P稼げる攻略クエストを受けることにしたの。つっても、冒険者ギルドでの斡旋謳い文句は……」
【案件名】未踏迷宮の「環境マッピング・フィールドテスター」(180P): 未開の地を歩くだけ! あなたの足跡が歴史になる。お散歩&未開コンテンツのインフルエンサー業務です♪
「という、『ただ歩くだけやろ?』『宝箱とか見つけたらこれ実質不労所得では?」と、軽率な冒険者どもが勘違いするようなキャッチコピーを掲げて、まともな労働者だったら二の足を踏むような案件なの……」
『よくそんな地雷案件受ける気になったなァ!?!」
「あたしメリーさん。ありがちな『事前に打ち合わせ済みの魔王軍と戦って、蹴散らされるモブのサクラ』とかはポイントも低いし経験値もゼロだし、かと言って直接的な危険がなくてそれなりのポイントがもらえる王立魔法薬研究所の『不死身になる薬』の被検体とか、別な意味で危険すぎるの……」
ちなみにその依頼を受けた冒険者は、特に効果がなかった代わりに副作用で、常に語尾が「ピヨピヨ」になったり、頭のてっぺんからいくら切っても切っても無限に生えてくるヒマワリが大輪の花を咲かせるようになったそうである。
「えいえんのいのちとか、ろくなことにならないと日本人なら知ってるの。ある鳥のせいで……」
『ああ、あの燃えるやたら性格の悪い鳥な。しかし、そんな楽して金になる仕事なんてないと、普通ならわかると思うんだけど、冒険者って何考えてるんだか……』
しみじみ呆れた口調で嘆息する平和に、メリーさんが訳知り顔で言い返した。
「冒険者なんて大半が、同級生が子育てしてるのに、結婚もせず成人した恥ずかしい男たちばかりなの。そんなのだから、同窓会にも呼ばれないし、年だけ重ねて子供のままでお金でしか人と繋がれないのに、そのお金すら浪費する世間を舐め腐った連中ばかりなの……」
「ぎゃやああああああああ!!!」
「うわ~~ん!!」
「もうやめて! 周りの冒険者のライフはゼロよ!」
歯に衣着せぬメリーさんの舌鋒に、周りで自然と聞いていた同じ迷宮攻略目的の冒険者たちが、流れ弾で瀕死のダメージを負う。
『政子殿! 待たれよ!――じゃなかった。お前、もうちょっと手加減しろよ。SMの女王様も痛めつけて怪我させたらただの暴行犯だから。ケガさせずに尊厳破壊しないギリギリのラインを攻めるくらい気を使うらしぞ』
「メリーさん普通に喋ってるだけなの。周りの連中がヤワなの。前触れもなくいきなり限界を迎えて粉々に砕け散る洗濯ばさみみたいなもんなの……!」
『つくづく良心が常駐してないよな、お前の場合』
臆面もなく言い放ったメリーさんに向かって、平和がしみじみと言い聞かせるのだった。
何はともあれ、まあ他よりはましということで、メリーさんたち一行は直立した牛の魔物ばっかりいる、謎の迷宮を攻略することになったらしい。
「村の言い伝えでは迷宮の主は《牛魔王》という神戸牛のミノタウルスらしいの……! メリーさん生の神戸牛って見たことないので、倒したら幾らになるか密かに楽しみなの……」
『‟ミノタウロス”な』
「言っとくけど、生きている間は“但馬牛”という品種の牛で、「神戸牛」は枝肉になって初めて名乗れるブランド名だから、『生きた神戸牛』って存在しないわよ?」
包丁持ってテンション上げているメリーさんに向かって、オリーヴが忠告をしたが、無論メリーさんは聞いていなかった。
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そんな翌日。
従妹にして義理の妹である野村 真李が来年の受験の下見を兼ねて上京するというので新宿駅で待ち合わせすることになった。
「――というか、普通に内原君のアパートで待ち合わせすればいいんじゃないかな?」
付き合いでだいたい一緒にいるワタナベが、いつものように王子様のようなキラキラオーラを振りまきながら素朴な疑問を口にする。
「あんな狭いアパートに、年頃の男女が寝泊まりできるわけはないだろう。兄妹とはいえ義理だし、正確には従妹なんだから」
「OH……! ちょっと待って、コレは完全に『IMOUTO×Thebrother』のプロローグだネ! My heart is straight up STOPPED!! tropesが完璧すぎて無理、しんどい、Die inside」
ため息混じりの俺の返答に、もう一人の友人である190㎝ある俺に並ぶほどの長身(187㎝)である、中性的な美貌をした、金髪碧眼の留学生ドロンパが、何やら悶えながら母語で捲し立てていた。
何を言ってるのかはわからんが(ワタナベはわかるのか空笑いを浮かべている)、なんかろくでもない妄想しているように思えるな。……何となく勘で。
あと、どうでもいいけど俺たち三人が立ってると、妙に悪目立ちするようで、場所柄無数にいる通行人たち――特に若い女子――が、わずかに足を緩めて横目でちらちら見ながら通り過ぎていく。
中には、「なんてバンドですか?」「どこの雑誌のモデルさんですか?」と聞いてくる相手もいて、ワタナベが慣れた感じで適当にさばいていた。
ちなみに普段であれば、神々廻=〈漆黒の翼〉=樺音こと、佐藤 華子先輩(重度の厨二病ファッション)と、ヤマザキ(いにしえのオタク全部盛り)という緩衝材があるせいか、一周回って遠巻きにスルーされるのだけれど、今日に限って二人とも用事があるとかで別行動をしているため、好奇心の視線にさらされる事態に陥っているわけだ。
まあ、大半がワタナベのイケメン面とドロンパの異国美、そしてついでにノッポで目立つ俺が珍しいのだろうけど、正直辟易する。
樺音先輩もワタナベも、いれば鬱陶しい連中だけど、いないとなると意外と不便なことがわかるな。
「――ま、とにかく。真李のホテルを予約した近傍である、新宿駅の方がわかりやすいだろう」
だいたいうちのアパートのある場所は、埼玉でも東京に近い割に『陸の孤島』『武蔵野線エリアの死角』と呼ばれる、首都圏の人間でも「行ったことがない」というくらい、わかりにくい地域だからなあ。
「なるほど。それでわかりやすい東口方向ってことだね」
納得した顔でワタナベがウンウン頷く。
「ホテルなんてダメよ! 同じ部屋でルームシェアすべきYO!」
なぜか逆に猛烈に反対するドロンパだけど、俺としてもここを譲るわけにはいかん。
「真李と一緒の部屋とかヤバいんだよ、主に俺の貞操的な意味で。隙あれば襲ってくるからなぁ……しかも、あいつが本気になると俺でも割と苦労するし(最近は基礎トレーニングだけで、体が鈍ってるので猶更な)」
田舎で古流武術を教えている祖父の薫陶を受けて、主に対人相手の護身術を習得した真李は、中学の時に夜道で襲い掛かってきた暴漢数名を逆に返り討ちにして、ほぼ再起不能にした他、宮城県で密かに開催されている最強の女傑を決める『仙台別式御前試合』でベスト4に残るくらいの実力がある。
※別式=江戸時代の大名の奥方を守る女武芸者で、実力的に武術指南役レベルがゴロゴロいた。特に仙台藩は質・数ともに他藩を大きく凌駕する、女武芸者が多いことで有名だった。
なお、普段は伸縮性特殊警棒を両手で持って武器にしているが、あれはまだしも緋村○心が逆刃刀使うようなもんで手加減している範疇なのだ。
本気になった真李の真骨頂は、相手の首を瞬時に刈る足技にある。
敵の周りを踊るようにクルクルと高速で動き回り、
「え、獣○三郎の五十メートルパンチ?」
という風に相手が困惑した一瞬のスキを突いて、「――いや、陸奥○明流の龍波!?」という感じで、大胆かつアクロバティックな接近から、168cmという身長に比べて長い両足を使って相手の首を刈る、フライング・ヘッド・シザースやヘッド・シザース・チョークといったシザー系の技を放ってくる恐ろしさ。
『恐ろしく早い足技。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね』
と、マジで言えるくらい卓越した技能を持ってるからなあ……。
そう密かに嘆息したところで、
「あっ♡ いたいた~、お義兄ちゃ~ん♡」
聞きなれた声を張り上げて、目ざとく俺を見つけたらしい真李が、改札を軽々と飛び越えて――越えるな阿呆娘――俺の方へと駆け寄ってきた。
「よう、真季。相変わらず元気そうだな」
飛びついて来ようとしたのを、間一髪で合気の要領で相手のベクトルと重心をずらせて、どうにか押しとどめながら俺から挨拶すると、「む~~う」いなされたことが不満なのか若干膨れっ面になりながら、真季が胸を張って言い放つ。
「元気元気! この間もこの季節の風物詩みたいに、コートの下が全裸の変質者が目の前に出没したから、特殊警棒で急所突きして、徹底的に折って、潰しておいて――あ、バッチいからその警棒は捨てたので大丈夫!」
「「ナニを折って潰したんだ!?」」
思わず股間がひゅんとなりながら、ツッコミを入れる俺とワタナベの声がハモる。
ドロンパは逆に痛快だとでも言いたげに、
「Nice☆」
と、真季にウインクした。
そこで俺の連れに気が付いたらしい――こんな目立つ二人に気が付かないとは、相変わらず俺の義妹は視野狭窄の気があるもようである――コテン、と小首をかしげて俺に尋ねる。
「ん? お義兄ちゃんのお友達?」
「ああ、どっちも大学の同期で、こっちのキラキラしたイケメンがワタナベ」
「初めまして、お兄さんの友人で渡辺 健一です」
紹介され如才なく挨拶をするワタナベだが――。
「えっ、ワタナベって『渡辺 健一』って名前だったのか!?!」
「なんでいまさら君が驚くんだ? というか、知らなかったの?!」
思わず素っ頓狂な声を張り上げてしまった俺の方を、呆れたように(というか絶対に呆れている)ワタナベがジト目で見据えた。
「いや、普段は『ワタナベ』で通じるし、樺音先輩に至っては〈白夜の王子〉とか呼んでるし」
ちなみに俺が〈狭間の守護者〉で、ヤマザキが〈巡礼の深淵〉、ドロンパが〈堕天せし星〉と、訳の分からんあだ名を、樺音先輩は勝手につけて呼んでいるが、無論、誰も同調する奴はいない(まあ呼ばれたら、お付き合いで返事くらいはするけど)。
だから知らなかったのは不可抗力だ。
そう俺が弁解を言いかけるよりも先に、真李がワタナベに話しかける。
「へーっ、見た目によらずに普通というかモブっぽい名前ですね」
「ハハハ、よく言われるよ。まあ、実際名前と見た目がマッチすることはまずないからね」
「そうねー。ヤマザキも本名は『山碕 昴流』っていう、少年漫画の主人公みたいな名前だからネー。あ、I'mはThe bratherのfriendでNevaeh Cavelloデス」
そこへドロンパも口を挟んできた。
つーか、ヤマザキってそんな大層な名前だったのか……知らなかったが、アレの場合は今後も『ヤマザキ』で良いような気がする。
あと、相変わらずドロンパの本名が聞いてもなに言ってるんだか、発音が流暢すぎてわからんので、こっちも今後とも『ドロンパ』と呼ぶようにしようと、密かに誓う俺だった。




