番外編 あたしメリーさん。いまナジミの店にいるの……。
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「……先生も、私と同じ……?」
ぬ〜○〜はゆっくりと鬼の手を収め、メリーさんに歩み寄った。
そして、両腕で彼女の小さな体を抱きしめた。
「そうだよ。お前と同じだ。だから……もう、寂しい思いはしなくていい。神様に祈るよ。お前が安らかに成仏できますように……」
ぬ〜○〜の声が、かすかに震えた。
鬼の手の熱が、優しくメリーさんを包み込むように光を放つ。メリーさんは、ぬ〜○〜の胸の中で小さく嗚咽を漏らした。
「……ありがとう……先生……」
その瞬間、メリーさんの姿が淡く光に溶け始めた。
人形を抱いたまま、彼女は静かに、静かに消えていく。ぬ〜○〜は腕を離さず、ただ祈り続けた。
「……成仏してくれ。もう、誰も傷つけなくていい……」
メリーさんの姿が完全に消えた後、ぬ〜○〜は屋上の床に膝をついた。
風だけが吹き、残されたのは、ただの静けさだけだった。
「……本当に、成仏できたのか……?」
その声には、確信がなかった。
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‟ううううう……よかった…よがったわ。きっと成仏できたわ……きっとね”
隣でアニメを見ながら幻覚女が幻覚のハンカチを濡らして滂沱と涙をこぼしている。
「あー、まあ、感動的な結末ではあったな。今回のメリーさんの話は――ん、メリーさん……?」
途端にスマホに『メリーさん@アホの子』からの着信がきた。
「――噂をすれば影とはよく言ったもんだなぁ」
そうぼやきながら電話に出てみると、電話の向こうから能天気な幼女の歌声が聞こえる。
『♪てーきをー あざむく ハゲ! ハゲ! ハゲ~ッ! ひっさつ~ 真空独楽回し~ィィィ。――ということで、あたしメリーさんいまだに異世界にいるの……』
「……感動の余韻が軒並みぶち壊しだ、おいこら! てゆーか、お前、ぬ~○~に説得されて成仏したんじゃないのか?」
『??? なんかいきなり理不尽な絡み方をされてるの。あと、令和の時代にいまさら、ぬ~○~とか平成初期の話をされて、逆切れされるいわれはないの……!』
「昭和もど真ん中なポリマーの歌うたってた幼女が、平成を遥かな過去の話みたいに流すんじゃねーよ! あと、令和になったからリメイクされたんだ。つーわけで返せよ、俺の感動を! さらっと成仏しろよ!」
心なしか幻覚女も尻馬に乗って、
‟そうよそうよ! 成仏して神様のもとへ行くのがこの世の摂理ってものよ!”
両手を振り回して力説していた。
しかしながら、そんな俺たちの抗議もなんのその、現実(?)が電話の向こうで不機嫌そうな声を放つ。
『漫画と現実を混同しないで欲しいの。あ、そういえば聞いた話では、最近は六道に新規エリアが追加されたらしいの……』
ちなみに『六道』というのは、
・天道: 天人が住む世界で、享楽に満ちている
・人間道: 人間が住む世界で、苦しみと喜びが共存している
・修羅道: 阿修羅が住む世界で、戦いと嫉妬が特徴
・畜生道: 動物の世界で、本能に従って生きる苦しみがある
・餓鬼道: 常に飢えと渇きに苦しむ世界
・地獄道: 最も激しい苦しみが続く世界
というのがオーソドックスな数え方だが――。
「増えるもんなのか、あれ……?」
『当たり前なの。TDLだってジョーバンハワイアンセンターだって常にアトラクションを更新しないと、新規顧客は得られないの』
「いや、ハワイアンはずいぶん前に名前が変わったぞ」
俺のツッコミをスルーして続けるメリーさん。
『ちょっと前から「まんが道」とかいうのもあって、一日三十時間、描いても描いても締め切りに追われて、なおかつ世間の評価でズタボロになるという鬼畜な世界なの。メリーさんの知り合いのS-H(イニシャル)漫画家も、変な竹人間集団にプレッシャーをかけられ、さらにイノセントな一般人から「本当に四巻出るの?」とかSNSで呟かれて煩悶してるの……』
「うわぁ……気の毒に。なんか他人事とは思えんな。読者様にはぜひS-H先生に励ましのお便りをお願いしたいわ!」
『他にも「サラリーマン道」「受験道」とか。「レスバ道」はなんかやたら口喧嘩吹っ掛けてきて、論破しようとするのでやばいの、論破される前に殺すしかないの。――そうそう、最近は「AI道」とかもできて、いろいろとストレスフルな冥府魔道な世界が開拓されているらしいの……』
素朴な俺の疑問に、心なしか電話の向こうでドヤ顔で答えるメリーさん。
死んだ後でもろくなことないな現代人。
『どーでもいいけど、現代社会だとコンピュータが、バビ○の塔並みになんでもやってくれるって本当なの……?』
「いや、なんでもじゃないぞ。割とポンコツだし、たまに変なこと言い出すし。基本的に信用しない方がいい相手だ」
そう強く言うとメリーさんが小首を傾げた気配がした。
『コンピュータってインディアン並みに嘘つかない設定じゃなかったの……?』
「いいや、噓つきまくるし、嘘に嘘を重ねて誤魔化しやがる。コンピュータが信用できるなんてのは、過去の都市伝説だ」
『AIの都市伝説っているのかしら……? 最近、そっちの業界とつながりが薄くなったので、知らないんだけど』
なおメリーさん曰く、異世界に行く前は肩で風切ってブイブイ言わせていたそうである。
『地下都市伝説トーナメントでは、一回戦で「でか~い!説明不要っ。八尺様だ!!」という、身長約240㎝の巨大女と戦ったの……』
その話を聞いた俺はとりあえず眉に唾を付けた。
「AIの都市伝説ねえ。そういえば樺音先輩が言ってたけど、海外では『チクタクマン』ってのがいて、AI全部を統括してるやつで、正体はニャルラト……なんとかって邪神の化身だとかいないとか……。なんでも時計人間みたいに時間とかデータとか弄くり回すらしい」
ま、ただのプログラミングミスかバグの類いだろう。
『メリーさん思うんだけど、「バビ○二世」って怪しいと思うの。そもそも最初の宇宙人なバビ○一世の子孫な段階で、地球人との間に子供がいたはずなのにそれを無視して、五千年後の子孫を二世にするとかおかしいの。だいたいもともとただの人間だったのに、バビ○の塔で調整受けたら一世と同等の超能力を使えるようになったし、親に対する情とかなくなったし、そう考えるとアレって実は中身がバビ○一世にすり替わってるんじゃないかしら? 五千年くらい科学が発達すればもとの星に帰れると見込んで、憑依する機会を窺っていたの。だから「バビ○二世」じゃなくて、「バビ○偽者」なの……』
「――馬鹿ってたまに本質を突くよなあ……。とりあえず、お前が俺の話を全然聞いてなかったのはわかった。あと、異世界にいる設定なのに、どっからそういう妙な話を仕入れて来るんだ?」
『最近は「オーラロード」とか「レインボーロード」。「マシン空間ハイウェイ」「クォンタム・ストリーム」「光の道」「虚圏の黒腔」「ねじれた冥界」とか、なんかゴチャゴチャと異世界へ通じる道が複雑に交差して、時たまこっちの世界に妙な連中が迷い込んでくるらしいの。そういうのをナジミの商人が情報として教えてくれるの……』
「馴染みの商人って、もしかしてストロングニートタウンにいた怪しげな商人の事か? 生きてたのか?」
まあ『憎まれっ子世にはばかる』『悪い奴ほどよく眠る』とかいうからなあ。
『神から神託があって、町が滅びる前にさっさと逃げたらしいの。あと、もともと「ナジミマーケットグループ」の本店が王都にあったらしくて、メリーさんたちそのナジミの店で大抵の品物を大特価サービスで買ってるの……』
なるほど――って、まてまて!
「もしかして『ナジミ』って名前なのか!? 『ナジミの商人』とか『ナジミの店』とかいうのは、そのまんま額面通りの意味なのか!!?」
『そうだけど……?』
それがどうした言わんばかりのメリーさん。
『あとどうでもいいけど、勝手にオリーヴとかメリーさん名義でツケで買い物するの。けしからんの……!』
『ちょっと待った!』
憤慨するメリーさんの台詞が聞こえたのだろう、オリーヴがすかさず異議を申し立てる。
『メリーさん、人間国宝が「弟子を育てる」という名目で補助金貰ってるのと同じで、私とスズカ、ローラ、エマを‟弟子”って名義で申請して、国から大金巻き上げてるわよね!? ネタは上がってるのよ! だったら、弟子として私らもそれを使う権利があるはずよ!!』
『あたしメリーさん。だからって勝手に使うのは泥棒なの。だいたい最近は街頭ヘボ占いで「大地震が起きる」とか「120mの津波が王都を襲う」とか寝言ほざいて、それなりに稼いでいるの知ってるの。自分のものは自分の金で買えばいいの……』
割と真っ当な主張に、スマホの向こうでオリーヴが『うっ……!』と呻いた。
『な、ナンノコトかしら~? か、か、稼ぎなんてないよ~~』
露骨に口調が胡散臭く浮ついている。
『だったら、その場でジャンプするの、ジャンプ……!!』
包丁構えてメリーさんが強要している様子が、見るまでもなくありありと想像できる。どう見てもカツアゲです。本当にありがとうございました。
慌ててオリーヴがジャンプするのに合わせて、『ペイペイ♪』という軽快な音がその懐から響く。
「……どーいうシステムかいまいちわからんけど、なんか隠しているのはわかった」
俺のコメントにメリーさんも同意する。
『後で詳しい話をするとして、ジャンプで思い出したけど、ぬ~○~がいた頃って、ナントか五射精が戦ってた頃かしら……?』
「なんか微妙に字が違うような気がするけど……。確かアレはとっくに終わった後で、時期的には剣心が京都で奥義覚えようとしていた頃じゃなかったか?」
『お~~、京都なの。‟そうだ京都へ移行”なの。こっちの世界にも新撰組――「シン・新撰組」という底辺騎士団があるけど……』
「庵野○明監督風味のある名の騎士団だな」
『王都の騎士団はだいたい国家公務員騎士なの。有名なのが王宮を護衛する近衛騎士団「なかよし騎士団」とか、女騎士ばかりの「リボンの騎士団」とか……』
「『なかよし』とか『リボン』とか、まったくエリート臭のしない名称の騎士団だなあ」
ついでに魔物や魔族と戦うファンタジー世界の殺伐さも欠片もない。
‟私はどっちかというと「ちゃお」の方が好きだったわね”
「少女漫画の話をしてるわけでは……てゆーか、近衛騎士団以外にも騎士団はいるのか?」
『他にも王都の騎士団は王都の治安維持と民間に啓もう活動をする、第一騎士団の「白の騎士団」から――』
「ああ、あの女性の下着は純白以外は認めない、原理主義者のオモシロ変態騎士団か」
噂では隠れた支持率が高いらしい。
『あと犬猿の仲の第二騎士団「黒の騎士団」は、実は「白の騎士団」の初代団長が黒に転んで組織を裏切って、新たに同好の士を集めて組織したそうなの。この間も、町中で黒騎士団長と現白騎士のエースが段平振り回してやり合ってたの……』
なおその対決シーンをメリーさんが見物していたところでは、現エース騎士が実はその初代団長の実の息子であることが明かされ、
「お前は……本当に俺の父さんなのか……!?」
「 I am your father. そしてお前も……いつかこの黒の心地よさに目覚める時が来る……」
「!!!」
いろいろと衝撃の展開だったらしい。
『白・黒の他にも、抹茶騎士団、あがり騎士団、さくら騎士団、コーヒー騎士団、ゆず騎士団と第七騎士団まであって、団長たちが全員揃って念じると、王都を守る守護ガーディアンが動くらしいの。ダッシュ・セブンなの……いまのところ、無理だと思うけど。代わりに十匹魔獣を使役して番犬代わりに使ってるの。七つの軍団、十匹の魔物なの……なんか昔からの伝承なの』
「情報量が多いな。つーか、新撰組の話はどうした?」
こいつに話させるとどんどん話が脱線して、全然知らんきさらぎ駅に行ってしまうので、逐次ツッコミを入れなければならん。
あと、小耳に挟んだらしいスズカが、
『名古屋の「青柳ういろう」の話ですか?』
と聞き返す声が聞こえた。
『「シン・新撰組」はジリオラのところの公爵家がパトロンになって、腕はいいけど人格破綻している剣士とか、協調性皆無の傭兵とかをまとめて騎士にした、私設騎士団だから底辺なの……』
無視して俺の質問に答えるメリーさん。
まあ史実の新撰組も最初は会津藩が金だけ出して、浪人集めただけの無頼集団だったからなあ。
『寄せ集めの騎士団なので、ちょくちょく下剋上で騎士団長が闇討ちとか不意討ちとかで仲間にぶっ殺されて、入れ替わりが激しいの。騎士団長殺しなの……!』
「よくそんな組織が存続できるよなあ」
『ギョウチュウハットなの。鉄の掟なの……! 作った鬼の副長は、函館で死んだふりして、いまだに生きて仙台で漫画家やってるって噂なの……』
「ああ、その話は俺も聞いたことがある」
石仮面かぶったとか、波紋法を会得しているとか。
‟てゆーかさ。もともと『ぬ~○~』の話じゃなかったの?”
釈然としない表情で幻覚女が口を挟んできた。
「……ああ、そういえばそうだった。――結局、ぬ~○~との関りはないわけだな、お前は?」
念のために確認してみる。
『昔の事なので忘れてたけど、そういえば変な手をした小学校教師がいきなり襲ってきたので、モンゴルの掟に従って、話し合いの前に暴力で片を付けたことはあったわね……』
やはり暴力。暴力はすべてを解決する。
『ちなみに、あの地獄狂師を相手した時には、砂場でメリーさんが遊んでた人形の五体がバラバラになって行方不明になったから、そこら辺にいた小学生にも協力させてパーツを探してたとこ……』
「バラバラになった人形って、アレか――カガクちゃん人形か?」
アニメだとそんな感じだった。
『ううん。あなたの持ってた、マグネロボの「鋼鉄○ーグ」と「ガ・○-ン」と「バラ○ック」なの……』
「いつの間にかパーツがなくなることで定評のある磁石合体超合金ばかりじゃないか! つーか、砂場で遊んだり埋めたりするなって注意書きに書いてあっただろう!!」
そういえば俺が持ってた超合金、いつの間にか顔の部分に足がついてたり、胴体部分に他のロボの部品ついてたりしたことがちょくちょくあったなぁ。
てっきり義妹の真季の仕業かと思ってたんだけど……。
『で、メリーさんといえば包丁という先入観を利用して、あえて武器を手放したことで相手の意表を突く、イロコイ族やナバホ族の戦法を使って、最終的にその辺のレンガでボコボコにしたけど、バッ○マンみたいに殺さずに徹底的に半殺しにして、素っ裸にしてビルから逆さづりにしたの……』
「それは、殺した方が情けだったんじゃないかなあ……」
というか、そんな内訳を喋るわけにはいかないので、感動話にして誤魔化したのではあるまいか……?
そんな疑心暗鬼に囚われる俺がいた。
4/18 修正・加筆しました。




