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番外編 あたしメリーさん。いま強盗団に誘拐されたの……。(中編-①)

4/4 9:30~とりあえず1時間でどこまで書けるかチャレンジ

 品の良い店だと思っていたが、秋葉原近郊という場所柄の問題(せい)か、案外客層は玉石混淆(ぎょくせきこんこう)だったようで、ランチタイムとあいまって空気の読めない(KYな)ナントカ世代の若者が、

「あの女狐(スベタ)、オッパイ魔人っ! このあたしを差し置いてお義兄ちゃんの筆おろしをしようとはいい度胸だーっ!! ここにある南部鉄器で脳天叩き割ってやる~~っ!」

 心なしか聞き覚えのあるようなJKの叫びが響き渡り、

「確かに! 裏切者でござる! 拙者を蚊帳の外にして、会長殿のあのプルンと大きな胸を独り占めしようとは許せんでござる!!」

「OH! フタリとも殿中……じゃなかった、店内でござるよ!! 刃傷(ニンジョウ)沙汰からの切腹(ハラキリ)、ゲイシャ、フジヤーマ♪」

「まあまあ、落ち着いて。きちんと話を聞いてから判断しようよ」

「あら、いけませんわ。ミラクルボイスを吹いてティンダロスの猟犬を召喚するのは。念のために口元も縛りますわね」

 少し離れた席でランチメニューを食べていた挙動不審なグループ客が、何やらドタバタと立ったり座ったり羽交い絞めしたりチョークスリーパーをかけたりと、はた迷惑な騒ぎを起こしていた。


 なんとなく既視感のある連中のシルエットに気もそぞろになるのを、どうにか抑制して樺音(ハナコ)先輩の話に耳を傾ける。

「あ……いえ……ちょっとテンパって順番を間違えたけど、『つき合って』っていうのは――」

「つまりチー牛ストーカーを断固断るために、恋人のフリをしろと? 水戸黄門で助さんがたまに引き受ける役ですよね」

 定石というかパターンを踏襲して、俺の方から水を向けると、

「ああ、うん……早い話が……そう…なんだけど(トントン拍子に話が進み過ぎて、上刀山(シヤンタオシヤン)下火海(シアフオハイ)で夕べ眠れずに覚悟完了してきた私の乙女心が、なんか釈然としないというか)」

 なぜか釈然としない顔をされた。


 はて? 何が先輩の不興を買ったのだろう。


「あぁ……テレ玉で放送中の『うんピー星人VSナローマン』の話でしたっけ? とかボケたほうがよかったですか?」

「意味不明だし! 真面目な相談をしている時に、そんな返しをされたらさすがに私でも怒るわよっ」

「じゃあ真面目な話で、『父親がアル中の精神病で、目を離したら母親を殺そうとするから未だにこどおじやっとるわ。周りの目を気にしなければ最強やね』と、考古学の内藤准教授がゼミの途中で必ず一度はぼやく件について――」

「さっさと大学に報告して、しかるべき処置を取ってもらいなさい! なんだったら私が手配するわ!」

「ああ、黄色い救急車を呼ぶんですね」

 この場合、連れて行ってもらうのはアル中の父親の方だろうか? それとも内藤准教授自身だろうか? あるいは家族全員?


 悩んでいる間に騒々しいグループは退店(追い出された?)させられたらしく、出入り口付近で精算がてら、何やら駄弁っていた。

 なお、特に騒々しかったJK風の女子と、秋葉原に量産型が(たむろ)していそうな小太りの男は、店員によってアメリカ人の愛するダクトテープで、全身をグルグル巻きにされ(ちゃんと服につかないように茣蓙(ゴザ)(くる)むところに美意識が感じられる)、簀巻き状態で足元に転がっている。


「要するにその筑井(ちい) 毅祐(ぎゆう)という不埒者(ふらちもの)をどうにかすれば、恋人がどうのこうのという大義名分はなくなるのではないのですか?」

 艶やかな黒髪に古い形式のセーラー服という、これまたどこかで見たことがあるようなJC風の少女の提案に、

「そうだね。嫌がる女性に付きまとうなんて男の風下にも置けないし、ネットで検索すれば〝筑井(ちい)建設”でヒットするんじゃないかな?」

 頷いた優男の大学一年生風の青年。

「OH~! この『筑井建設株式会社 常務 筑井毅祐』ってのがそーじゃないですカ~? 顔写真もありま~す」

 早速スマホをポチポチやっていた、短髪で金髪の胡散臭い似非(エセ)外国人風のイントネーションで、同い年ぐらいの長身の異人さんが画面を印籠のように見せつける。


 照明が薄暗いので俺の方からはさすがに画面までは判別できないが、

「「……典型的なチー牛(だね)(ですわね)」」

 非常に納得した合の手が返されたのだった。


 ともあれ――。

「えーと、それで……その、いいの……かな?」

 おずおずと確認してくる樺音(ハナコ)先輩に向かって、俺は軽く胸を叩いて請け負う。

「いーですよ。いつも先輩にはお世話になっていますから、お安い御用です。そのチー牛とやらの前で恋人同士のフリをすればいいわけですよね」

「ええ、まあ、フリというか……ごにょごにょ……」

 曖昧に頷く樺音(ハナコ)先輩。


 最後の方、マジで何言っているのか聞こえなかったけど、まあ何とかなるだろう。

 なお、支払いは先輩が「お礼がてら」またもや奢ってくれたけれど、想定の十倍を超える食事代に、密かに足腰が震えたのだった。

※「玉石混交」は、本来は「玉石混淆」と表記しますが、「淆」が常用外漢字のため代用として「交」の字が使われています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何しにに来たんだ、あの連中。 騒がしいのは予定通りに追い出されたが、教え子はサラッと会話に入ってきてたな。 やはり、本体は人形? [一言] 懐かしいですね。 黄色救急車。 そういや、黄色い…
[気になる点] >ああ、黄色い救急車を呼ぶんですね 119番に電話して黄色い救急車を頼んだら、どんな回答が帰ってくるのか 試した人はいませんか?
[一言] >上刀山下火海 そんな中国のコトワザがあったなんて・・・上は洪水下は大火事なーんだ?のなぞなぞかな?と思いましたね 答えがお風呂で納得するの、薪で沸かす世代までですね。
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