第1話 追放
追放系の新作です。テンプレはある程度抑えた上で、オリジナリティに富んだ物語を書いていく予定です。楽しんでいただけると幸いです。
「リューオ、お前はこのパーティーから追放だ。今すぐこの場から失せろ」
「……え?」
僕の所属しているパーティー『気炎万丈』のリーダーであるシャーベから、突然告げられたその言葉の意味を、僕はすぐに理解することが出来なかった。
「え、追放って、どういうこと……?」
「ようやくこの役立たずとおさらば出来るんだね! はー、せいせいする!」
「こんな奴よりも、もっと優秀なスキルが使える冒険者を早くスカウトしに行こうぜ」
パーティーのメンバーであるアリネとゴンドが、シャーべの言葉に同調する。まるで、僕の追放はもう決定していると言わんばかりに。
「おい愚図、最後に何か言いたいことはあるか?」
そう僕に問いかけるシャーベは、氷のように冷たい笑みを浮かべていた。
「……な、なんで……今まで僕は、パーティーのために、必死に頑張ってきたのに……」
「ああ? 今までお前が俺たちのために何をしたっていうんだよ。お前の雑魚スキル『武器強化』が役に立ったことがあるのか?」
「そんな……僕はいつも皆をサポートしてるよ……!」
「それが役立たずだって言ってるんだよ馬鹿が! 仲間にしょうもないバフをかけるだけのお前は、冒険者として高みを目指す俺たちにとって不要な存在なんだよ!」
シャーベの叫びが僕の心を抉る。僕は何も言葉を返さず、ただ拳を握りしめることしか出来なかった。
反論しようと思えば、出来た。外れスキル持ちの冒険者なりに、今まで精一杯頑張ってきたつもりだ。でも、いくら反論したところで、パーティーからの追放は避けられないと僕は悟っていた。
「…………」
「おっと、そのままでは行かせないぜ。今日の戦闘で手に入れた魔石を全てよこせ。役立たずのお前が魔石を持って帰る資格はない。それに金もよこしな。あ、金に関しては少しだけ残しといてやるよ。俺は意外と優しいからなぁ」
その場から去ろうとした僕の前にシャーベが立ち塞がる。僕は要求されるまま、手持ちの魔石と有り金の殆どをシャーベに渡し、無言でその場から走り去った。
3人の嘲笑を背に、僕はひたすら走った。走り、走り、転移結晶を使ってダンジョンから街にワープした。冒険者として活動するにあたり、ずっと前から拠点にしている街だ。
すっかり夜が更け、街中に人の気配は殆ど見当たらない。僕はよろよろと道の端まで歩き、崩れ落ちるように座り込んだ。
◆
この世界において全ての人間は、生まれた瞬間に『スキル』が1つ授けられる。理屈はよく分からないが、とにかくそれがこの世界の摂理だ。
授かったスキルが、生活の中でどの程度役立つかは当人の環境や職種、生活スタイル次第。だが、『冒険者』として生きる人間はその仕事柄、スキルを使う機会が極めて多い故に、どんなスキルを授かるかはかなり重要になる。
古の時代からスキルの調査に特化した研究機関が存在しており、その機関は6つのクラスによるスキルの区分の概念を提唱している。
第1位 神級
第2位 金級
第3位 銀級
第4位 銅級
第5位 黒級
第6位 白級
全てのスキルはこの6つのランクのどれかに分類されており、上のランクになるにつれて希少性が上がる。例えば第2位の金級スキルを授かる確率はめちゃくちゃ低いし、第1位の神級スキルに関しては珍しすぎるあまり存在自体が怪しまれているくらいだ。
このランク付けはあくまで希少性に基づく分類であり、ランクとスキルの強さには必ずしも相関関係はない……とはされている。しかし、冒険者の世界では「高ランクのスキル=強い 低ランクのスキル=弱い」という誤った認識が未だに根付いているのが現状だ。どんなスキルでも鍛錬を重ねることで強化されるし、必ず活用の方法がある……という事実を分かってない冒険者は多い。例えばシャーベとか。
シャーベは銅級スキル『炎撃』、アリネは銅級スキル『妖魔術』、ゴンドは銅級スキル『鋼撃』を授かっていた。それに比べて僕、リューオ・アルブレードのスキルは1番下の白級に分類される『武器強化』。読んで字の如く、自分や仲間の武器の性能を強化するスキル。分かりやすく言えば、バフをかけるってことだ。他の3人のような、ガンガン攻撃するスキルと比べて効果は地味だし、人によっては恩恵を感じにくいスキルといえるだろう。
気炎万丈に所属していた時は、自分なりにスキルをフル活用して皆をサポートしていたつもりだった。それでも、3人は最後まで僕のスキルを、頑張りを、認めてくれなかった。それどころか3人は何かあったら僕に失敗を押し付け、責任を転嫁し、ピンチになったら僕はいつも盾にされた。
それでも……田舎育ちで、白級スキル持ちで、何の実績もコネも無い僕を拾ってくれた3人に対する感謝の気持ちは少なからずあった。だから、今日まで歯を食いしばって頑張ってきたんだけど……。
「はあ……」
夜の街を眺めながら、何度目か分からない溜め息をつく。疲労からか、それとも、パーティーを追放された悲しみによるものか、なんだか頭が痛い。
これからどうすればいいんだろう。新しい誰かとパーティーを組む? いや、こんな僕とパーティーを組んでくれる人なんてどうせ誰もいない。
ああ、もう、どうしよう……頭痛いし……頭痛い……え、ちょ、なんかめちゃくちゃ頭痛いんだけど。
《パーティーからの追放により、開眼に必要な量のストレス値の蓄積を達成しました。リューオ・アルブレードは只今をもって神級スキル『武器錬成』を開眼します。開眼に伴う一時的な頭痛に備えてください》
ぐえええめっちゃ痛い……って何だこの声? なんか頭の中で声が聞こえるぞ?
《最終フェーズに突入します。神級スキルの開眼に伴う一時的な衝撃に備えてください。尚、『武器強化』は今まで通り使用可能です》
「うおおおおっ!?」
謎の声が聞こえたと思ったその時、全身に強烈な負荷がかかり、僕は思わず声を漏らした。何かに攻撃されていると錯覚し、僕は両腕で頭をガードする。ここはダンジョンではないから攻撃されるなんてありえない、と思いつつ、じっと目を閉じて頭をガードし続ける。
混乱の中、やがて謎の負荷は消え去り、謎の声も聞こえなくなった。僕は恐る恐る目を開ける。
「何だったんだ、今の……?」
周りを見渡すも、いつもと変わらぬ街の風景しか目に入らない。
「はは……疲れすぎて頭がおかしくなっちゃったのかな……」
気持ちを切り替え、僕はよろよろと立ち上がった。いつまでもこうしてるわけにはいかない。まずは……宿に行って休もう。
「ひとまずソロの冒険者として活動していくと仮定して……まずは難易度の低いクエストをこなして資金貯めかな……あーまずは剣の新調をしなきゃ……いや、でもお金無いしなぁ……どうしよう……」
ぶつぶつと呟きながら僕は宿へ向かう。
《承知しました。0.7秒で<シルバーソード>の錬成が完了します》
再び謎の声が聞こえた気がした。疲労で脳がバグっているのだろうか。早く宿に行って休もう。
その時。突然右手に違和感を感じた。何も握ってないはずなのに、何かを握っている感触。触覚までおかしくなったのかと思いつつ、右手に視線を向ける。
僕の右手には、見覚えのない真新しい銀製の剣が握られていた。
「は!?」
意味不明すぎる事態に、思わず僕の口から素っ頓狂な声が漏れる。
「おい、君」
「ふああっ!?」
さらに突然背後から声をかけられ、僕は飛び上がった。驚きで手から剣が離れ、落下と同時にカラン、と音が鳴った。
目の前には、銀色の鎧に身を包んだ1人の女性が佇んでいた。身長170センチの僕と比べて、女性は10センチほど背が低い。どこか見覚えがある気がするが、今はそれどころじゃない。
「あ、えっと、これは違うんです! なんか急に突然、気付いたら剣を握ってて、どこかから盗んだとかそういうわけじゃないんです! その、つまりこの剣は僕のものじゃなくて、何を言ってるか分からないと思うんですけど、万引きとかそういうわけでは決してないんですっ!」
僕は混乱しながら、目の前の女性に対して自分は犯罪者じゃないことを必死に説明する。
「別に君がその剣を盗んだと思ってるわけじゃない。失礼を承知で言わせてもらうと、私は君の様子を少し前から観察していたんだ。君は今、この剣を錬成したんだろう? 君の神級スキルで」
謎の女性は、足元に落ちている剣を拾いあげ、静かな口調で言った。月明かり、そして街灯に照らされたその女性の美しさに、僕は思わず息を呑んだ。
夜風になびく、金髪のショートボブ。神々からの寵愛を一身に受けたかのような、整った綺麗な顔立ち。銀色の鎧、鎧の上からでも視認出来るスタイルの良さ。その鎧に刻まれた青い紋章、腰から下げた一振りの刀。
その美しさ、そして紋章を目の当たりにして、ようやく僕は、目の前の女性が誰であるかに気付いた。選りすぐりの冒険者集団である『聖帝騎士団』の団長であり、のべ数十万を超える冒険者全体の中で序列2位を誇り、《剣聖》の異名を持つ最強の……
「おっとすまない、自己紹介がまだだったな。はじめまして、私はミラエル・ソードフレア。聖帝騎士団に所属している冒険者だ。不躾なお願いになってしまい申し訳ないんだが、君の力を貸してほしい。君の神級スキル『武器錬成』を、私の目的のために使ってほしいんだ」
パーティーを追放された冒険者と、《剣聖》を冠する女騎士の邂逅。その邂逅が、この世界の運命を大きく左右することを、今はまだ誰も知らない。
シャーベは、シャーベットという単語から思いついた名前です。こういう言葉遊びは結構好きです。ところでシャーベットとアイスクリームの違いは何なんでしょうか? 調べたところ、乳成分の量と食感が異なるようです。ちなみに自分の好きなアイスはチョコモナカジャンボです。




