2話
2話
2025年10月27日。
日本シリーズは終わり、今年も西日本は負けた。
今年進出した広島を連日非難している新聞を読みながら、指定された場所へ向かって空港を歩く。
(また年内は続くだろうな)
案内表示を確認しながら歩いていると――
「よぉ、田辺」
今一番非難を浴びている当事者、広島ゴールドフィッシュのキャプテン赤井が声をかけてきた。
「ああ」
短く返し、そのまま並んで歩く。
「ったく、どこもかしこも“京都が出てれば”“大阪だったら”だ。
今年勝ったのは俺らだってーのによ。誰も17年ぶりの進出を祝ってくれねぇ」
俺の持っている新聞を覗き込みながら、赤井は大きくため息をついた。
「ぼやくな。マスコミに聞かれたら面倒だぞ」
更に後ろからそっと声をかけられた。
振り向くと、神戸ブルーサーファーズのエース兼キャプテン、山木だった。
「肩は大丈夫なのか?」
今年の山木は春のキャンプで故障し、一度も登板していない。
「あぁ、まぁ……今年で引退だ。肩がもう上がらん」
「そうか」
同年代がまた一人辞める。
それだけで、少し気が沈む。
「去年の日本シリーズで先発3連投したのが原因だろ。3日で500球ってバカだろバカ!」
赤井が空気を変える為だろう、明るく絡んでくる。
「はは。まぁそれだ。でもそれで去年は勝てたから俺は満足だよ」
心からの言葉だろう。山木の顔に後悔は感じなかった。
「引退の発表は年明けらしい。ただ…お前らも覚悟しとけ。」
山木の顔つきが少し険しくなる。
「多分今回呼ばれたメンバー、全員引退。そして監督就任まであるぞ」
山木は真剣な顔で言った。
「薄々感じてるよ」
この前の監督からの呼び出し。
今回の視察。
来年の契約についても、まだ何も話がない。
また前回の監督交代から全球団25年が経つ。
21世紀になった年に一斉交代があり、その時も俺たちのような現役選手からの選出だった。
小声で話しながら歩いているうちに集合場所に着いた。
すでに他の三人は揃っており、三重フェニックスの福田、福岡ファルコンズの柳が軽く頭を下げ挨拶してくれるが、
「遅いぞ」
大阪ジャガーズの筧がむすっとした口調で詰め寄ってくる。
「まだ30分前だぞ。お前ら何時からいるんだよ」
「こいつらは1時間前。俺は昨日の夜からいる」
「前乗りかよ」
バカ真面目な筧らしくて、少し笑ってしまった。
だが筧がピリピリし始めたことで、俺たちは集合時間まで無言で過ごすことになった。
「待たせたね」
集合時間を少し過ぎた頃、黒服の護衛を連れた恰幅のいい初老の男が声をかけてきた。
お偉いさんだろう。
「いえ!今来たところです!」
筧が敬礼し、大きな声で返す。
(お前、昨日の夜からだろ)
俺たちも続いて敬礼するが、心の中では悪態をつく。
「そうか。君たちには来年、監督をしてもらうことになる。そのつもりでな」
初老の男は続けた。
「今年は負けてしまったが、来年は停戦100年の区切りだ。絶対に勝たねばならん。……今年は負けてしまったがな」
「申し訳ありませんでした!」
嫌味に対して赤井が勢いよく頭を下げる。
「まぁ来年絶対勝てばいい。絶対にな。
今回のアメリカ視察は正直、国民へのアピールだ。適当にやってくれ」
それだけ言い残し、男は護衛とともに搭乗ゲートへ向かった。
俺たちも後に続く。
空気は重かった。




