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71 願われた存在の果て

魔族の大胆な宣言を受けて、各国は慌て、緊急でそれぞれ会議が開かれていく。


リーディア商業連合国も同様だ。


メルポポについて領主を決めて落ち着いていくかと思ったら、全く違う問題が噴出したのである。


「これは罠です、魔族を国内に入れるなど、何があるかわかりません、ことが起こってからでは遅いのです」


と、慎重な代表の一人は言う。それはそうだ、毒を抱え込みたい者などいるはずもない。


「我々としては、魔王軍討伐に向けて兵を送った損害があるものの、領土的にはまだ危機にさらされてはいません。いっそ、今、友好関係を築き、先の安全を確保したほうがいいのでは?」


「そうは言うが信用できるのか。それに、瘴気については我々にはメルポポの妖精たちがおる。急いで決める必要はないのではないか?」


「国内には、魔王軍に国を追われた難民もおります、市民の感情も憂慮すべきかと」


「しかし、手をこまねいていたら、魔族側がここで締め切ります、と言ってくる可能性もあるのではないか?」


「そもそも、魔族側の狙いがわかりません。彼らに何の得があるのでしょう」


「それなら領土を認めさせたい、というのはあるのではないか?」


「だとしても、我々には対抗する手段がないのだ。そもそも好きに版図を広げることだってできよう。我々に領土を認めさせる意味など、ないのではないのか?」


「サナムーン王国は先んじて、友好を結んでいる。その結果を見てから判断してはいかんのか?」


「いま、魔族側は侵略を進めているわけではありません。様子を見てもいいのではないかと」


そうして、リーディアの代表たちは、様子を見る、という方向で進めることとした。


それができた背景には、メルポポの妖精や、キルクス王国消滅の要因をわずかばかり知っていたことも大きい。


反対に、領土を侵略されている国家、侵略された国家は様々な解釈と方針となった。


やはり魔族への恨みがあり、断固拒否する、と考える者たちもいた。


反対に、これ以上領土を脅かされないのなら、ここで友好を結んだほうがいいのでは、と考える者たちもいたのである。


そして、これに猛烈に反対を表明したのがルジャーナ大聖教である。何人たりとも悪魔に耳を貸すことなかれと、喧伝したのである。


分裂したとはいえ、ルジャーナ大聖教が言うのなら信じよう、という人たちもたくさんいる。


世界は混沌にのまれていった。


#


蒼月采蓮(あおつき あやね)は、魔族ココのライブを楽しんでいたのを家のソファーでまったりしながら思い出す。


うん、いいよね、ああいう歌と踊りと演出、まさにそう、ああいう音楽を求めていたのだ。久しぶりに、元の世界風の曲や映像が見れたことがうれしい。


願わくば、男性アイドルユニットも作ってほしいものだ。そう、一人じゃなく複数のを。


「サフィーは、魔族の歌と踊りのやつ、どう思った?」


「そうですね。なんだか、元気がでそうな曲でしたし、会場にいた魔族の人たちは楽しそうで、素敵だと思いました」


「うん、争わなくていいなら、それに越したことはないよね」


「はい。いろんなことを言う人もいますけど、私たちも同じように、メルポポの秋の祭りが盛り上がったらいいなって思います。そういえば、秋の祭りでは、料理対決もあるみたいですけど、アオツキ様は出場されるんですか?」


「私は、審査員やってって言われてるよ」


「あらら」


「話は戻るけど、ああいう歌とか映像とか、いつでも好きな時に見られたらいいのにねぇ」


「そうですねぇ」


翌日、新聞には次のような新技術が掲載され、販売も目前と書かれていた。


音を記憶し再生するという魔導レコードなるものが発表されたのである。


#


魔王レイズガットは都市エンシュラティアで側近と、そしてミリシアをまじえ会議をしていた。


「小国も含めると現在六カ国から、友好を結びたいと打診がありました」


「うむ、ミリシア、今回は失敗できん。各国の本心の調査、ならびに、警戒すべきことの確認などは可能か?」


「はい、お任せください」


「では、その調査と結果の報告を頼む」


「わかりました」


そして、側近の一人が言った。


「しかし融和路線とは、よかったのでしょうか、こちらは守りに徹するだけでもよかったはずです」


「繰り返される時代の流れを変えられるかもしれんのだ。コルトがくれたチャンスだ。魔族とその他という対立構造を変革させる。後世の魔族のためにな」


「魔王様がいうならしかたがねぇが、これまで排斥してきたすべてを水に流せるかってぇとな」


「それは我も同じよ。だが、やつらの中にも、共に歩める者がいるのかもしれん。まずは、それを見極めようではないか。万一のことがあっても対応できるよう、ミリシアに協力を仰いでいる」


「もちろんです」


「もし、こたびの件、いくつかの国と手を取って進める流れができたら、我は魔王を退位しようと思う」


「「「魔王様!」」」


「新しい時代を築くのに、我では不適格だ。次、どうするか、しっかりと考えておけ」


そうして、魔王レイズガットは、会議場を後にした。


#


定期的に開かれる、魔族ココちゃんのライブパフォーマンスのスクリーン映像は今やおなじみとなり、皆の楽しみの一つになっていった。それは、魔族、人間、エルフ、ドワーフ、小人、獣人など関係なくである。一部、反発する者はいるものの、この熱狂は続いており、毎週楽しみにそれを待ち望んでいる人がほとんどである。


こうしたパフォーマンスと、新聞のメルポポが権利を持つ紙面、ムルププブックスのマンガや本、などの影響もあり、魔族に対して、好意的な目で見る人達が増えたのである。


いくら、魔族は敵だと叫ぶルジャーナ大聖教が声高に叫ぼうとも、もはやその声は届かなくなっていた。


それはとても簡単な理由だった。メディア戦略が根本的に違うのである。ルジャーナ大聖教の戦略は中世の時代のもの、それに対して、魔族側はテレビと新聞の時代のものであり、情報を伝え広める力は圧倒的格差があったのである。


さらに、友好を結んだ国とも順調に魔族は対応し、ことを進め、瘴気が魔族の魔術で霧散することが分かってくれば、状況はさらに変わってくる。


裏切りを画策していた国や、魔族との友好などけしからんと妨害を試みた者たちはすべて、物知り妖精たちを使ったミリシアの情報で適切に対処されたのである。


そうしていくと、魔王の側近たちは、次の体制をどうするか、という検討にも入った。そう、現魔王レイズガット様が退位される、というのだから、準備しなければならない。


まだ国民には周知しておらず、主だったメンバーだけでの会議が重ねられた。


そもそも、魔族というのは、いつの時代も復活される魔王レイズガット様を中心にまとまってきたのである。それ以外、考えられない、考えていないのである。


また、ご子息がいるかというと、魔族を何度も復活させるため、魔王様は、単身で子供を残せる。そして、子供といえば、多くの魔族たちは魔王様の子供や、孫、ひ孫だったりするのである。つまり、誰でも、王になる、資格があってしまうゆえに、決めるのが難しいし、そもそも、次の王になるべしと育てられた者はいないのだ。


その中でも、権力欲があって、王になりたい、という者がいるかというとそうではない。というのも魔族のベースになった種族はエルフだからだ。本来は、温厚で、閉鎖的で、小さく全体のためにまとまって暮らす、そんな種族が元なのである。人間のような権力欲は薄いのだ。


これまで、他種族憎し、我らの安寧を、と一直線にこれたからこそ、王をいただきにすえているが、そうした種族ではない。


そこでミリシアから提案されたのは、コルトの元の世界の知識で得た、憲法や法律、三権分立、民主制、資本主義、そうした考え方である。


そうしてまず、憲法の作成が議論されはじめるのであった。


#


コルトこと星庭神成(ほしにわ のあ)とミリシアはリビングでお茶を飲んでいた。


「こっちの件もうまくいったし、またゲーム作りでもやろうかな」


「コルト様が死んでも妖精が残るようにというやつですか?」


「そう」


「おめでとうございます」


「うむ、もうすでに実行済みだけどね。今は俺が生きているから、感染はすれども休眠状態だな」


「結局は異能力をつかったウィルスですよね」


「そうだ。ただ、連携させて一つのものとして協調させるのは苦労したがな。あぁ、ミリシアはどうする、念のために、そっちもやっておいたほうが良くないか。なんかあったとき、ムルププが無くなると、魔族側も困るだろ」


「そうですね。おねがいします」


「わかった。それにしても、魔王さんが退位というのは驚いたね」


「そうですね。やっぱり、どうしても人間たちが許せないみたいです。だから、手を取り合う風景を見るのも、おつらいんだとか」


「つらい?」


「はい、何のために我はこれまで生きてきたのだろうって」


「あぁ、そうか。彼はもともと、人間その他の種族を滅ぼしきることを願われて生まれ、ずっとそれに応えようとして来たわけだしな」


「そうですね。なんだかんだ、上手くいきそうで、落ち着かないものですね」


「俺はその決断を尊重するけどね」


#


コルトこと星庭神成は、魔王レイズガットに呼ばれ会議室にいた。珍しく、今回は一対一での話し合いがしたい、とのことで、神成は妖精を連れず、魔王の側近もいない。


「どうしたんだ、他には聞かせられない話なのか?」


「まぁそうだ。コルトよ、貴様は我のことをどこまで知っておる?」


「古き時代に復活し続ける、魔族の繁栄と、人間その他の種族を滅ぼす象徴として願われ、復活の秘術がこめられた、おおざっぱなことしか知らん」


「なるほど。我のように古い怨念にとらわれた存在が、今後もあり続けるのはどう思う」


「そうだな。そうした世代交代のために、寿命というものがあるのだと思う。それでも、憎しみの連鎖が色濃く残ってしまうこともある」


「ならば我は、もう二度と復活することのないよう、朽ち果てたほうが良いのかもしれぬな」


「また弱気だな、変わればいいだろ」


「簡単に言ってくれる。そう変われるとは思えん」


「俺も少しは変わったつもりだ。この世界に来たときは、自分以外のものはすべて見捨てるつもりだったよ。一気に、ではなくても、ゆるやかに変わっていけばいいんじゃないか」


「我は、結局、何のために生きていたのだろうな」


「俺とあんたが出会ったから、今の結果があるんじゃないのか。俺の話を聞かず、魔族の繁栄は二の次に、闇雲に憎しみだけで動かなかったのはあんただからだろ」


「どうだろうな」


「俺はわりとあんたを気に入ってるんだ。度量も大きい。いい王様だよ。どう選択しても、それがあんたが出した答えだって言うなら、俺はそれを間違いだとは言わない。俺だって、ただ長生きするだけで、苦しいだけの人生なら、どうなんだろうって思うしな」


「そうか」


「ただ、あんたは結局、他人に願われたことをこれまでやってきただけだ。自分が何をしたら楽しいのか、安らぐのか、自分のために生きてみてもいいんじゃないか。復活の秘術を壊すのはいつだってできるだろ」


「やりたいことか。他人の願いなのかどうかも、もうわからんようになってしまっておる」


「時間は俺よりきっとあるんだ、いろいろ試してみろよ」


「なら、何から手を付けてみるのが良いと思う?」


「なぜか心が落ち着く小さなこと、俺には似合わないそう思うようなこと、そんなことから注目してみるといいんじゃないか」


「そうか。コルトよ、貴様のやりたいことはなんなのだ?」


「俺は、ゲームを作ることだな」


「ゲーム?」


「そうだな」


神成は、ぱさっと将棋のワンセットを作り出して、駒を配置していく。


「四角いマスがあるだろ、この駒は、種類ごとに、進める方向が決まってる。敵の駒の場所に進めたら、その駒を倒して自分の駒にできるんだ。二人で遊んで、一人が一つ動かしたら次の人へ。そうして、相手の王または玉をとったら勝ち、というゲームがある」


「ふむ、いわゆる戦争を盤上の遊びにしたもの、ということか」


「これはそうだな。ゲームもいろいろあって、これは盤上だからできないが、自動的に駒が時間経過で動いて、それを指揮するようなゲームもある」


「ほほう、臨場感のある戦争の指揮官遊びということか」


「そうだ。ほかにも、指揮官ではなく、一兵士になって遊ぶものなど様々あるし、戦場だってもっといろいろつくれる。そこに、物語が加わったりもする」


「我には計り知れぬが、こうした遊びを作ることが貴様のやりたいことなのか」


「あぁ、突き詰めていくと、一つの世界を創るような遊び、とも言えたりもする」


「ほう、世界を創るか」


「何が自分に合うかなんてわからないし、楽しむ力も育てるものかもしれない。少し、ゆっくり休んで、自分のために生きたらいいんじゃないか」


「そうかもしれんな」

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