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書き直すかも…。
十六夜は奇妙な現象に出会っていた。先ほどまで、歩いていた通学路から人がいなくなっていた。
「なんだこれ?」
「困ってるみたいだねー?」
十六夜の隣に、大きな魔女の帽子をかぶった少女が立っていた。
紫がかった桃色の長髪に創作物じみた完璧に近い容姿。その宝石のような瞳はまるで星々を宿しているかのように煌めき、艶やかな唇には無意識のうちに視線を持っていかれるほどだ。
「誰?」
「アハハー!私?私はね~そうだなぁ~ジャスミンにしようかなぁ。あ、やっぱりなし!私のことはニンフアイエアって呼んでよ!長かったらアイエアでもニンファでもいいよ?」
「絶対偽名だろ…」
「そう、硬いこと言うなよぉ」
彼女は十六夜の周りをブーツの踵を鳴らしながらぐるぐると歩き出した。一定のリズムで視線は十六夜に向けたまま。
「あ、そうだ!見えるようにしてあげるね?」
少女が指を鳴らすとその光景が現れた。通学路には多くの学生がいた。1限の授業に遅れないように本校者の方へ歩いている。しかし誰も魅力的な魔女っ娘の女の子に気づいた様子がない。通学路にある並木道の半端なところに突っ立っている十六夜をちょっと邪魔そうに見ているだけである。
「私のことは選ばれた人にしか見えないのでーす」
「………」
「フフッ、嘘だよ。魔術を使ってるだけ。彼らには会話している君も私も見えていないよ。君がただ立っている風に見えてるんだぁー」
「君は………」
「あ、これあげるね?来る日まで大事にするんだよ」
そう言って、少女は十六夜に向かって歩いていき頬にキスをした。
「ッ!?えrtwsf??????」
言葉にならない言語を放ち困惑している十六夜を見て、クスクスと笑い声をあげる彼女は一言。
「バカ弟子によろしく~」
そう言い残してその場を後にした。十六夜が正気に戻ったときには、少女は幻影かのようにいなくなっていた…。
「鈴ちゃんはさ、今回の予選どうなると思う?」
雫は室内を歩き回りながら、鈴に問いかける。昼食が一段落し、午後の講義が始まるまでの雑談がてら空き教室に鈴を招いたのである。
「例年同様、2回の予選で8割が、3回目の予選で残りの7割が脱落するのではないでしょうか?」
「聞き方を変えようか?何人事故に遭うと思う?」
「………」
「優しい君はに嫌な質問だったかな?配慮が足りなかった」
無意識的に少女から揺れるように放たれる魔力は、大気を揺らし無言の圧力をかける。
「私としても事故は起こらない方が好ましいからね。出来ることはするつもりさ」
「………雫。あなたから見て今年の種目は危険度が高いのですか?」
「それを語るには決闘祭の種目を教える必要があるね?決闘祭の予選の種目は、『逃走劇』、『迷宮探索』、『蟲毒』の全三種目だ。概要だけ簡単にまとめると『逃走劇』では【判断力】と【魔術の技量】が、迷宮探索では【知識】と【機転】が、『蟲毒』では【覚悟】が求められる」
「覚悟………ですか」
「ああ、最後の蟲毒を除けば難易度は例年と変わらない。ただし、蟲毒はえげつないね。決めた奴の性格の悪さがにじみ出てるよ」
吐き捨てるようにつぶやいた雫の様子に鈴が苦し気に顔を歪めた。五芒星の中で雫は最も自由人だが、最も優しいという評価を少なくとも表向きはされている。そんな雫が例年にないほど、文句を言ったということは『蟲毒』の危険度は彼女から見ても凄まじいということだからだ。
「誰が出るかは把握しているのかい?」
「ええ、名簿を送りましょうか?」
「お願いするよ」
鈴は自分の端末から個別にファイルを送る。ピコンっという電子音と共にファイルを受信した。雫はそれを開いて眺めた後に少し笑った。見覚えのある名前を何人か見つけたからだ。
「無謀だと思える子はあらかじめ面談をする予定ですが、それ以外は通すつもりです」
自治委員会は自身の所属している学校に限り、決闘祭のエントリー名簿を見ることが可能である。鈴は、その制度を利用して参加して死ぬ可能性がある子を引き留めているのだ。
十六夜と音々を含めた多数の一年生の名前を見つけた雫は意外そうに笑った。
「一年生がかなりいるね?血の気が盛んなことだ」
「ええ………だからこそ心配です。彼らが無事に帰ってくるかどうか」
「なるほど、ジャスミンのアカウントの噂を広めたのは君だね?」
雫のステアカである『ジャスミン』は決闘祭の予選についてアドバイスを垂れ流すために作ったものだ。しかし、フォローもフォローバックもほとんどされていなかった。昨日までは。
「決闘祭の予選の内容について詳しく知っているのは、情報を交渉で手に入れるか盗むか、元から知っている人間のみ。前者には情報を流す理由がない。しかし、後者なら話が別です………元から詳細を知っているのは種目の提案者である五芒星と管理委員会の上層部。こんな無茶なことをやるのはわたくしの知る限りこの島には一人ですから、信用できるものとして紹介しました」
うれしくない信頼だなあと雫は思った。確かに、情報を流していることがばれれば前者は出場停止の上順位を下げられかねない。後者は、審問会のお呼び出しがかかるだろう。
「あんまり派手に広がるとさすがに私も困るんだけどね」
自治員会の人間のお墨付きを得たあのアカウントは、未来学院の生徒からバカみたいにフォローされている。これが学院外にも広がれば大事だ。デマではなくあのアカウントで垂れ流している情報は、すべて正しいので一瞬で前科のある雫に疑いがかかるだろう。
「島の一角を消し飛ばしてもお咎めがなかったのです。雫をどうにかしようという意思は上層部にないのではないでしょうか」
「あの時は理由があった。建前もね。でも、今回はない」
「ですが雫のアカウントを利用しない手はありません。どうせ、あなたの釣りの対象は別の人間でしょうから」
鈴は確信をもって言い放ち、雫は困惑で首をかしげていた。
時は流れ、決闘祭予選当日。
決闘祭はかなり盛り上がるイベントだ。それは予選であっても変わらないのである。観客席となった教室には大型の投影水晶が設置され、会場各所に配置された自動人形のカメラが現地の状況をリアルタイムで映し出す。
決闘祭予選の会場は、かつて使われていた廃校舎と増設された広大なグラウンドである。ただし、このグラウンドはただのグラウンドではなく、一部が森のようになっている。観客席側の校舎には、廊下に設置されている長机に立ち食いに向いた軽食が並べられ、生徒たちはそれらを飲み食いしながら教室を自由に行き来して過ごすのである。
もちろん開催期間が夏休みであるため、いない生徒もいるがそれは少数派であることが決闘祭の注目具合を表している。
未来学院の放送室では実況席が置かれていた。
実況席には月垣鈴と決闘罪マニアで知られる男子生徒、甲斐崎が座っていた。予選開始を今か今かと待ちわびる生徒たちの熱を帯びたざわめき、出番を前にした参加者たちの張り詰めた沈黙。そうした激戦を予感させる沸き立つ空気を肌で感じながら、彼はおもむろに口を開く。
「俺ァ、この日のために強さを手に入れた」
決闘祭の実況席に着く条件は、100以内であることもしくは自治委員会の人間であることだ。この男は、決闘祭を実況したいがために、100位以内という快挙を成し遂げた生粋の実況マニアである。
「決闘祭はいい。特に予選は最高だ!力だけじゃねえ!知恵も工夫も駆け引きもすべてが必要になる!!!!!最高の見世物だぜぇ!!!!!俺ァ、お前たちの奮闘を余すことなく解説してやることをここに誓うぜ!!!!!」
「はい、品性の欠けた発言をしたらわたくしが責任を持って叩き出しますので皆様ご安心してお聞きください………ちなみに、現時点で叩き出そうか迷っています」
鈴は本気で叩き出すことを誓いながら、そう言い放った。
「さァて!予選のルール説明だァ!出場者は耳の穴かっぽじってよく聞けェ」
「………」
鈴の非難の視線を受け流し叫ぶ。
宣言に応じた生徒たちの大歓声が校舎を満たす。同時に予選のスタート地点。グラウンドのど真ん中が空中に投じる映像の中に映る。そこには参加者が集まっていた。会場が分かれているとはいえ、その数は圧巻である。2000人近くはいるだろう。
参加者たちの目の前には無数の魔術式が展開される。次の瞬間、グラウンドの2ヶ所の地面が真っ二つに割れた。そして割れた。穴の中から、無数のゴーレムが出てくる。ゴーレムは人形に近い形をしているが、両腕にあたる部分には機関銃がついており、一部のゴーレムにはチェーンソーのようなものまで付いている。
「ルールは簡単です。30分の間生き残ってください。逃げても隠れても構いません。とにかく襲い掛かってくるゴーレムを何とかして生き残る。それが今回のルールです」
「ゴーレムの腕についてる機関銃は実弾じゃねぇ。ゴム弾だ。身体強化が普通にできれば死にはしねえから、安心しとけぇ」
「しかし、油断すれば事故死になりかねないのが怖いところです。そうでなくとも例年、病院に担ぎ込まれる方が多いので」
「まあ、なんにしても予選開始だァ!!!!!」




