望まぬ称号──龍を使う長と、その剣
「私を剣と使うがいい」
血溜まりから拾い上げた男は、惑う彼女にそう囁いた。
故郷を踏み躙られたくなくて受けて立った戦いは、けれど敗色が濃厚だ。
ただ人死にを増やして滅ぶべきか、矜持を捨てて生き延びるべきか、できる選択は二つに一つだったはずなのに。
何の気紛れかは知らないが差し伸べられた手は、きっと彼女が有するすべてを放り出しても望むほどの威力。
一も二もなく飛びついていいはずを素直に喜べない理由は、相手の姿にあった。
部分的に身体を覆う鱗、片方だけの角、火眼金睛。
明らかな異形である彼は、死にたがるほどに自身の姿を厭っていた。
知りながら戦場で目立てと請うのはあまりに酷で、それを目当てに助けたと言われるのも癪だった。
「よせ。私には何も対価が支払えぬ。くれてやれるとすればただ、お前が望まぬ龍の名のみだ」
「私もお前に差し出せるのは、血腥い勝利だけだ」
けれど人死には減らせるの言葉は、天秤を傾けるほどには重かった。
苦渋の決断を下した彼女は、後に呼ばれる。災厄を撒く龍使い、と。
望んで龍に身を窶した剣は、果たして龍の名以外の何かを得られるのだろうか。
この作品の一部は、「言の葉工房 織奏」に掲載しています。
血溜まりから拾い上げた男は、惑う彼女にそう囁いた。
故郷を踏み躙られたくなくて受けて立った戦いは、けれど敗色が濃厚だ。
ただ人死にを増やして滅ぶべきか、矜持を捨てて生き延びるべきか、できる選択は二つに一つだったはずなのに。
何の気紛れかは知らないが差し伸べられた手は、きっと彼女が有するすべてを放り出しても望むほどの威力。
一も二もなく飛びついていいはずを素直に喜べない理由は、相手の姿にあった。
部分的に身体を覆う鱗、片方だけの角、火眼金睛。
明らかな異形である彼は、死にたがるほどに自身の姿を厭っていた。
知りながら戦場で目立てと請うのはあまりに酷で、それを目当てに助けたと言われるのも癪だった。
「よせ。私には何も対価が支払えぬ。くれてやれるとすればただ、お前が望まぬ龍の名のみだ」
「私もお前に差し出せるのは、血腥い勝利だけだ」
けれど人死には減らせるの言葉は、天秤を傾けるほどには重かった。
苦渋の決断を下した彼女は、後に呼ばれる。災厄を撒く龍使い、と。
望んで龍に身を窶した剣は、果たして龍の名以外の何かを得られるのだろうか。
この作品の一部は、「言の葉工房 織奏」に掲載しています。
1.血みどろの出会い
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