表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の糸  作者:
7/10

好きで好きで

美樹

私はこの時何かの役に取り付いているのかと思いましたが、自分の言った言葉は鮮明に覚えています。いつもだったら記憶が飛んでしまっているのに。きっとこれは自分自身の言葉なのでしょう。「なによ晶さんのばか、愛しているわ。私が好きなら私を信じて」こんな言葉をも簡単に口から出てしまうのだ。今日の私はどうかしている。その時自分のポケットから振動がくるのを感じた。「いけない。母からだわ。少し話してくるから声を出さないで」と念を押し「あぁ美樹、待っているよ」という返事を聞いてから母の電話へ出た。

「もしもし美樹です」『大丈夫?もしもしんどいようだったら病院に行きなさいよ』と仕事場からの電話のようだ。「お母さん、私は大丈夫。明日は学校に行けるわ」それを聞き安心したのか『よかった。無理をしないでね』といった後衝撃的な言葉を残して電話を切ってしまった。『あなたには、昔から決まっている婚約者がいて、その方に明日会いに行くんだから』と言ったのだ。私はまだ15歳という若さです。だと言うのに、もう面会があるのですか?せっかく彼と想いが通じ合えたと思ったのに。

「晶さん…」私はケータイをポケットにしまい言いました。「美樹。俺はここに居る」その言葉には安心いたしました。しかし母との会話は消し去る訳もなく。正直に言うことにしました。「どうしよう。私、昔から決まっている婚約者との面会が日曜日あるの」彼は驚いた顔をしてから「俺の美樹。今すぐにでもさらってしまいたい」その言葉にはひとつの迷いも見受けられませんでした。「そうして欲しいわ」そう言うと彼は思いがけないことを言いました。「婚約なんて許さない。相手を説得させてでも止めてやる」私は慌てて「説得なんてダメ。母が婚約なんて考えるのは家のお金のためだと思うの。だから説得できても認めてもらえないわ」と言った。彼は落ち込んだ顔をし、「じゃあどうしたらいい」と言うので私はきっぱりと言いました。

「信じて、私は絶対頷かないから」彼はその言葉を受け入れ「明日午後3時にまたここに来てくれる?」彼の言い方からは冗談とは思えず「でも明日は…」と少し焦らしてみた。「分かっている。それでも、相手に取られる前に結婚を誓いたい」私の答えは一つしかありません。「嬉しい。午後3時ね、必ず行くわ。ねぇ私、全てを晶さんに預けてどこへでもついて行く。心に嘘は付けないから。だからお願い、冗談なら今すぐ取り消して」そう伝えて「早く帰らないと母が帰ってきてしまう」と言い帰ることにしました。「あぁ、じゃあ明日。俺は冗談のつもりはないから。美樹」その声はあまりにも大きく近くの家に響いたかもしれません。慌てて「危ないわ。そんな大きな声を出して。明日のためにも今日は我慢して。あなたが見つかったら大きな希望も粉々じゃない」と頬をふくらませて言いました。すると彼は笑いながら「分かった。じゃあもう行くよ」と言い立ち去ろうとしました。「待って晶さん、本当に行っちゃうの?お別れの言葉がまだだわ。恋人とのお別れって、どんな台詞だったかしら」少し前の小説に恋人同士の台詞があったと思うんだけど、思い出せない。「思い出すまでここに居るよ」彼がそんなことをいうので私は少しニヤッとして「じゃあ思い出さない。紐をつけた犬みたいに、離れるたびに意地悪をしてたぐり寄せてしまいたい」と言った。そしたら「君の犬になりたい」なんて彼が言うから少し顔が赤くなっちゃった。「嬉しい、でも可愛がりすぎて殺してしまうかも知れない。じゃあ明日ね。晶さん、今日の幸せが覚めませんように」彼は私の別れ文句につけ込み

「あぁ。きっと明日、夢の続きを見よう」と言ってくれた。さっきからずっと聴いてきたあなたの声が私の心を溶かしてゆく。早く明日にならないかしら。そして私は家に入る前に彼に連絡先を伝えて玄関へと急いだ。


彼女が家に入るのを確認し俺も自分の家へと急いだ。今までにない心情だ。ただ連絡先を交換しただけなのに、なんだかこれだけで彼女と繋がっているように思えた。彼女の連絡先の画面にしただけでにやけてしまう自分もどうかと思う。俺は明日の予定を頭の中に思い浮かべた。きっと明日の朝彼女の家は忙しくなっているだろう。そして、午後3時までには終わると俺は推測した。いくら婚約者だからといってずっと居座るとは思えない。そこで明日の野球が朝からあることを思い出した。

明日は日曜日。朝から日暮れまで野球づくしのスケジュールを思い出した。しかし俺は、あんなに好きな野球さえも彼女には劣るとその時改めて感じた。コーチと同じチームの奴らに一斉送信で明日休むことを伝えると、すぐに返信が返ってきた。『お前目当てで来る奴がいるんだぞ』だとか『ふざけるな!エースだろ』などなど…。それでも俺は心を揺るがすことがなかった。それほどにも彼女を愛しているのだ。彼女に会って数日しか経っていないのにこんなにも心が焦がれるのはきっと幼稚園の頃から、いや、前世の頃から彼女と居たくてたまらなかったのだ。そこで一つの話を思い出した。

題名は、そう、『ロミオとジュリエット』。俺は話を薄々と覚えている。確かあの話は最後2人とも死んでしまう話だったか。しかし俺はロミオとジュリエットのような間違いはしない。あれ、なんで俺は『ロミオとジュリエット』を知っているんだっけ。記憶の糸をたどると俺は一瞬身震いした。またこれも幼稚園の頃の話だ。


今日も「ねぇねぇ」と彼女に声をかけていた。「なぁに?」といつもの返事が返ってくる。はずだった。その日の彼女は返事がなかった。泣いていたのだ。俺は驚き「どうしたの?」と問いかけるが返事がなかった。その頃の俺もまた人気者だったため彼女の泣いている訳はすぐに耳に入ってきた。彼女の父が亡くなったのだそうだ。しかも、病気ではなく自殺だったようだ。当時の彼女には負担が重すぎたのだ。可哀想と同情する先生、騒ぐ生徒。そんな中一人で泣いていたのだ。「お父さんが死んじゃった」彼女は泣きながらそう言った。俺はその時気を利かせるということを知らなかった。きっと彼女を傷つけたであろう。後から知った話だと俺の父も絡んでいる話だったようだ。俺の父のせいだと彼女の母は言った。そうしてまた両家の溝は深くなってしまったのだ。そんなことを知る由もない俺は「そっか…」と言い、同情していた。「どうしよう。私一人ヤダ」その意味は父がいなくなって孤独という意味を伝えたかったのだろう。しかし俺は「俺も一人は嫌だ」などと意味のわからない返事をしたと思う。「お母さんも毎日働きに行ってるから…」とさみしそうに言う彼女に俺は「俺がいるから。大丈夫」と言い「ずっといる?」と念を押す彼女に俺は強く「うん」と返した。「約束だよ」と涙を拭いながら言う彼女にその時惚れたのであろう。指切りをした彼女の小指は涙で濡れていたような気がする。その約束も卒園式の時には無くなってしまう。

彼女がまた泣きながら「転校することになっちゃった」と言ったのだ。約束から数ヵ月後のことだった。その頃では親友のように毎日遊んでいた。今となれば分かるが、何故か母にはそれを白い目で見られていたような気がする。俺は「じゃあ約束しよう」と提案した。彼女は「なんの?」と聞いてきた。俺は悩んだ。期限の切れない約束を考えた。「…それじゃあ、こうしよう。見えない場所に行っても俺たちの心は繋がってるんだ。絶対に解けない糸で結ばれているんだ。だから、次会うときに結婚しような。俺のジュリエット」その頃の俺は我ながらアホだった。結婚の意味を知らずに言ったのだ。彼女の涙は消え「私のロミオ、約束だよ」と言って2度目の指切りをしたのだった。

なんていう淡い思い出。しかも、言葉にできないほど嬉しい。今まで忘れていた自分が恥ずかしい。こんな偶然があるか。まるで決まっていたかのように、出会い、お互いを好きになったのだ。それはもう必然と言っても足りない。言葉に表せない。とてつもなく大きいものに操られているような。ご都合主義の神様の考えは計り知れない。これが腐れ縁なのか?!いつの日か両親共に理解され祝福されながら幸せになってやる。俺はそう心に決めた。


美樹

私もその頃同じことを思い出し、部屋にある人形をぎゅうぎゅう締め付けました。じっとしていられずまたもや部屋中を駆け回って自分の机にグーでバイオレンス。そのあと我に返った時には拳が腫れていました。手を氷で冷やしながら今夜は眠ることになりそうです



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ