のんびりスローライフ(たぶん)
最終話となります。
「ふっ ふふっ うふっ うひゃぁぁはっはっはっ なんするん!」ぺしっ
「「 千秋?! どうした 」」
俯いてしょげる千秋が急に笑い出したので2人は驚いてしまう。
あまりのショックで壊れてしまったのかと不安になる2人だったが・・・
「いったぁー!なんで叩くん。せっかく戻って来たのに!」
「「「 おかん?! 」」」
なんのことはない、マォが千秋の足の裏をくすぐっていたのだ。
「生き・・・ ちょるん? あ、あ、足!足はあるん?!」
「どういう事だ。マォ説明を頼む」
「おかん、腰が抜けたじゃあないか・・・」
「アルノー・・・」
「足はちゃんとあるし生きちょるよ。
説明っちゅわれてもねぇ・・・」
メルトダウンを起こし、なおもあがくアレをマォは徹底的に溶かしまくった。
その結果自分も塵となって消えたはずだったのだが、気が付けば千秋の背後に立っていたのだ。
ただキョンシーよろしく、額にペタリと紙が貼ってあった。
【拾い集めるのに時間掛かっちゃった。
でも全部は拾いきれなくてちょっと足が不自由かもしれないし
魔力量も減っちゃったけどごめーんね♡】
「て感じでコレが貼っちゃったん」
マォは皆に剥がした紙を見せる。
「え、どゆこと?ごめんおかん。私理解が出来んのじゃけど」
「大丈夫、儂も出来ん」
「足が不自由とは・・・」
「あー、それね。左足がちょっと痺れた感じでうもぉ歩けんのん」
「魔力量が減ったとは・・・」
「さぁ? まぁ普段あんま魔法使わんし?
別に気にするこたぁないんじゃないん」
「難しい事は分らんけど、取り合えず生きちょるって事でええん?」
「生きちょるね。
せっかく格好良く決めたんじゃけどなぁ」
格好良くと言ってはいるが中二病をこじらせたセリフを吐いただなんて口が裂けても言えないマォである。
「兎に角生きちょってよかったぁ・・・
おかん、おかえり」
「うん、ただいま」
安心した千秋はここでやっと自分の腰が抜けている事に気付く。
立ち上がる事が出来ずにリオルに抱えられて寝室へと移動していった。
2人を見送った後、マォもゆっくりと休む事にし寝室へ行こうとしたのだが、これまた腰が抜けて動けない。
「おかん、俺が運ぼう」
「すまんね、アルノー。ありがとう」
「おかん、もぉ無茶はしないでくれ。
おかんが死んだと思った時は肝が冷えたぞ・・・」
「儂も死んだと思ったけぇねぇ。
心配かけてごめんよ。でも・・・
アレは完全に消滅したし、生まれ変わる事もなかろうけぇ安心じゃし。
後の事はエウリケやオーウェン、ルーク達に任せよう。
あ、畑仕事とか料理とかは普通の生活に関わる事はやるよ?」
「足は大丈夫なのか?」
「杖がありゃなんとかなる」
「そうか。揉め事や争い事はこれ以上無いと思いたい。
だが、もしもそんな事があったとしても俺達で対処するから」
「うん、わかった」
今度こそ、のんびりスローライフを送ってやると心に誓う。
口に出して言わないのはまたフラグになっても嫌だからだ。
アルノーに抱きかかえられベッドまで運んで貰ったマォは、その後4日眠り続ける事になる。
マォが眠っている間、プリローダは大騒ぎになっていた。
まずマォが死んだと聞かされた留守番組が泣き崩れ、翌日にはマォが生きて戻って来たと聞かされ歓喜し、眠り続けていると聞かされオロオロし始めこぞって慰霊碑やら四神獣の像やらへと快気祈願へ向かった。
次にマォが死んだと知らせを受けたスカイラーが血の気を失った顔色でやって来てみれば、生きていたと聞かされ安堵のあまりにそのまま倒れこんでしまった。
更にオーウェンからマォの死を聞かされ呆然としていたエルフィンやスカイラー達の元へマォが生きていると知らせが入り、モファームで駆け付けてみれば眠り続けていると聞かされたのでマォが目覚めるまで滞在すると言い出した。
マォの死と生存の話は時差で次々と周辺各国の王にも伝わり、カレフ王や魔族の王がすっ飛んできたりもした。
マォが目を覚ましていたら「政務ほったらかして供も連れずに何やってんだ」と叫んだであろう。
そして寝込んでから4日目に目を覚ましたマォだが、第一声はこれである。
「なんじゃこりゃぁよぉ!」
寝過ぎてカチコチに凝り固まった体を解すべく家の外へと出てみれば、少し離れた場所にある玄武像や慰霊碑に向かって拝んでいる人の姿が見えた。
家の前には人だかりが出来ており、マォの姿を見るなり泣き出す人や雄叫びを上げる人達が居た。
その人だかりの中にはカレフ王や魔族の王までいるのだ。
それだけならまだしも騎獣ファミリーやら森の住人(温厚な魔獣)達までいるではないか。
「なんじゃこりゃぁよぉ」と叫びたくもなる。
「「「 マォ、目覚めたのか! 」」」
「「「 マム!生還おめでとうございます! 」」」
「「 マォ殿!ご無事で何より! 」」
「「「 マォ様~!再びお目に描かれて嬉しゅうございます~ 」」」
口々に話し掛けながら詰めよって来るのでマォは圧倒されてしまう。
「ちょ、落ち着・・・うぇっぷ。
落ち着いて。 ぐへっ・・・
だからちょっと、落ち着い・・・ うっ。
えぇい、もぉ!落ち着け!ステイ!」
ステイの意味は分からないだろうが皆一斉に動きを止める。
マォは揉みくちゃにされた人だかりからモソモソと抜け出し話し掛ける。
「聞いての通り儂は化け物化したアレと戦って死んだ。
じゃけど、なんでかこうやって生きちょる。
たぶんじゃけどこの世界の神様が助けてくれたんじゃと思う。
ただ足と魔力量に後遺症が残ったけどこうやって元気じゃから。
皆心配掛けてごめんよ。
そしてこうやって集まってくれてありがとう。
見ての通りこうやって儂元気じゃからさ。
はい、さっさと自分の場所に戻って仕事する!
日常に戻りんさい!
特にそこの王3人とその他の王族!
供も付けずにホイホイ出歩くんじゃなぁーい!
ほれ、散れ!帰れ!戻れ!
次は仕事調整してちゃんと供を連れた上でゆっくり遊びにきんさいや」
((( あぁやっぱりマォ殿はマォ殿だな )))
(おかんブレんね・・・)
(いつものおかんが戻ってきたな)
(((マォはやはりこうでなくてはな )))
マォの言葉を聞き、皆安堵の笑みを浮かべる。
そしてそれぞれの日常へと戻って行った。
季節はすっかりと春である。
マォは誕生日を越えて61歳となっていた。
それからの日々、マォは侍女長と共に念願だったスローライフを楽しんでいる。
千秋や孫達も元気にしており平和そのものだ。
ペルダンのあった場所は森と化しており新たな森の主も生まれダンジョンも出来たようだ。
ペルダンを囲っていた壁は取り払われ、人々は森に住まう魔獣や魔物と適度な距離を保ち共存している。
アレとの死闘以降、この北方大陸には平和条約が出来上がった。
私利私欲の為にむやみやたらと争わない事。
差別や偏見、理不尽な迫害はしない事。
この2つが条約の内容だ。
この条約はエウリケとカレフ王が言い出し、コ・チラサンとエルフィンがマォについて力説して締結した。
「いいか、マォは兎に角理不尽な事を嫌う。下手な事をしてみろ。
落ち武者禿の刑だぞ!永遠に落ち武者禿なんだぞ!」
と力説したのはエルフィンである。
各国の代表者達は(やられた経験があるのだな)と遠い目になりかけた。
「よいか、マォと言う者は兎に角仲間を大切にする。
魔獣であろうと騎獣であれば家族とみなし、
愚弄しようがものならば鉄槌をくらうぞ。
傷つけようものならば毟られるぞ髪の毛を!
言っておくが私が毟られた訳ではないからな!」
そう力説したのはコ・チラサンである。
各国の代表達は(ああ、間近でその様子を見たのだな)とそっと頭をさすった。
武術にも長け魔法にも精通しているのならば噂の魔王はやはりマォではないのかとまことしやかに囁かれ、大陸中に広がった事をマォはまだ知らない。
何はともあれ、この北方大陸は平和になりつつある。
「ばぁばー! ゆっちゃん胡瓜の浅漬け食べたーい」
「ばぁば!トリーはモロキュウが食べたい!」
「おかん、私はカクテキが食べたい!」
「では俺はチヂミがいい」
「おかん、俺は塩バターパンが久々に食べたいんだが」
「では私はすいとんを希望しよう」
「私はオーク汁が・・・」
「全然統一感がないんじゃんか。
まぁ作るけどもさ、なんでルークとダルクまでおるんかね?」
「駄目だろうか」
「駄目ではないけど、いつのまにかしれーっとおるよね」
「まぁええんじゃないん、おかん。
ルークさんはリオルのおとんなんじゃけぇ私のおとんでもあるじゃろ?
そうなるとおかんとも一応は家族なんじゃけぇ」
「じゃぁダルクはどうなん?」
「ダルクさんはどうなるんじゃろう。義息子?・・・」
「なんで?」
「ダルクはゆっちゃんと結婚するん」
「へぇそうなん。ゆっちゃんと結婚す・・・ はぁ?!」
「「 ぶぅーっ 」」
茶を吹いたのはルークとリオルだ。
「待てゆっちゃん。ダルクと結婚だと?じぃじは許しません!」
「待て親父殿、そうじゃないだろう。突っ込むところが違う。
ダルクもゆっちゃんも雄だろう・・・」
「はっ・・・」
「ゆっちゃんや?」
「ゆっちゃん心は女の子じゃもん!ダルクもええってゆうたもん!」
「「「 マジで?! 」」」
「そっかぁ、ゆっちゃんは男の娘じゃったかぁ。
いや、元々が女の子じゃったし不思議でもないかぁ。
あれ? そう言えばダルク、マンドラゴラの雄見て鼻血出してた様な・・・
そうゆうことぉ~?!!」
マォの叫びにダルクは赤面する。
それを見たマォの頭の中にチーンと懐かしい音が響く。
別にBLを否定する訳ではない。
若い頃はBLの薄い本を描いていたし、なんならリオルとアルノーがと勘違いをしてほほえましく思った事すらある。
でもまさか自分の孫が、しかも見た目は人間の6歳くらいだがまだ生後半年の孫がだなんて思いもしなかったのだ。
「うん、まぁ2人がそれでええんならええわ・・・」
「そおじゃね、ゆっちゃんはゆっちゃんじゃし」
「よし、じゃぁ儂色々作ってくるわ。
浅漬けとカクテキは明日まで待ちんさいね」
「「 はぁい 」」
台所で支度を始めようとすれば窓からもっちゃんが顔を覗かせた。
その顔にはちょっと痛々しい傷が残っている。
あの時アレの攻撃で右半分が溶けてしまったもっちゃんだったがオーウェン達のお陰で一命は取り留めた。
その後、目覚めたマォが全力でヒールを試みた結果、あちこちに傷が残りはしたが右半身が復活したのだった。
マォ自身もここまでとは思っていなかったので驚くと同時に頭の中であのチーンと言う音が響いた。
(魔力量が減ってるっちゅうけぇ、全力でやったのに・・・
これヤバイんじゃないん。他の人には隠しちょかんにゃぁ・・・)
元々の魔力量が∞だったのだ多少減ったところで他の人の比ではない量がある事にマォは気付いていなかったのだ。
「もっちゃんどした?」
『マォ、もっちゃん子供生まれた。ゆっちゃんとトリーに仲良くして欲しい』
「心配せんでも自然と仲よぉなるんじゃないん」
『マォともっちゃんみたいに仲良くしたい』
「なるほど、でも心配いらんのじゃない? ほれ見てみ」
マォの視線の先には縁側で産まれたばかりの毛玉、モファームをゆっちゃんとトリーが見つめていた。
微笑ましい光景だと思ったがすぐにマォは叫ぶことになる。
「こらっ!待ちんさい!生まれたばっかりなんじゃけぇ抱っこしちゃあいけん!
あぁぁ、トリー!さかさまにせんの!
ゆっちゃんもこねくりまわさんの! やめんさーいっ!」
マォの叫ぶ声は野菜を採りに畑まで来ていた千秋とリオルにまで聞こえてくる。
「おかん、今日も叫びよるね」
「いつもの事だな」
「まぁ怒鳴り声じゃないけぇ平和っちゅう事かね」
「んむ、マォにはずっと元気に叫んでもらわないとな」
「何言いよるん、叫ばんでもええようにしてくれんさい」ペシッ
「あたっ!おかんいつのまに」
「アンタ等がいつまでもニラ持ってこんけぇ採りにきたん」
「あ、そうじゃった。へへへっ」
「へへへじゃないん。先にニラだけ持っていくけぇ他の野菜は頼むね。
イチャコラせんとサッサとやりんさいや」
「はぁーい」
「すまない、マォ。急いで収穫する」
マォはニラを収穫すると台所へと足を止め晴れ渡った空を見つめる。
(色々あったけど今こうやって平和に暮らせてるのは
玄武さんを始めとする四神獣やあの軽いノリの神様のお陰じゃろうな。
ありがとう神様達。この平和が続きますように)
心の中でそう呟きマォは台所へと足を踏み出すのだった。
~ 完 ~
最後までお付き合い頂きありがとうございました!
皆様がリアクションやブックマーク、評価を入れてくださったおかげで完走する事が出来ました。
また誤字報告も非常に助かりました。
心より御礼申し上げます。




