造花と自然花
東條茜過去編です。過激な表現多めですので、苦手な人は飛ばしてください。
「あーかーね!一緒にかーえろ!」
そう言って話しかけてきたのは、愛香だった。松原愛香。幼稚園からの幼なじみで、小中高と同じだった。今は、三月。中学三年生の私は、卒業式前の最後の授業が終わり、ちょうど帰るところだった。
「ふふ。いーよ!一緒に帰ろ」
愛香は、みんなの人気者だ。艶のある焦げ茶色の髪に、鮮やかで全てを見透かすかのような深緑の瞳をしている。とてもバランスのいい顔立ちで、愛くるしい子だ。そんな子が、いつも私と一緒に帰って、私と仲良くしてくれる。
「やったー!わーい。ねえ!今日はクレープ買って帰ろうよ」
「っクレープ!!うん!行こう行こう!」
制かばんを肩にかけ、前のめりに私の机に手をついている。窓から光が差し、彼女の美しさを増加させる。
私は、かばんに荷物を詰めると椅子から立ち、肩にかばんをかける。そこからは、何気ないことを喋りながら、家路に着いた。
次の日。卒業式が終わり、いつも通り帰路に着く。いつも通り、普段通り。何の変哲もない、ただの日常。でも、私はそれを自分で壊してしまった。
高校一年生になり、新学期が始まった。愛香以外知っている子はほぼおらず、愛香はすぐに馴染んだが、私は上手く馴染めず、愛香に依存するようになった。
愛香も、こんな私を嫌がらず、ずっと仲良くしてくれた。
そのせいだろうか。愛香の優しさに美しさに私は溺れていった。どんどんと、友愛は恋情に変わっていく。初恋は、幼なじみの愛香だった。
そこからは、愛香に依存する日々を続けながら、一年間を過ごした。
◇◆◇ ◆◇◆
そして、高二の夏休み。愛香との関係は相変わらず。その日は丁度地域の夏祭りだった。この日は、私にとって大事な日だった。
「ねえ、本当に良かったの?私と一緒に来て」
ピンク色の布地に、紅色の帯びでリボン結びをした浴衣をまとい、りんご飴を頬張る愛香にふと聞いてみる。
「ん?あー、別にいいんだ。それに、クラスのみんなもそれぞれで行くみたいだし」
愛香は、咥えていたりんご飴一度口から離したあと、そう言うとまたりんご飴を咥えた。騒々しい屋台をめぐり、たこ焼き、焼きそば、いちご飴。色々なことをして楽しんだ。そして、あと少しでメインの花火。
……実は、花火のフィナーレで、告白するつもりなのだ。愛香に。
「…っあ、そうだ!茜。花火を見るのにいいところがあるんだよ!来て来て」
そういって、カタカタとげたの音を鳴らせながら後ろに振り向き、片手でりんご飴を持ち手招きする愛香は絵になる。
「そうなの!?ちょっと待ってー」
愛香につられ、私も走る。愛香について行くと、紫陽花が咲き誇る丘に着いた。
「ふふん。ここね、花火がよく見える隠しスポットなの!!」
そう言うと、愛香は愛おしげに紫陽花に触れる。そして、それと同時に初めの花火が打ち上げられた。愛香の後ろで花火が打ち上げられる。「きれい」と思わず声に出てしまうほど、愛香はいっそう美しく写る。
「はああ!よく見える。綺麗だなあ」
愛香は、頭を上に向け瞳を輝かせながら、花火を見ている。私も、愛香の横に立ち、花火を眺める。花形、ハート、リボン、某アニメのキャラクターなど様々だった。
いよいよ、フィナーレ。緊張で冷や汗が止まらない。
「愛香、あの」
花火を見ながら、愛香に声をかける。愛香は、顔だけ後ろに向けると、小首を傾げた。
「わ、わ、わ、わ私と、付き合ってください!!」
私の言葉の数秒後にフィナーレが打ち上げれ、愛香も口を開いた。
「……ごめんね。茜とは、友達でいたんだ」
「うん。そっか、そうだよね。ごめんね。ありがとう」
振られた。振られたんだ、私。顔を見てわかる。私は、女子は恋愛対象じゃないという、顔。お前は異常だという顔。
「あっ。ごめんね。空気しけちゃったね。花火綺麗だったね!!まだ、お祭りあるし金魚すくいとかやろう!」
私が悲しみにくれていると、愛香はそう言って微笑んで。いつの間にか地べたに座り込んでいた私に、手を差し出してくれた。
そこからは、気まずい空気を振り切るように、愛香が私をリードしてくれて、楽しかった。
夏休み、苦い思い出も甘い思い出も手に入れ、いよいよ新学期が始まった。
「おはよう」
教室に入っていつも通り挨拶をする。久しぶりの学校は、私の心を少しうわつかせた。
なのに、いつもなら小刻みに帰ってくる「おはよう」が、帰ってこない。それどころか、白い目で見られてる。
「おはよう。東條さん? よくこれたね」
放心状態で、ぼーっとしている私にそう言ったのは、クラスのリーダー格の三葉さんだった。
「えっと……?」
「は?知らないフリ?夏休みに、愛香に告ったんだって?きっも!女子が女子好きになるとかキモイんですけど。てか、お前みたいな陰キャブスに告られたやつの気持ち考えろよブス」
え、あれ? なんで? 愛香、もしかして言いふらしたの? 混乱しながら、人に囲まれながら笑っている愛香にふと目をやる。
愛香は、タチの悪い笑い方をしていた。
ああ、そうか。売られたんだ、私は。愛香の道具として、利用されていたまでだった。出すぎたまねをしたせいで、捨てられたんだな。
そこから、三葉さんやその取り巻きにとやかく言われたが、何を言われたか覚えていない。声も言葉も、全部私の脳みそを通り抜けていくような感覚だった。
次の日からは、机に酷い落書きがあり、呼び出されて手をあげられたこともあった。トイレの水に顔を沈められたり、好きな子へのお貢ぎ物として、大金をとられたり。
次第に耐えられなくなって、二学期の途中からは不登校になった。が、三月――丁度卒業式の日だったと思う――三葉さんたちが家まで来た。私の両親には、「大事な友達が不登校で心配で、卒業式も来なかったから」なんて抜かしていた。しかも、両親もまんまと騙され、簡単に私の部屋に通した。
部屋の中では、大事な推しグッズを壊されたり、本を読めなくされたり、やっぱりお金もとられた。
……家では大きな声を出せないから、無抵抗で三葉さんたちも、好き放題してきた。
とどめは、途中で三葉さんが愛香を呼んだことだ。冷めた目で、私を見下すように見た愛香。血色のいい唇から可愛い声音で溢れ出す。残酷な言葉。
「お前みたいなブスが私と付き合う?ほざけクソオタ。死ねよ、まじで。何のために仲良くしてやったんだか。大人しく私のことを引き立てとけよ。二度と近寄るなブス」
読みが当たった。一気に身体中の力が抜け、膝からガックリと崩れ落ちる。本当は、心の底ではそうでないとどこかで思っていた。だからこそ、余計に悲しくて酷かった。涙が溢れてきても、愛香や三葉さん達は、「きったね」と吐き捨てるだけ。私からとった金をしまうと、早々に家を出ていった。
壊されたもので散乱する部屋に、一人醜い女が取り残して。
……いったい、何処で間違えたのか。何が悪かったのか。そんなことも分からないまま。気づいたら、誰もいない線路にたどり着いていた。
ああ。そうか、これは神様のお告げだ。お前はもう死ねという。それでいい。それでいいと自然に思える。
遠くから、電車の音が響く。電車がみえるとこれにくると、私は片足をそっと線路に投げた。そして、もう片足も落ちるとなった時、澄んだ女の人の声が聞こえた。
「あらあら。お嬢ちゃん。何してるのかな」
チャラそうな人だなと思った。偽善心かなにかで、自殺を止めようとしているのか。
どうせ死ぬんだしと、私は振り返りその人に全部言った。
その間も電車は近づく。そろそろやばいなという所で、私は踵に力を入れ地面を思いっきり蹴って、線路に飛び出そうとした。
……が、女の人に阻止された。その瞬間、スレスレで電車が通る。最悪だ。やっと、楽になれるのに。
「なんで、なんで私の手を掴んだの?」
最悪なはずなのに、私は何故か酷く落ち着いていて。
「だって、君をここで見殺しにするのは勿体ないから。どうだい?うちのゲームに参加してみない?」
そう言いながら足元をふらつかせる私を抱き寄せた、女の人の顔は、不敵な笑みを浮かべていた。




