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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
天に咲く編

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50/72

50. PM4:20~


「で?」




 住居スペースに戻ると、リビングのソファに寝転がって備吾が文庫本を読んでいた。




「それで、少し待ってみることにしたんだ」


「いやいや」




 納得がいかないという顔をして、上半身を起こす備吾。




「すぐに警察っつうか、交番にでも届けろよ。不法侵入な上に、不法占拠だろうが」


「まあ、そうなんだけれど」




 備吾の言いたいことは分かるが、仁良にはどうしても彼が悪い人間には思えなかった。ただ屋上にいるだけで、まだ何をされたわけではない。




「まあ、紅茶でも飲んでゆっくりしよう」




 仁良は三人分の紅茶を淹れるよう用意をする。怜雄も手伝ってくれて、紅茶の味に満足したのか備吾もそれ以上何も言わなかった。








 約三十分後。午後四時二十分。


 怜雄と調理器具の後片付けをしていた仁良は手を止めた。




「そろそろ、もう一度見に行ってみるかな」


「あ、僕も行きます」


「……俺も行くか」




 どうやら備吾も心配してついてきてくれるようだ。三人で屋上へ続く階段を上っていく。




「あれ?」




 怜雄が一番に声を上げた。仁良も異変を感じとった。なにせ、屋上のドアが半開きになっていたのだ。仁良は良かったと笑みをこぼす。




「やっぱり、悪い人じゃなかったんだ」


「いや、待て。屋上で待ち伏せしているかもしれない。慎重に行くぞ」




 心配のし過ぎだとは思うが、備吾も自分の身を案じて言ってくれているので、言う通りにする。ゆっくりと屋上のドアを開けた。


 外は少しだけ夜の気配を感じるものの、まだ明るい。町の生活音が聞こえて来る。




「いない、かな」




 見えるのは物干し台にかかっている洗濯物に、プランターに植えられたミニトマトや茄子。それから、今夜の為に用意していた簡易テーブルとイスだ。


 備吾が洗濯物の裏側に誰かいないか見に行くが、誰もいない。




「あれ? ドアを封鎖するのにその台座を使ったのに、戻したのかな」




 見てみると汚れた様子もない。きっと洗濯物は簡易テーブルの上に置かれていたのだろう。




「屋上に初めて来ましたけど、すごく緑が多いですね」




 怜雄はしゃがみ込んで植えてある大葉を見ている。屋上の隅々まで見てきた備吾が振り返った。




「……誰もいないみたいだな。仁良、白昼夢でも見たか?」


「そ、そんなわけないだろ! きっと、説得に応じて出て行ってくれたんだよ。怜雄くんも聞いていたよね」


「はい」




 備吾は「ふーん」と納得のいかない様子だ。赤くなったミニトマトを一つちぎって口に放り込む。




「まあ、いいか。また夜だろ。それまで寝る」




 備吾は一人で戻っていった。仁良と怜雄は洗濯物を取り込み、住居スペースに運ぶ。畳んで全ての準備が終わると、怜雄とフラワーショップりんへ閉店の片付けを手伝いに行く。








 午後八時。五人で簡易のイスに座って西側の山を見つめる。




「お、おー……」




 山の間に花火が上がり始めた。あまり大きくない音が先に届く。離れているからだろうか。音より遅れて、ゆっくりと火の玉が上がって来た。白い火花が散って、花を咲かせた。大きくはない。手を伸ばせば手のひらに乗るぐらいの玉の大きさだ。




「わー! 今年初めての花火です!」


「綺麗ね」




 水木と鈴華の女性二人はとても喜んでいる。怜雄も黙ってはいるが、満足そうな顔で眺めていた。




「花火っていうのはな。中国でのろしを上げたのが始まりだと言われている。竹筒の中に火薬を入れて打ち上げたんだな。もちろん、無色だ。それから研究が重ねられて、花のように広がったり色が付いたりしたんだ」




 備吾は微妙な顔で頬杖をついている。花火の解説をしているが、とても退屈そうだ。確かに、巷の花火大会で見るよりもずっと地味な花火だ。




「備吾、ビールでも飲むか」


「いや、いい」




 気を利かせたつもりだったが、備吾は勝手にクーラーボックスの中からウーロン茶を取った。


 意外なことに備吾はアルコールを全く飲まない。以前、飲み物がアルコールしかなく、仕方なく飲んでいたことはあったが、全く酔った様子はなかった。きっと、全く酔わない体質で飲んでも楽しくはないのだろう。


 ビールは自分が飲むことにして、未成年の水木と怜雄にはジュースを、鈴華には桃のチューハイを渡した。特製ソースを付けたバケットの評判もいい。


 妙なことがあったが、とても充実した一日だった。






 妙なことがあった一日だった。だが、それは解決したはずだ。




「じゃあ、なんで巻き戻ってんだよ」




 寝て起きたら、仁良がガサゴソと家の倉庫を漁っている。出て来たのは見覚えのある簡易テーブルだ。





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