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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
天に咲く編

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49/72

49. PM3:13~



 午後三時十三分。


 バケットも焼き上がり、添え物やソースも三種類用意した。明太子のソースと生ハムチーズの添え物と鶏レバーのパテだ。もっと種類を作りたかったが重い男だと思われたくないから、三つに絞った。




「なんだ。結局、気合入れてパン焼いているんじゃないか」




 部屋から備吾が出て来た。さすがに寝巻姿ではない。デニムと無地のTシャツといつもの恰好だ。




「えっ、これでも重いか?!」


「まあ、料理好きなことは知られているんだ。重いもなにもないだろ」




 じゃあ、朝に言っていたことは何だったのだと思うが、大丈夫ならそれでいいことにした。




「そうだ。今日は鈴華さんと水木ちゃんの他に怜雄くんも誘ったよ」


「怜雄? なんで? 偶然会ったか?」




 備吾が驚くだろうと、仁良は思わずにんまりとしてしまう。




「実は怜雄くん、フラワーショップりんでアルバイトを始めたんだ」


「……なんだ」




 思ったより備吾の反応が薄い。仁良はバケットに伸びて来た手から、皿を遠ざける。




「なんだって、知っていたのか?」


「いいや。でも、いつかそうするんじゃないかと思ったからよ。店が閉まる前に売れ残った花を割引で買っちゃいたが、それでも財布には優しくないだろ。鈴華も気にしていたし」


「へー、そうなんだ」


「そうなんだって、お前が怜雄のことを話していたんだろう」


「いいや。何でもないさ」




 仁良は怜雄が花を買っていたことは聞いたが、それが閉店前の割引価格だとは知らなかった。どうやら、備吾は怜雄のことを特別気にかけているらしい。あまり人に興味がないと思っていたが、これは良い傾向だとまた思わず笑みが漏れる。




「そうだ。バケット味見してみるか?」




 仁良は上機嫌で、切ったバケットの端にソースを付けて備吾に渡した。




「美味い」




 言葉数は少ないが、本心で言っていることはよく分かる。その証拠におかわりを要求してきたが、あとは花火を見ながら食べる分だ。








 午後三時五十二分。


 食べ物と飲み物の用意は出来た。あとはバスケットに入れて、屋上に持っていくだけだ。うちわもいくつか用意した。




「あとは……ああ。洗濯ものが干しっぱなしだ」




 いつもはもう少し遅い時間に取り込むが、夏なのでとっくに乾いているだろう。住居スペースのドアを開けて、階段を上がっていく。そして、ドアノブに手をかけた。




「あ、あれ?」




 ドアノブは回る。だが、押しても開かない。まるで、何かにつっかえているようだ。


 ドアの周りには何もないはずだがと思って、全体重を乗せて思い切り押した。すると、ズッと何かが引きずられるように動いたようだ。




「何が……」




 隙間から外を覗いた。なぜか、物干し台の石の台座が置かれているようだ。さすがの仁良もおかしいと思った。




「……誰か、いるんですか」




 恐る恐る尋ねた。すると、返事がある。




「ああ。いる」




 男性の声だ。思わずビクッと肩が跳ねた。




「な、何をしているんですか。そんなところで」


「なんでもいいだろう」


「い、いや。そこは僕の家の敷地のようなもので……」




 ようなものも何も、敷地そのものなのだが、何故か丁寧な口調になってしまう。




「それよりも、大事な話がある」




 なんだろうと耳を傾けていると、後ろからパタパタと足音がした。振り返ると、怜雄が階段を上ってきていた。




「仁良さん。鈴華さんが準備もあるかもしれないから、こっちを手伝ってくれないかって……。ドアに張り付いて何をしているんですか」


「いや、ちょっと諸事情が」




 仁良は屋上に誰かがいて、勝手に封鎖していることを伝えた。怜雄は苦い表情で言う。




「……僕が言うのもなんですが、警察に連絡した方がいいと思います」


「そうかな。でも、悪い人じゃないと思うんだ。あのー、平和的に解決しましょう。そこを出て行ってもらえたら、自分は警察には連絡しません!」




 大きな声でドアの隙間から語り掛けた。しかし、返事はない。




「参ったな」




 もう一度ドアを押すと、今度はピクリとも動かなくなっていた。




「やっぱり警察に……」


「まあ、怜雄くん。もう少し待ってみようか。そのうち、気も変わるかもしれないしさ」




 仁良は屋上のドアに背を向ける。怜雄も仁良さんがそう言うならとついてきた。




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