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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
炎の分身編

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38. 巻き戻り一回目。二日目~三日目



 巻き戻り一回目。二日目の午前五時三十五分。


 朝の早い仁良もまだ目を覚まさないような時間だ。しかし、ガチャリと玄関が開く音がする。


「なんだ?」


 巻き戻っていなかったら気づかなかった。仁良が外に出て行った音だ。備吾もTシャツだけ着替えて、スニーカーのかかとを踏んだまま後を追う。


 まだ夜も明けきっていない早朝は人がいない。音を頼りに仁良の足取りを追った。


 追いつくと、そこには消防団のメンバーも揃っている。


「何かあったのか、こんな朝早くに」


「ああ。備吾。起こしてしまったか。これだよ」


 仁良が示したのは、ゴミ収集所だ。そこには一つのゴミの詰まった袋が半分燃えて、中の生活ゴミが見えていた。白い泡が付いている。


「なるほど。夜のうちに出していたゴミが燃やされたのか」


「そうなんだ。燃えるゴミは夜中に出してはいけないルールなのに……」


 ルールにこだわる辺り、仁良はまだことを大きく捉えていないようにも思える。消火器を手にしている消防団員が言う。


「今から一時間前に、見回りをしているときに自分が発見した。すぐに寄合所に消火器を取りに行って消化を」


 備吾は近くに座り込んで燃えたゴミを眺める。


「しかし、ゴミなんて何でもかんでも入っているだろ。そう簡単に燃えるか?」


「どうやら、火のついた枝をゴミの中に突っ込んだみたいだ。中の燃えやすいものに引火して、内側から燃えたみたいだ」


「ふむ」


 備吾はゴミの側に落ちているものを見つけて拾う。


「……マッチだ」


 マッチの燃え残りが落ちていることは不思議ではない。ボヤが起された現場なら、着火するものが確実にいる。


 しかし、チャッカマンやライターではなく、なぜマッチなのだろうか。証拠とは言えないようなものだが、燃費も悪く証拠として残っているではないか。


「見つけたのは燃え始めたばかりの頃だろう。側に人はいなかったのか?」


「すまない。消すのに必死で、側に誰かいたなんて考えもしなかった」


 それはそうだろう。燃えているゴミもどこにどう転がるかも分からない。火を消すことが先決だ。犯人はそういう心理をついているのかもしれない。


「とにかく、見回りの回数を増やして、ゴミも夜中には出さないようルールを徹底するように町の人にも協力してもらおう」


 仁良の言うことに、消防団員たちも頷く。


 だが、彼らの行動を嘲笑うかのように、炎の勢いは増していった。








 巻き戻り一回目の三日目。


 町の空気はやはりピリピリしている。仁良もゴミを夜中に出さないようにという張り紙を作って、掲示板に貼っていた。それが、ただのルール順守をさせるためだけの張り紙ではないことは誰もが知っていた。


 ゴミが燃やされた噂は、瞬く間に広がっている。気にしていなかったお年寄りも心配そうに身を縮め、子供たちも正義感を少し暴走させて消防ごっこをしていた。


「大変ね、仁良くん。備吾さん。今日も川沿いの土手で燃えたあとがあったそうよ」


 緊張感のある表情で、鈴華も情報を伝えて来る。すぐに二人で土手に向かった。


 消防団員の人々は既に集まっており、野次馬もいる。野次馬を近づかせないように苦心しているようだ。


 土手の上ではなく、坂になっている場所に例のボヤがあるようだ。


「お疲れ様です。こちらでまた、ボヤがあったらしいですね」


「小椋さん、お疲れ様。ですが、ここは例のものとは少し違います。小枝を積み上げただけで、ただの焚火にも見えます」


「この、くそ暑ちぃのにか?」


 この日も、歩くだけで汗が出て来るような陽気だ。小枝はほぼ全て炭になっている。犯人も、昼間から小さな焚火とは言っても、よく燃やそうと思ったものだ。


 ただ、これも一連のボヤと同一人物が起したものと考えるのは早計だろう。


「これはボヤとは関係ないんじゃないか。子供が点数の悪かったテストを燃やすのにちょうど良さそうだ」


「確かに備吾の言うことも一理ある。でも、どこの子も火の始末には注意するように言われているはずだし、わざわざこのタイミングで燃やす必要もないと思うけれど」


「まあな」


 ただ一つ確信したことがある。一連のボヤと関連があってもなくても、これほど騒がれている中で白昼堂々と焚火をするような挑発的な人物であろうということだ。


 まさか、町で騒がれていることを知らないわけがない。もし、ゴミを燃やした人物ならば、消防団員が見回りをしていることも分かったはずだ。


 備吾も、見回りをしてはいる。ただ、まだ一回目の巻き戻りで、どこで何が燃やされるかも分からない。やはり、火事の現場を押さえる必要があるだろう。








 午後五時四十二分。


 火事が起きる木造のアパートには度々訪れていた。古く家賃も高くないので、あまり裕福ではない人物たちが住んでいる。一階と二階に六室ずつ。老人も多い。


「来たか」


 火元ではないかと考えている部屋から一人の女性が出て来た。三十代後半の女性に見える彼女は、派手な赤いワンピースを着ている。苗字だけは分かっている月野伎だ。既にいくつか調べはついている。


 週に五回、近所のスナックみゅうで働いている。もちろん、働くのは夜間だ。午前0時ちょうどまで店は開いていて、帰って来るのは一時を過ぎるか過ぎないかの時間になる。


 煙草を吸っている様子はない。火事の原因は火の不始末ではないだろう。


 ボヤが起きている時間もまちまちなので、夜間に働いている彼女が犯人である可能性も高い。生活に疲れたか、何か大きな悲劇が彼女を襲ったか。


 見た所、正常に働いているように見えるが、職業柄無理して笑うのはお手の物かもそれない。


 目星は着いたが、何も起きていない今は接触することもはばかれる。ただの偶然が起した火事かもしれないし、知り合いでもない備吾が近づいても警戒されるだけだろう。スナックの方に通ってもいいが、客としてあしらわれるだろう。


 とにかく、火事が起きてもアパートの住民を全て救い出す。それしかないだろう。




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