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十字路に棲む女霊 9


「とにかく藤巻を誘い出せなきゃ話にならねぇ。涼、その藤巻と仲の良い連れの奴とか分かるか? 多ければ多いほどいいんだけどよ」


「藤巻と仲が良い? えぇと……」


 言われて思い浮かべるけど。

 藤巻って大抵、一人でいるからな。

 頑張って記憶を絞り……手繰り寄せて……。


「……前に一組にいる栗枝と話してるの見た事ある。あとは……」


「その男のあだ名とか分かるか?」


「普通にマロンとか呼ばれてたよ」


「よし。他にも誰か思い出しててくれ」


 やや切羽詰まった言い方をした狭間さんは、ノートパソコンを開いてカタカタと何やら打ち始めた。

 その隣で。

 ぬぼ〜っと、佇む那森さんの霊が、ノートパソコンの画面を上から覗いている。

 

「あのよ……那森さん。悪いけど怖くて気が散るから、見ないでいてくれるか?」


 狭間さんが少し震える声で言うと、ちゃんと伝わったようで那森さんは移動した。

 その動きを横目で追うと、俺のほぼ横のキッチンの前で座った。

 

 三角座りで。


『なぜに三角座り……ん?』


 那森さんはパンツスーツ姿で、ジャケットを脱いでいる状態。

 事故当時のままの姿らしい那森さんのスラックスが、太腿部分からお尻までが破れて……。

 

 黒いレースの下着が、めっちゃ見えてる……。


「あの……。気にならないならいいんですけど、その……パンツが破れてて……那森さんその……下着が……」

 

「おもいっきり裂けてるな……」


 指摘すると那森さんはゆっくりと足を崩して、つま先を揃えて座る”お姉さん座り”に変えた。


「……やっぱり気になるんだな。お……涼、この男か?」


 狭間さんがノートパソコンをターンさせて画面を見せた。

 そこには写真付きの男のアカウントが映っている。

 アカウント名は”marron”。

 そのまんまだ。


「うん。間違いない栗枝だ。本人じゃなくて栗枝に言うの?」


「あぁ、だけど事故の事はもちろん伏せる。ただ、藤巻と連絡が取れるなら伝言を頼むって送るんだ。本人じゃなくて友人を介した方が、当人はモヤモヤするだろうからな。必ず藤巻の方から連絡をくれるだろうぜ」


「そういうもんなの……?」


「涼がもし、そんな連絡受けたらどうする? どんな内容か……って、確かめるんじゃないか?」


「うーん……場合によるかな」


「今回の藤巻みたいに、自分の行動が起因となった事故で、誰かが死んだ場合なら?」


「それは……。うん、気にしてしまうよね」


「だろ? よし、メッセージ送信っと……」


「早いね……なんて送ったの?」


「ん? あぁ、最初に軽い挨拶をしてな。で、それから”もし連絡できるなら藤巻に、「あの一件の真犯人について伝えたい事がある、そう伝えて欲しい。そう言えば分かる。返事を待ってる」って、送ったんだ」


「来るかな?」


「まぁ、まずはこの栗枝のリアクションを待つしかねぇな。あと、他に誰か思い出したか?」


「ごめん、栗枝しか……思い出せなさそう。あ、ところで、さっき狭間さんが言いかけた、眞元が犯人って理由なんだけど、話途中で……」


「あぁ、そうだったな。もう一回、最初から整理して順番に話していくぞ。昨日、山川が死んだ。それで、噂をしていたクラスメイトに対して、藤巻が教室で荒れた。ここまではいいな?」


 山川が死んだ、という部分で狭間さんは少し目を泳がせた。

 那森さんの事が気になるようだ。


「うん」


「で、次に眞元だ。隣の同級生が死んだ翌朝だってのに、涼が気分が悪いと言って退出しようとしたら、罵声を浴びせてきた。そうだな?」


「そう」


「またしても学校の生徒が死んだ。教員達は大騒ぎしてたろう。そして間違いなく、朝から職員室で緊急会議となったなずだ。内容は「特に生徒達が動揺しているだろうから、クラス受け持ちの先生方は生徒達の様子を……」ってよ。それにも関わらずだ、眞元って奴は涼にそんなクソみたいな発言をした。しかしそれは誰よりも動揺している不安定さを語っている。それこそ心臓が千切れそうなぐらいによ。やましい事を抱えてる人間は、何にも訊かれてないのに、必要以上に他人の気をらせようとするんだ。 ”自分はあの一件とは無関係です潔白なんです” ってな。だから眞元は……」


 狭間さんは前屈みになって。


「車通勤を止めて公共交通機関で通勤するようになったのは、環境問題を考えているからだ、ってよ。訊かれても無いのに、つい言っちまうんだよ。人を轢いた車で通勤出来ないからな。おそらく眞元は車をもうすでに、知り合いなりを通じて処分してるだろう。無駄な足掻あがきだろうけどな」

 

「そっか……。それで環境保護だとか言ってたんだ……」


「そういうこった。智巳さんは眞元って教師をSNSで知って、そいつの身の回りを速攻で調べたんだ」


 言って狭間さんは指で手紙をパン、と弾いた。

 その仕草が命を推し量るように思えた。

 ここにいる俺達が助かるにはおそらく、藤巻と眞元の二人の命を犠牲にしなければならないのだ。

 那森さんを車で轢き殺して逃げた眞元は、学校の生徒達がその十字路で呪いを受けて犠牲になった噂を知っていたはずだ。それを見て見ぬふりをし続けた。なので眞元がたとえ殺されても自業自得とも思える。

 

 だけど。


 藤巻はどうだろう。

 あいつまでが殺される必要があるのか?

 これまで犠牲になった三人もそうだけど、眞元が轢いた事で、なぜ学校の生徒が死ななきゃならなかったのか。

 怨念だか何だか知らないけど……。


「……あのさ……狭間さん」


「ん?」


「那森さんを殺したのがさ……もし、本当に眞元なら……」


「なんだ」


「藤巻を……助けてあげられないかな?」


 そう言った途端、俺は呼吸ができなくなった。

 

「…………!」


「涼!」


 指か……首に食い込んで……息が出来ない……。


「待て! 那森さんよ! 涼は本気で言ったんじゃねぇよ!」


 背後から那森さんが、俺の首を絞めているのか。

 徐々に目の前が白くなってきた。

 手を退けようとするも、首を絞めているこの手を掴めない。


「ぐはっっ!! あっ……! はぁはぁ………」


 解かれた。

 呼吸停止で失った酸素を馬鹿みたいに吸い込む。

 ヤバかった……。

 かなりの恨みつらみで圧迫された。


「涼、大丈夫か!? なぁ、那森さん。ちゃんと納得してくれるようにするからよ……と………おっ」


 狭間さんがノートパソコンを見て何かを確認すると、クルッとターンさせて俺に画面を見せた。


「来たぜ、涼。まずは栗枝からだ」


 向けられた画面上のメッセージにはこう書かれていた。


”誰だ、アンタ何者だ。真犯人ってなんだよ”

 

 俺に確認させると、狭間さんはすぐにノートパソコンをまた回転させて。


「さて、まずはこの栗枝ってハードルを越えねぇとな」


 ニヤリと不敵に笑った。


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