錯綜する世界
その日、世界に激震が走った。
シュタイラ帝国の隣国、ゼノハイム公国。その東部に位置する今は使われていないはずの鉱山――ヴェルクロア旧坑。
魔素の濃度が上がり、魔物の大量発生により廃坑になった場所。
立ち入り禁止となって封鎖されているその坑道に足を踏み入れる者などいやしない。
だというのに、
「今の爆発は何だ!?」
「分かりません!」
「魔導兵器によるものか!?確認を急げ!!」
突如として起こった爆発に平和だった麓の町に混乱が起こる。
警邏隊は状況確認と対応に追われ、町の隅から隅へと走り回る。
これは人災か、それとも自然災害か。
爆発の知らせは魔導具を使ってすぐに国中に知らされ、公国内にいた他国の者達によって世界中に発信される。
「報告!ヴェルクロア旧坑周辺の地域の魔素濃度が急激に上がっています!」
「魔物の出現と、生態系の変化ならびに近隣への被害が予想されます!すぐに騎士団の派遣を!」
とある研究機関はこれからに備えての準備をし、
「親父ー!なんか隣町で爆発が起こったとかで皆騒いでるー」
「おっ、よっしゃ。稼ぎ時だな!野郎共!すぐに食糧と防災用品をかき集めろ!売って売って売りまくるぞ!」
とあるキャラバンは金の匂いに飛びつき、
「わー、凄いね。凄いや!この感覚は久しぶり。大地が喜んでる!空気が祝福の波を伝えてるよ!」
「そのポエムみたいな言い方を止めろ、気持ち悪い」
「ひっどいなー。ボクは心のままに表現してるだけなのに。ほら、感じない?ないはずの心臓が高鳴るような、期待に満ち溢れたそんな高揚感を。今代の子はどんな子だろー、って」
「坑道を爆発させるような奴だぞ。今までの奴等と同じようにとち狂ってるに決まってる」
とある2つの善と悪は対照的な反応をし、
「あぁ……良かった。そこにいたんだね。うん、分かった……すぐに行くよ。待ってて、―――」
とある者は1を聞いて10を知り、
「うるさい……。何なのよ、もぉ」
意図せず起こされた者意図せず起こされた者は悪態を吐く。
また、あるところでは――――
「あーらら、これはまた……世界が荒れそうだねぇ」
1人の道具屋が空を見上げ呟き、
「あぁ……どうして、こんなことにっ……」
美しい髪の乙女は涙し、
「ウザってぇ……」
「グルル」
憤怒を宿したその者は相棒と囁き合い、
「ぬぅっ!?ぬごっ!?何、何、何!?」
とある少女と同じ花紺青色を持つ者は困惑し、
「あなたが待っていたのは、この時代ですか?」
叡智を刻まれた青年はとある絵の前で問いかける。
「ハッハッハ!生まれてやがった!おい、生まれてたぞ!――今代の闇の使い手が!」
「そんなに騒がなくても聞こえているわ」
「早く捕まえようぜ!前の奴みたいに逃げられたら堪らねぇ!」
「そうね。……あの人と、同じ眼をした子だといいいんだけど。あなた達はどう思う?」
「……闇の魔力保持者が現れたということは、光の魔力保持者も生まれているということだ」
「ああ、――保護せねばな」
「フフ、保護……ねぇ」
回り出し、動き出す。
1人、あるいは……
「思い出した。私の名前は――!」
2人の少女を巡って、大きな物語が幕を開けようとしていた。
だけど、“彼女”は気付かない。
『馬鹿が!魔力も魔石と同じで、自分と同じ属性しか取り込めないんだよ!お前みたいに闇の属性を持つ奴以外は他の属性の魔力を取り込むと、自分の魔力と反発し合って暴走するんだ!それが魔力暴走!よく覚えとけ!!』
「そんなの知らないじゃーん!」
鏡に囲まれた部屋、その中心で言い合う1人と異形。
魔力暴走という爆発によって粉々になった1枚の鏡。その破片を片付けていたもう1人が言い合いの仲裁に入る。
「そこまでにしておけ。ノルディスの命があっただけ良かったじゃないか。お前にとっても、俺にとってもな」
『下半身を吹き飛ばされておいて、お前はよくこいつを甘やかせられるな』
「もう治った」
そう言った騎士の下半身には、赤黒く染まったシーツが巻かれている。
そのシーツの間からは傷ひとつない素肌が見えた。
正座をさせられていた花紺青色の少女が申し訳なさそうに縮こまる。
「それに関してはごめんなさい……」
『“通路”まで見事に壊しやがって……』
「もう行くつもりはなかったんだろう?」
『そういう問題じゃない』
観測者気取りの“彼女”だけは、これから起こる全ての事象の中心に自分がいることに気付かない。
それだけではない。
その全てをかき乱し、定められていた人の生き死にさえも、訪れるはずだった幸や不幸さえも歪めていくことに全くと言っていい程気付かない。
「はい!とりあえず僕は魔力をいっぱい使ってお腹がすきました!ご飯を所望します!」
『お前はもっと反省しろ!!』
これは、そういう物語。




