エピローグ
シェリル達は魔族を倒し、ソレアの街へ舞い戻った。
その目的は殺人事件の主犯格であるカイルこと、アズモスを捕らえる為である。
シェリル達は屋敷に向かい、ジョゼフ・ハンダックに面会を申し出た。
当然、それは断られたが、「犯人を知っている」と言い、強引に面会の許可を得た。
ジョゼフは息子が元に戻ると信じて協力をしていたらしく、アズモスという魔族にすでに乗っ取られている事を知らなかった。
シェリル達は全てを話し、ジョゼフに協力してくれるように頼んだ。
ジョゼフはこの頼みに応じ、自身がこれまでにやってきた事と、自分が知っている範囲でのシェリル達の行動の正しさを証明する文書を渡してくれた。
そして「少し時間が欲しい」と、一時的に部屋を退出したのだ。
数分後、シェリル達は誰かが発した断末魔を聞く。
兵士と共に2階に向かうと、そこにはカイルの死体があり、その近くには自害したジョゼフの遺体も発見できた。
ジョゼフは息子の体に巣食う魔族を自ら退治して、罪の重さに耐え切れなくなり、自害の道を選択したのだ。
シェリル達はやりきれない微妙な心持ちで首都へと戻り、ジョゼフの文書を渡した上で、起こった事の全てを話した。
アーダンは約束どおり、シェリル達とレイヴンの身柄を釈放し、一時保留としていた罪を、無罪放免に書き換えた。
「さぁて、と、ようやく自分達の目的の為に動けるわね…」
冒険者ギルドのテーブルにつき、伸びをしながらシェリルが言った。
「そろそろ財政もやばいです…びた一文貰えませんでしたから」
とは、子供ながらに財布を預かるフェインが放った言葉であった。
「そういえばそうね…考えたらタダ働きじゃない!?ちょっと一言言ってくるわ」
フェインに言われてその事に気づき、割に合わないという思いに至り、シェリルがその場に立ち上がる。
「ちょ、ちょっとシェリルさん!無罪放免にしてくれただけでも十分ありがたい事じゃないですか!ヘタに騒いで問題を起こしたらまたタダ働きですよ!」
「何よそれ?私が問題を起こしたみたいじゃない?」
自身を掴むフェインに対し、納得が行かない様子のシェリルが眉根を上げてそう言った。
「えーと…牢獄に行こうって言い出したのって確かシェリルさんでしたよね…?」
しかしフェインのその言葉により、「責任が誰にあるのか」が発覚。
「だから何よ!それが何か?とにかく少しくらい報酬は貰うわ!人間達の社会には必要経費ってものがあるでしょ!」
それを理解した上で言って、報酬をもぎ取ろうと動き出した。
「やめてくださいってば!フィリエル!君も手伝って!」
これは1人では止められないと思い、フェインはフィリエルに協力を頼んだ。
そして、2人がかりでシェリルを掴み、城へいけないようにしたのだ。
が、「ビリリリリィイ!」という音を発し、シェリルのローブの袖が破けた。
「じゃあね。大丈夫。信用しなさい」
破れたローブから「するり」と抜けたシェリルが笑顔でそう言った。
「あ、あんたエルフだったのか…」
とは、その背後からの親父の言葉だ。
ギルドの親父は全身硬直。
シェリルの耳を指差して口を「ぱくぱく」と動かしていた。
「あっちゃ…あ…この人が居る事を忘れてたわ…」
シェリルが呟き、額を抑える。
「まぁ、そういう事なのよ。騙していたわけじゃないけど、黙っていた事はごめんなさい」
しかし、もはやどうにもならないと覚悟を決めてそう謝った。
「そんな事はどうでも良い…!」
親父は怒ったような口調で答え、
「そんな事はな…どうでも良いんだ…!」
その場で屈み、何かを持った後、凄まじい勢いで飛び出して来た。
親父は転がるようにして床の上を「ぐるぐる」と移動。
シェリルの前で片膝をつき、
「私と結婚してください!貴女は私の女神です!」
と、言って、バラの花束を進呈したのだ。
輝く瞳でシェリルを見つめ、返答を心待ちにしている親父。
「え…無理」
というのがシェリルが放った即答だった。
「アアアアアアアアアアアアア!!?」
親父は顔を縦長にして甲高い声でそう絶叫。
バラの花束を床に落とし、逃げるようにして走って行った。
「わ、悪い事したのかしら…?」
残されたシェリルが「ボソリ」と呟く。
仲間達は何も言えず、首を横に振るだけだった。
「ま、まぁいいわ。冒険者ギルドを追放になる前に一番高い依頼を受けましょう」
気持ちを切り替えてシェリルが言った。
エルフだとバレた以上は追放もありえるかなと思い、その前にお金を稼ごうとしたのだ。
フェインはそれもどうかと思ったが、防衛大臣の元に行って騒がれるよりはマシだと思った。
「あ、じゃあ僕も探しますよ。自分達の実力を考えて、大丈夫そうな範囲の中で一番高い依頼を探しましょう」
「あらあら、考えるようになってきたわね。感心感心」
フェインの言葉を聞いたシェリルが上機嫌になってそう言った。
「えへへへ…」
シェリルに褒められた事によって、言ったフェインも上機嫌になる。
「どっちも単純だな…」
という、レイヴンの言葉にレオンハルトが頷いた。
「そういやアレ、なんだったんだろうな」
「ん?アレ、とは?」
レイヴンが言い、レオンハルトが聞く。
「ああ、オメェは見てなかったんだっけか。フィリエルは見ただろ?フェインの体がパァーって真っ白に光った所をよ」
「はい、見ました。魔法か何かを使ったのだとわたしなりに解釈してます」
レイヴンに聞かれたフィリエルが答える。
「魔法…って感じじゃなかったな。特に効果も見られなかったしよ」
その解答には納得が行かない、レイヴンが眉を斜めにして言った。
「あれはねもっと簡単なものだよ」
とは、話を黙って聞いていたレウルが発した言葉だった。
「なんだ?わかってんなら教えろよ」
レイヴンが聞き、フィリエルとレオンハルトがレウルを見つめた。
「勇者の素質を持つ者だけが発する事が出来るもの。それはね、誰にも負けない勇気さ」
レウルが言って「フフフッ」と笑う。
それを聞かされたレイヴン達は揃って眉を斜めにしていた。
とりあえず終わります。
長いお付き合いありがとうございました。