助っ人
プロレスで勝利したレスラーを、比部はスカウトしようと言い出した。
どうやら、なにか縁があるようだが、上手くいくのだろうか?
明らかに入っちゃいけなさそうな裏方の部分に比部は私達を連れて来た。細い廊下の脇には幾つもの部屋があり、その周りには、カメラマンやスーツの男など沢山の人間がごった返していた。彼らは、私達がそばを通っても、「何をしている!」と引きとめる事は無かったが、明らかに奇異の視線を浴びせられた。
「よし、ここだがや!」
「ええと……」
比部が立ち止まった先にある扉には「震日本プロレス控室」と書いてある。
何だかわからないが独特の緊張感が扉の前に漂っていた。明らかに、開けちゃいけない気がする。しかし、比部はあっさりとその扉をバタンと開けた。
「おーい! 斎藤クン!」
「!?」
開いた先には、沢山のレスラーらしき男たちが溢れておりむわっと汗臭い匂いがこちらに流れ込んだ。男たちは、みんな比部と私達の姿を見て唖然としていたが、1人だけ反応の違う者がいた。例のアイアンクロ―で勝利したあのレスラーだ。頭に包帯をした彼は既にTシャツとジーパンに着替えており、寝ていた体を起こすとこちらに近づいてくる。
「くら姉! どうしてこんなとこに!?」
「えへへ、あんたに会いに来たんよ。試合、良かったで!」
「ああ、ありがとよ! ……まあ、ここで立ち話も何だし、向こうに休憩所があるからそこに行こうぜ」
斎藤と呼ばれる男は、私達を廊下の奥の自販機とソファーのあるところまで連れて行った。
そして、私達をイスに座らせると、アイスコーヒーを買って私達にくれた。
「ありがとうございます」
「いやいや、気にしなくていいよ。……しかし、ビックリしたなぁ。まさか、あの部屋にくら姉が入ってくるなんて」
「あはは~どうだ、驚いただろう! んじゃあ斎藤くん、この2人に改めて自己紹介してちょーよ」
「はい! わかりましたっ!」
斎藤と呼ばれるその男は、私達の方を見て一度深くお辞儀をした。ワイルドな見た目の割になかなか礼儀の正しい人間である。
「俺は、斎藤 亮介。<マキシマム斎藤>って名前でプロレスラーやってます! くら姉さんとは幼馴染みで、地元の大須では昔からお世話になってるっス!」
「どうも、私はジャンヌダルクです。こっちは……」
「ぱくりまく朗でーす! それだけ筋肉があるとガンガン出そうですね!」
「よろしくッス! ……んで、くら姉、今日は何の用なんですか?」
「ああ、ちょっとあんたの力を借りようと思ってな。まあ、ワシの話を聞ききゃーよ……」
比部は、ここに来るに至ったいきさつを、わかり易くマキシマムな斎藤に話す。
斎藤は、両手を組んでうんうんと頷きながらそれを聞いた。彼にフラガラックの事を言っても良かったかどうかは微妙だが、力を借りるのだから仕方あるまい。
「……へえ、大須にそんな地下迷宮があるなんて知らなかったッス!」
「そうだろうな。織田の者の間に伝わって来たものだから」
「それで、その探索を俺に手伝えと?」
「そう言う事だがや。お主は、軍に入ってた事もあるからな。身体的能力の他に罠の回避や危険察知も得意じゃろ? ワシらだけでは危険だから是非とも協力してほしいんよ」
「なるほど……俺も、この通りプロレスの興行があるんでいつでもとはいかないですが、くら姉さんの言う事だし、出来る限り協力するッス!」
「ありがとな! じゃあ、空いてる日にちとか教えてくれ! 斎藤くんの都合が良い日に探索する事にしよう」
マキシマムな斎藤のスケジュール帳を調べてもらった結果、3日後が予定もなく空いている事が分かった。私達は、その日に再び大須出会う事を約束し、その場を後にした。
引き締まった筋肉と、凛々しい容姿はイーリアスの武人アイアスを彷彿とさせるこの屈強な男を同行させる事が出来るのは実に幸いな事である。まさか、FOX老人から始まってこのように人の繋がりが出来るとは思ってもみなかった。フラガラックにこのようなかたちで近づいて行く事も。
運命と言うものは、やはりどこかで静かに私達を見ているのかもしれない。




