鋼鉄の爪
ジャンヌ達が訪れたのはプロレスの試合だった。
2人の男がリングの上で戦う。両者共に激しい火花を散らしていた!
さて、ラリアットをまともに喰らった覆面レスラー男はリングに倒れ込みそのまま立てないでいた。
脳しんとうでも起こしたのかもしれない、体を起こすのにえらく苦労しているのが見える。
相手の短髪で若手っぽいレスラーは、そのスキを見逃すはずもなかった。接近すると、覆面レスラーに馬乗りになり、両手で顔を覆うように掴んで持ち上げる。技をかけられた相手の方は腹が千切れんばかりにエビ反りになった。これは苦しい。
「あれはキャメルクラッチですね~ブロッケンマンが真っ二つになった伝説の技ですよ! 彼の息子さんも使ってましたよね~ジャンヌ様」
今度は、まく朗の解説。
確か、時計みたいな超人もこの技で真っ二つにされたよな。私は、プロレスの知識は全くないが、某ドジで強いつもりの牛丼大好きスーパーヒーローの漫画は読んだ事がある。
しかし、漫画の様に簡単に腹は裂けない。覆面レスラーは体を捻って耐性を崩すと、相手の顔面に向かって頭突きを喰らわせた。見事な切り返しだ。ヘラクレスの如き凛々しい顔をした相手レスラーの顔からは血が噴き出す。どうやら、今の攻撃で額のあたりが切れたようだ。
「ひゃー、流血ですよ! 流血デスマッチです!」
まく朗は楽しそうに言う。
私も、昔は血生ぐさい戦場にいたから、こういう事には免疫がある。清楚な美少女ならキャーと声を出したり卒倒したりしそうなものだが、残念ながらそう言う事は全くない。表情もさほど変えずに、リングの上を見るのみだ。
「まずいね……視界が悪くなった」
比部は腕組みをする。
さっきからの話の内容からすると、どうやら彼女はこの流血した方のレスラーを応援しているようだ。ファンか何かなのかもしれない。
少しの間、試合は止まっていたがレフリーの指示でいよいよ再開された。
血が顔にまとわりつく男に対して覆面レスラーは攻勢に出る。一気に距離を縮めると、相手の頭を掴んだ。また頭突きをお見舞いするつもりか、或いは投げるつもりか?
!?
頭を掴んでいた覆面の男の手が緩んだ。
何が起こったか最初は分からなかったが、少し経動いて見ると、流血したレスラーの両手が相手の脇腹を掴んでいるのが見えた。それは相当強く掴んでいるのか、覆面レスラーは苦悶の表情でその手を引き離そうと手を動かす。しかし、力が入らないのか、その掴んだ手を引き離す事ができない。
「よし! 遂に出た! アイアンクローだ!」比部が言うと同時に会場からも大きく声が上がる。
「鉄の爪……?」
「あれはアイツの十八番でね! あれを喰らったら、そう簡単に逃れる事は出来ないよ。何せ、かのF・F・エリックに勝るとも劣らない力なんだからね! 」
エリックって誰だ?
しかし、彼女の言う事は間違っていないようだ。掴んだ腕は一向に離れず、覆面レスラーがその痛みで弱って行くのが私にはよくわかった。そして、間もなくレフリーが近づき、覆面レスラーとなにかやり取りをする。
カンカンカン!
レフリーが手を大きく振ると同時にゴングが鳴った。
勝負は決したのだ。顔が血にまみれたその男が戦いに勝利した。
「すごかったですね、クーちゃんの応援してた人! あまりの迫力に出ちゃいそうでした~」まく朗が観客に合わせて拍手する。
「そうだろ? アイツのアイアンクローは覆面さえ掴み破るくらいだきゃーな! ギブアップも止むをえん話じゃ。……んでジャンヌ、お前はどうだった? 感心したか?」
「ああ、あれだけ屈強ならオルレアンでも戦力になっただろうな」
「あはは、そうかそうか! 気に入ってくれたみたいで良かったがや。これから力を借りる奴だからのお」
「え……?」
「あいつが、今回の助っ人や! 試合も終わった事だし、早速アイツのトコに行くぞ!」
「はぁ……」
比部に連れられて、半信半疑の私とまく朗は人ごみの中を抜けて行った。
背後のリングがどんどん小さく遠くなっていった。




