大須界隈日が暮れて
フラガラック捜索から脱線し、たくさんの買い物をした末にゲームセンターに寄ったジャンヌとまく朗。クレーンゲーム、格ゲーに花を咲かせ……
「……やったー! 二連勝です! ありがとうございました、ジャンヌ様。手加減してくれたんですね?」
「いや、手加減なんてしていないよ。私の負けだ」
私が格闘ゲームがそこまで強くないのもあるが、まく朗の使っていたマシオリというキャラクターが厨キャラ(強すぎ)だったのだ。ボタン連打で出る棍棒を振り回す攻撃が、リーチが長くて全くかわせなかった。ゲームの中のジャンヌは悲しいくらいコテンパンのボコボコにやられてしまったのだった。
「もう一度やりますか?」
「いや、このゲームはもういいよ。それに……」
私は携帯電話を取り出して、時間を見る。
内蔵された時計は17時36分と表示していた。
「そろそろ、帰る時間だな。もうすぐ6時だぞ」
「ありゃー、そうですか。よかったら夕飯もご一緒しますけど?」
「いや、そうしたいのもやまやまだが、今日は散財してしまったし、家で私の分の御飯を作ってるだろうから。今日はこの辺にしておくよ」
「お母さんの御飯が待ってるんですね~それはしょうがないです」
「ん?」私は、彼女の残念そうな表情と今の言葉にひっかかりを感じた。
「まく朗の家は、今日は御飯作ってないのか?」
「……」
「まく朗?」
「あ、ああ、何でもないです! 実は、御飯は今日は食べてくるって行っちゃったんですよ! いつも外出するときは夕飯も外で食べて外で出すんです~」
何でもないと言ったが、言葉のごまかし感や表情からして明らかに何でもなく無い。おそらく、言いたくないような事情でもあるのだろう。詮索する事もできるだろうが、私はそういう深追いは悪いと思い、それ以上は触れない事にした。
ゲームセンターを出て、古書店のあるメイン道路の十字路で、私たちは解散する。
春の空は、まだ太陽の光を残しており、水色と薄黄金色の美しい輝きを放っていた。
「それじゃあ。気を付けて帰るんだぞ」
「はい、ジャンヌ様」
まく朗は上前津の駅から、地下鉄経由で金山に行ってから更に電車を乗り換えて岐阜に帰るらしい。距離は把握していないが、結構時間がかかるということはわかる。ちなみに、私と一緒に鶴舞まで歩けば地下鉄に乗る必要はないのだが、素性がバレるので秘密にしておくことにした。
「また、いつでも呼んでくださいね~次こそはフラガラックを探しましょう!」
「ああ、私の方でも時間があったら探してみるけど。よろしく頼む」
「はい! それじゃあ、ジャンヌ様。今日はさよならです! 家に帰ったら、今日の分を存分に出しちゃってください」
そう言って、まく朗は手を振りながら階段を下りて地下に向かっていった。
暫くして、怪しげな歌声が聞こえてきたが、私は振り返ることはせず、帰路に就いた。
フラガラックの捜索初日は、こうしてほぼ買い物をしただけで幕を下ろしたのだった。
ちなみに、この日の深夜、私のブログに書き込まれたまく朗のメッセージは「コマネ死」という一言だけだった。
第一章はここまでです~
第二章からはいよいよ本格的な捜索が……?




