第12話 求めていた方法
「はぁ……」
「……どうした?
練人」
食事や入浴が終わった。
そろそろ寝ようとした時、
ついため息をついてしまった。
「あ、サイレン」
「……とりあえず、
練人が読みたがっていた『魔獣図鑑』だ」
「あ、ありがとう」
パーツは少しずつ揃いつつある。
やはり、ペンは買っておくべきだろうか。
しかし、ペンでは問題がある。
俺は正直、書くのは遅い。
加えて紙が少しでも滲んだら、
気にするタイプの人間だ。
書き直して紙ばかりが増える可能性が高い。
「……悩みか?」
「……せ、せやな。
なあ、サイレン……
魔法で『《《文字書ける》》』か?」
「……文字?
書けるぞ」
「ほ、ホンマか?!」
「ああ……
正直、練人にはまだ早いと思うが」
「頼む!
教えてくれ!」
「……魔法名は《ライト》だ」
「ライト?」
確かにライトは書くって意味にもなる。
懐中電灯のライトのイメージもあるが、
懐中電灯の代わりはシャインになっている。
「……見ててくれ」
「おう」
「……《ライト》」
すると、サイレンの指先から光が灯し、
手のひらに線を書いていく。
「おおっ」
「……見ての通りペンのように書いている魔法だ」
「ライトは滲んだり途中で触れたら掠れたりするん?
ついでに消したりはーー」
「……食いつきが凄いな。
まずは魔力がインクになっている。
だから練人が心配している、
滲みも触ったら掠れることもない。
そして、
手のひらに書いた線もこうしてーー」
サイレンは少し動作を変えると、
簡単に手のひらに書いた線を消していく。
「ホェ~、結構便利やんか!
ライトもイメージでできるんか?」
「……ああ。
しかし、
冒険者は練人のように欲しがるものではないぞ?
紙に書きたいのならペンなどを使うし、
魔力を使わずに済むからな」
「いや、
問題点がなくなるんやったら俺にとっては便利なもんや。
ちょいっと待ちや」
「……ライトは“生活魔法”の一つだ。
流石に簡単にはーー」
「《ライト》!」
サイレンの意に反して俺はライトをあっさりと使えた。
「おお!
おおきに!」
「……早いな」
「文字を書くイメージなんやろ?
文字を書くんやったら、
何べんも体験しとるからな!
イメージくらいあっさりできるわ!」
ペンのように書かないといけないのは難点かも知れない。
だが、滲まない、擦って汚れたりしない。
誤字しても修正容易いのなら俺にとっては喜ばしいことだ。
「……ライトを使えることが、
嬉しがる冒険者も珍しいな」
「魔法使えるのが嬉しいからな」
「……そうか。
確かに新しい魔法を使えるようになるのは嬉しいし、
面白いが……」
「ほな、俺はさっさと寝るわ!
魔獣図鑑ありがとうな!」
「ああ……」
サイレンは面を食らったような顔になっている。
だが、明日は早起きしておきたい。
俺は速攻で寝た。
そして、次の日の朝。
「……ふぁぁ」
大きな欠伸をして机に向き合った。
「さて、サイレンが起きる前に書いておかないとな……」
机の上にはサイレンから借りた魔獣図鑑と、
昨日買っておいた紙がある。
「本格的に書く前に試してみるか……
《ライト》」
俺の試したいことはイメージの固定化か否か。
同じライトでも、
書く道具の変更はできるのだろうかと純粋に思った。
「……!」
すると思った通りだった。
あくまで発動の切っ掛けとしてだけであった。
イメージの変更は後からでもできるようだった。
昨日はペンだったが、
今回は俺が書き慣れた道具になっている。
「これなら早いかもな!」
思わずニヤリと笑う。
ずっと温めてきたネタ。
多少の軌道修正を余儀なくされたが、
むしろ好都合かも知れない。
「……できれば熊型がいればええのやが」
索引を調べてみる。
「……おっ、あった。
えっと、【グラットンベア】」
グラットンベアは雑食かつ食欲旺盛。
甘いものを好み、蜂蜜や旬の果実を食べる。
川で魚型の魔獣の一種【サーモンフィッシュ】や、
草食の魔獣を狩る。
そして、捕食することもある。
畑にグラットンベアが襲来し、
農作物や家畜を喰らう。
「状況が悪ければ人も喰らうと」
思った通り熊型の魔獣はいた。
しかも、見た目は熊に似ている。
熊の恐ろしさは散々見て知ったからな。
熊の恐ろしさは利用できる。
恐ろしいってことは、
容易に想像しやすいってことになる。
「ほんで、
あらかじめ考えていた流れをある程度変えて、
うん、以前よりも不自然さがないような気がするわ」
以前のはどうしても不自然さが強かった。
元々必要だった運の良さに加えて、
さらに良くなければならない。
だからこそ、
おかしいことになっていたと気にしていた。
「世界観は今いる場所を基準として、
サイレンの今までの話を聞いて……」
俺は文字を打ち始めた。
「……登場人物の名前は、
適当とある程度考えるに分けるか」
主人公の名前は“カナイチ”で決めている。
だが、サイレン・マジャンで言うところの、
“マジャン”部分はどうするか。
「レイ……
シャムズ……
しっくり来んな……
いや、書く以上逃げへん。
伝えるためにも……
そして、俺と同じ境遇の奴らがわかるような遊び心を加えて……」
“カナイチ・ホームズ”。
今から書く小説の主人公で探偵だ。
「今いる世界で探偵なのは珍しいやろ。
モノ探しの依頼もあったし、
少しボロボロやからあんま人気もないやろ。
モノ探しの依頼を専門とした冒険者。
しかも、解決スピードは他の冒険者よりもかなり早い。
強さ自体は他の冒険者と比べるとあんま強くない方がええかもな。
人間相手なら無力化できる程度で」
他の冒険者的に考えると、
戦闘で使えないスキル。
罠解除や危険察知、状態異常ばら撒き、
トリッキーで便利な人の方がいい。
「……そう言う奴は大抵シーフや。
サイレンは魔術師をマジシャン呼びしとったし、
盗賊をシーフにしても大丈夫やろ」
今書いている小説のヒロインで、
カナイチの相棒となるキャラが必要になる。
カナイチの相棒となると戦闘が強い奴の方がいい。
カナイチよりも頭は良くなくて戦いたい。
だけどカナイチはモノ探しばかりしているから呆れている。
でも、カナイチの頭脳を誰よりも信じている。
カナイチの邪魔をする魔獣を倒す。
抵抗するカナイチよりも、
強いキャラを制圧するのに長けたキャラ。
そして、個人的趣向を合わせてっと。
「名前は……
“アドラン・ナナリン”っと」
さて、主要キャラは完成した。
登場は若干遅いが、しょうがない。
流れとしては冒険者のいつもの流れから、
事件の匂いを嗅がせなきゃいけない。
「完成はしているから、
文字にしてっと……」
パチパチと文字を打ち続ける。
本当のタイプライターのように。
文字を打つ感触が気持ちいい。
何よりも使い慣れているからスピードが早い。
「一ページ目完成っと」
紙の隅っこにページ番号を書いてから、
次の紙に変える。
後は繰り返し。
出来事はなるべく、
残酷で誰もが同情を引くようにしよう。
「くくく、
冒険者として何とかしたいと思っとったら……
さて、感想とか意見が出るかのぅ」
少し悪い顔になってしまった。
だが、しょうがないだろう。
読者の反応が気になるのが作家としての本能だ。
推理小説というのは必ず悪人が出るもの。
「……サイレンに読ませたら、
反応が返ってくるかのぅ?」
試しに読ませてもいいだろう。
今は書くのに集中した方がいい。
「“~メルヴィンも泣いているメリッサを連れて目印を付けながら森を離れた。”
っと。
これで一話目は書き終えた。
疲れたわ」
だが、
正直に言えば充実とした時間で疲れだ。
自分で選び、
考え、
そして使ってもいいと決めた時間だから余計に楽しい。
「さて、書き終わった小説はどないしようか……
まだ早いよな……」
俺としてはサイレンに見せるのはまだ早い。
使い慣れたものと同じように文字をいつでも消せる。
なら、最初から読んで誤字や、
変な書き方にしてないか確認する。
今後矛盾になりそうな書き方、
抜けていては、
この先困る部分はないかの確認もしないといけない。
書き終えたら終わりではなく、
確認も必要だ。
小説のブラッシュアップは必要不可欠だ。
俺は小説を最初から読み始めた。




