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強く、踏み込んで。  作者: 七賀ごふん
ひなたの君

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30/32

#3



「もう一回言うけど、絶対嘘つかないでくれよ」

「分かった分かった」


もはや睨み合うような形で念を押す。本当はもっと柔らかい空気で伝え合いたかったんだけど、仕方ない。

アパートの駐車場。父の愛車が幸耶の後ろに見えた。

「三秒のカウントダウン形式でいこう。三」

「二」

「一……」

指を一本ずつ折り曲げる。互いに息を吸い、声を揃えた。


「「受かった」」


タイミングもテンポと見事に重なった。


時が止まったみたいに二人で硬直する。

可笑しくて、何だか笑えてくる。本当に嬉しいときって、やっぱり一度思考停止するみたいだ。

「幸耶、嘘じゃないんだな?」

「ああ。風月も?」

彼は目を見開きながら、深く頷いた。


「おめでとう、幸耶!!」

「わっ。風月……っ!」


込み上げる喜びを抑えきれない。気付いたら彼に抱き着いてしまっていた。

「嬉しいけど落ち着け。まだ本免があるだろ」

「あ、忘れてた」

「嘘だろ?」

幸耶は俺の反応に青ざめていたが、やがてゆっくり首を横に振った。


「でも、俺達はでっかい壁を乗り越えたも同然か。……おめでとう、風月」


幸耶は俺の頭を撫で、優しく微笑んだ。

「もう行きたくない、って駄々捏ねる必要もないな」

「あぁ! やったあー!」

結局子どもみたいにバンザイしてしまい、幸耶には笑われてしまった。


……でも、本当に良かった。

幸耶が新しい世界に挑める。きっとこれからも、彼ならたくさんの道を見つけられるだろう。

教習所通いがなくなって寂しいのは変わらない。でもそんなの、彼の幸せを思えば本当にささいなもの。

嬉しそうに笑う彼の姿が、俺の“幸せ”なんだ。


「さっそくだし、盛大に祝おうぜ。今夜は焼き肉でもしちゃう?」

「お、良いな。それじゃいっちょ食べに行くか」


お前の部屋に匂いつけるわけにはいかないからな、と言って彼は背伸びした。

そしてもう一度振り向き、俺の頭に手を乗せる。


「風月」

「うん?」

「ありがとな」


お礼を言われるようなことは何もしてないが、彼はそう呟いた。


「お前がいなかったら、卒業なんて絶対できなかった。むしろもうやめようと思ってたんだ。その為に教習所に行ったら、お前に声掛けられて……会いに行く口実ができた、と思った」


手が離れる。そのまま幸耶は自分の頬を掻いて、困ったように瞼を伏せた。


「だから、その……何だ。要は、お前に会うついでに教習所に行けてた、ってこと」

「あぁ……そうか。俺もお前がいなかったら絶対行けなかった!」


彼が感謝してることが分かり、強い語調で返した。

幸耶が家に来てくれるから、本気で教習所の前に引っ越して良かったと思ったし。夏らしいことができたのも、毎日が楽しかったのも、全部彼がいたから。


「幸耶のおかげで、今生きてるよ。試験中もずー…………っとお前のこと考えてた。だから受かったのかも!」

「お前は……なんつうか、ほんと……」

「何?」

「……何でもない。ほら、肉食いに行くぞ」


幸耶は顔を逸らし、俺に手招きした。


これが最後の晩餐かな、と思って悲しくなったけど、やっぱり喜びの方が大きい。

幸耶の幸せが俺の幸せなんだ。それだけは絶対間違いない。

その夜は彼と腹がはち切れそうなほど食べて、夜更けまで話し合った。夏祭りの思い出や、教習の失敗談を告白して笑い合った。




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