表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/16

見た者の感情を強く揺らす顔


会議室の空気は、外よりもさらに冷えていた。


白を基調にした無機質な室内。壁一面のガラス。中央に長机。既に数名の女性が席についている。

全員スーツ姿で、年齢は二十代後半から四十代前半といったところだろうか。


俺が入った瞬間。


全員の視線が、一斉に上がる。


音が消えたように感じる。


息を呑む、という表現が正しい。


それは誇張ではなく、実際に「空気が一瞬止まった」感覚だった。


目が、揺れる。


理性と衝動のせめぎ合い。


だが彼女たちはプロだ。

すぐに表情を整え、姿勢を正す。


そのわずかな乱れを、俺は見逃さなかった。


神代が一歩前に出る。


「対象者、天宮朔也。SSS+判定確認済みです」


“対象者”。


名前よりも先に、属性が来る。


席に案内される。


椅子は柔らかく、背もたれが深い。

まるで応接室の主賓のような位置だ。


俺が座ると、向かいの女性がタブレットを操作し始めた。


「まず、社会的現状の再確認から行います」


その声は落ち着いているが、わずかに熱を含んでいる。


大型モニターが点灯する。


表示されたのは、日本地図と人口統計グラフ。


「現在、日本国内の男性人口は総人口の約0.2%。平均男女比は1:500前後で推移しています」


数字が画面に映る。


視覚化されると、異様さが際立つ。


棒グラフのほとんどが“女性”。

男性は、細い線のような存在。


「この人口構造の影響で、婚姻制度は一夫多妻制が基本となっています」


次のスライド。


【婚姻登録制度】

【複数契約制】

【男性主導型選択権】


男性主導型。


その単語が、妙に胸に落ちる。


前の世界では、選ぶ自由があるようで、実質なかった。


選ぶのは、常に“評価される側”。


俺は評価されない側だった。


今は逆だ。


「希少男性は社会的資源と位置づけられ、教育・医療・居住において優先措置が適用されます」


資源。


人ではなく、資産のような扱い。


だが不快感よりも先に浮かんだのは、別の感情だった。


――価値が保証されている。


それは、甘い。


女性職員の一人が口を開く。


「あなたの顔立ちは、本来この社会基準では“過度に整いすぎている”分類に入ります」


画面が切り替わる。


現代美基準の説明。


・面長

・骨太

・厚みのある輪郭

・団子鼻

・がっしり体型


「これらが安定性・包容力の象徴とされ、高い評価を受けます」


次に、比較画像。


いわゆる“整った顔”の例。


小顔、通った鼻筋、均整の取れたパーツ。


「これらは威圧的・冷淡と判断される傾向が強い」


つまり。


俺の顔は、理論上は低評価側。


だが。


「天宮朔也様は例外です」


様。


自然に敬称が変わる。


「視覚的インパクトと希少性、そして心理的反応値が極めて高い」


心理的反応値。


「簡単に言えば、“見た者の感情を強く揺らす顔”です」


その説明に、妙な納得があった。


病院。

街。

さっきの交差点。


あの視線は、単なる好意ではなかった。


衝撃に近い。


俺は、感情を揺らす存在。


胸の奥で、静かに何かが確信へと変わる。


前の世界で、俺は感情を揺らした。


笑いで。


嘲りで。


今は違う。


羨望で。

渇望で。


女性職員が続ける。


「影響力が大きいため、軽率な発言や関係構築は社会的波紋を呼びます」


軽率な発言。


関係構築。


頭の中で、その意味が具体化する。


もし俺が、誰かに「綺麗だ」と言えば。


その人の評価は上がる。


もし距離を取れば。


不安が広がる。


俺の言葉一つで、上下する。


それは、恐ろしい力だ。


同時に。


抗いがたい魅力。


神代が静かに言う。


「あなたの今後の進学先は、男神特区大学に内定しています」


画面にキャンパスの映像が映る。


広大な敷地。

高いフェンス。

男性専用VIP区域。


「国内で最も男性が集中する教育機関です。女性比率は依然として圧倒的ですが、管理体制は万全です」


つまり。


希少な男が、集められ、囲まれ、守られる場所。


俺は想像する。


その空間。


多数の女性。


視線。


期待。


競争。


喉の奥が、わずかに熱を帯びる。


これは恐怖か?


違う。


昂揚だ。


神代がこちらを見る。


「何か不安はありますか」


不安。


あるはずだ。


人生が丸ごと変わる。


だが口から出たのは、別の言葉だった。


「面白そうだ」


会議室が、わずかにざわつく。


神代の目が細くなる。


「適応力が高いですね」


違う。


適応じゃない。


確信だ。


前の世界で否定された俺が、

この世界で頂点に立てるなら。


試さない理由がない。


俺は背もたれに体を預ける。


冷たい空調の風が頬を撫でる。


世界は変わった。


いや、ルールは同じだ。


顔が価値。


選ぶ側が強い。


立場が逆になっただけ。


ならば。


徹底的にやる。


救うふりをして、支配する。


優しくして、揺らす。


価値を与えて、縛る。


誰も、俺を笑えない場所まで行く。


モニターの光が、瞳に映る。


神代が会議を締める。


「本日より、正式に保護対象としての生活が始まります」


始まる。


第二の人生。


いや。


逆転した同じ世界。


俺はゆっくり立ち上がる。


足取りは軽い。


胸の奥で、黒い願いが、はっきりと形を持つ。


今度は。


俺が、世界を値踏みする番だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ