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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第2章

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20/21

心が壊れる音


透子が講義を休んだのは、その三日後だった。


最初は偶然かと思った。


だが二日目も姿がない。


三日目、学内SNSに小さな投稿が上がる。


【白鳥透子、体調不良で欠席】


それだけの情報。


だが、その裏側を知っている者は多い。


俺のスマホにも通知が届く。


ひよりの配信は、完全に炎上していた。


《王様ひどすぎ》

《透子メンタル崩壊?》

《既読スルーは精神的な暴力でしょ》


言葉が鋭くなる。


正義感をまとった批判は、容赦がない。


俺はベッドに座り、画面をスクロールする。


感情は湧かない。


ただ、情報として処理する。


炎上は想定内。


派閥の摩擦は必然。


それでも。


透子がいない教室は、妙に空間が広く感じた。


彼女がいつも座っていた席が、空いている。


そこだけ、空気が薄い。


---


夕方。


透子から、ようやくメッセージが届く。


《少し疲れちゃいました》


短い。


装飾も、絵文字もない。


俺は画面を見つめる。


返信を打ちかけて、止まる。


なんて書く。


“大丈夫?”


だと軽い。


“会いに行く?”


それだと重い。


俺は、なぜ迷っている。


今までなら、計算で選べた。


揺らすか、安心させるか。


だが今は。


胸の奥に、わずかな圧迫感がある。


透子の泣き顔が、はっきりと浮かぶ。


図書館で、俺の一言で崩れたあの日。


あの涙は、俺が与えたものだった。


なら、今の崩れも。


俺が与えたものか。


スマホを伏せる。


考えるな。


これは構造だ。


依存は、波がある。


揺れて、深まる。


そう理解しているはずだ。


---


翌日。


生徒会室の空気は重い。


麗華は机の前に立ち、俺を真っ直ぐ見ている。


「透子が倒れました」


短い報告。


胸の奥が、ほんの一瞬だけ強く打つ。


「倒れた?」


「軽い過呼吸です。命に別状はありません」


別状はない。


その一言に、わずかに安堵する自分がいる。


「あなたの返信を待っていたそうです」


麗華の声は静かだ。


責める調子ではない。


だが、重い。


「……」


言葉が出ない。


麗華は続ける。


「あなたはこの世界の中心です」


「分かってる」


「分かっていない」


即答。


その強さに、思わず視線を上げる。


「あなたは傷つける側でいられる。でも、傷つけられる側は、自分を失う」


静かな声。


だが、確実に刺さる。


「透子は、あなたの一言で世界を決めている」


世界を決めている。


その表現が、胸に残る。


俺は椅子に深く座る。


「俺は、何も強制してない」


事実だ。


縛っていない。


契約も、順番も、合意の上だ。


「それでも」


麗華は言う。


「あなたの沈黙は、拒絶より重い」


部屋の空気が止まる。


沈黙。


拒絶より重い。


既読のまま、返さなかった夜。


透子は、何度画面を見ただろう。


俺はその時間を、快感として受け取った。


その記憶が、はっきりと蘇る。


胸の奥に、初めて“痛み”に似た感覚が走る。


少しだけだ。


だが、確実に。


---


夜。


ひよりが謝罪配信をする。


「軽い気持ちで言っただけだった」


涙を浮かべながら、頭を下げる。


コメント欄は分裂する。


擁護と批判。


火は消えない。


炎上は、もう制御不能に近い。


俺の名前も、何度も呼ばれる。


王。


冷酷。


操作。


その単語が並ぶ。


俺は画面を閉じる。


静かな部屋。


透子のことを考える。


考えたくないのに、浮かぶ。


ベッドの端に座る。


スマホを手に取る。


透子の名前を開く。


指が、止まる。


ここで“ごめん”と言えば、少しは楽になる。


だが、それは俺のためだ。


彼女のためか。


分からない。


由愛の声が、鮮明に蘇る。


「あなた、誰も好きじゃないよね」


違う。


好きだ。


……好き、なのか?


透子が傷ついたと聞いて、胸が痛んだ。


それは罪悪感か。


それとも、所有物に傷がついた不快感か。


その区別がつかない。


それが、一番怖い。


俺はメッセージを打つ。


《明日、会おう》


送信。


既読はすぐにつかない。


部屋は静まり返る。


待つ側に回る。


わずかな時間が、やけに長い。


胸の奥の空洞が、少しだけ広がる。


王は、何事にも揺らがないはずだった。


なのに今、わずかに気持ちが揺れている。


それが、初めての違和感だった。


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