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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第1章

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王子誕生


契約発表の翌週。


俺はスタジオにいた。


白い背景。

強い照明。

メイクスタッフが何人も周囲を囲む。


「顎、少し上げてください」


「目線、カメラの奥です」


カメラのシャッター音が断続的に鳴る。


フラッシュの光が、何度も瞬く。


その光の中に立っているのは、かつて教室で笑われた男だ。


だが今は違う。


スーツは仕立てが良く、身体にぴたりと合っている。

髪は整えられ、肌は完璧に整えられている。


鏡越しに自分を見る。


整った輪郭。

揺るがない視線。


スタッフの女性たちが、明らかに視線を逸らせずにいる。


「やっぱり別格ですね」


誰かが小さく呟く。


別格。


その言葉が、甘く胸に落ちる。


---


CM撮影は順調だった。


清涼飲料水の広告。


俺がボトルを持ち、軽く微笑むだけ。


それだけで現場の空気が変わる。


監督が言う。


「OK! 完璧です」


拍手が起きる。


俺は軽く会釈する。


それだけで、また視線が揺れる。


価値が、可視化されていく。


---


夜。


学内ランキングが更新される。


【希少男性人気指数】


1位――天宮朔也。


当然の結果だ。


だが数字として示されると、実感が違う。


透子からメッセージが届く。


《おめでとうございます》


ひよりはSNSで匂わせ投稿をする。


《王子様って、こういう人なんだね》


麗華は何も言わない。


だが、生徒会室の椅子は俺の隣に置かれている。


すべてが、俺を中心に回っている。


---


夜の寮室。


静まり返った空間。


窓の外に、街の明かりが見える。


ベッドに腰を下ろし、スマホを置く。


静かだ。


さっきまでのフラッシュも、歓声も、ここにはない。


胸の奥に、熱が残っている。


優越。


陶酔。


俺は、もう笑われない。


あの日の教室。


「鏡見たことある?」


笑い声。


スマホのカメラ。


あの動画。


今は違う。


カメラは俺を称賛する。


コメント欄は羨望で埋まる。


俺は、中心だ。


ゆっくりと息を吐く。


満たされているはずだ。


だが。


わずかに、何かが足りない。


理由は分からない。


ただ、静まり返った部屋の中で、その違和感だけが浮かぶ。


コンコン、とノックが鳴る。


こんな時間に。


ドアを開ける。


そこに立っていたのは、見覚えのない女子学生だった。


肩までの黒髪。

派手さはない。

整いすぎていない。

主流顔でもない。


この世界の基準で言えば、平均。


だが、その目だけが異様に静かだった。


揺れていない。


俺を見ても、呼吸が乱れない。


「天宮くん?」


敬称がない。


それだけで、少し違和感を覚える。


「誰だ?」


「由愛」


短い名乗り。


「ちょっと話せる?」


その声は穏やかだが、どこか核心を突く響きがある。


俺は腕を組む。


「内容次第だな」


由愛は俺をまっすぐ見る。


その視線は、値踏みでも、渇望でもない。


観察。


「あなた、楽しそうだね」


唐突な言葉。


「何が」


「王子様ごっこ」


空気が、わずかに冷える。


俺は目を細める。


「言い方に気をつけろよ」


由愛は表情を変えない。


「でもね」


一歩近づく。


「楽しそうだけど、嬉しそうじゃない」


その一言が、胸の奥に刺さる。


ほんのわずかに。


だが確実に。


俺は笑う。


「何が言いたい」


「そのままだと、たぶん壊れるよ」


静かに言う。


脅しではない。


予測のように。


俺はドア枠にもたれかかる。


「心配してるのか?」


「してない」


即答。


「ただ、面白いから見てるだけ」


由愛は踵を返す。


去り際に言う。


「王子様は孤独だよ」


足音が遠ざかる。


廊下が静かになる。


ドアを閉める。


部屋に戻る。


胸の奥に、わずかなざわめきが残る。


嬉しそうじゃない。


壊れる。


孤独。


くだらない。


俺はベッドに横になる。


天井を見る。


満たされているはずだ。


王子と呼ばれ。


ランキング1位になり。


契約も結び。


全員が俺を見る。


なのに。


なぜか、あの教室の笑い声が一瞬だけ蘇る。


俺は目を閉じる。


――俺は、もう笑われない。


それだけで、十分なはずだ。


だが胸の奥に、小さなひびが入ったまま、夜は静かに更けていった。



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