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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第2章 『王と呼ばれながら、俺は最低な欲に溺れていた』

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「やっと手に入った」

 


 結局その夜は、玲奈を帰してからもしばらく何も手につかなかった。


 ソファは少しずれたまま。

 クッションにはまだ体温の名残があって、空気には玲奈の甘い匂いが残っている。

 それだけで、さっきの熱がすぐ戻ってくる。


 胸を掴んだ感触。

 首筋へ唇を落とした時の震え。

 押し倒しかけた時の、玲奈の少し潤んだ目。


「...くそ」


 低く漏れた声が、自分でも思ったより熱を帯びていた。


 最後まで行けた。

 たぶん、あのままなら普通に行っていた。

 玲奈も止めなかっただろうし、自分も止まる気がなかった。


 その事実に、少しだけ頭が冷える。

 でも冷えたのは頭だけで、体の奥はまるで落ち着いていなかった。


 スマホが震える。


 玲奈だ、と見る前からわかった。


 **最悪**


 まずその一言。


 続けて、


 **でも、途中で止められたの初めてかも**


 さらに、


 **続き、したい**


 最後の一文を見た瞬間、腹の底がまた熱を持つ。


 続き。


 そんなの、自分だってしたいに決まっている。


 今までなら、ここで少し時間を置いたのかもしれない。

 でも、もうそんな余裕はなかった。

 むしろ玲奈のほうが先にそう言ってくるなら、こっちだって隠す意味がない。


 **俺も**


 送る。


 数秒もしないうちに既読。


 **いつ?**


 早い。

 でもその早さが、今はちょうどよかった。


 **明日**


 打ってから、朔也は一瞬だけ止まる。

 明日。

 そんなにすぐ。

 でも、体はもうその約束だけで反応している。


 **ほんとに?**


 玲奈から来たその一文には、珍しく確認の響きがあった。

 いつもの軽さじゃなくて、少しだけ本気で嬉しそうな温度。


 朔也は画面を見つめて、それから短く返す。


 **今度は邪魔入らないとこで**


 送信。


 しばらくして返ってきたのは、


 **好き**


 の二文字だけだった。


 その二文字が、妙に強かった。


 ◇


 翌日は朝から、玲奈のことで頭がいっぱいだった。


 何を着ていくかとか、どこで会うかとか、そういう表向きのことももちろんある。

 でも本当は、そこじゃない。


 会ったら何をするか。

 どこから触るか。

 キスしたら、今度はどこまで行けるか。


 そういうことばかり考えている自分に、少し引く。

 でも、それ以上に正直だった。


 前の世界では、女の体なんて妄想の中のものだった。

 見たくても見られない。

 触りたくても触れない。

 自分の欲はいつも一方通行で、現実へ向ける前に自分で潰すしかなかった。


 でも今は違う。


 相手も自分を欲しがっている。

 しかも、その相手が玲奈みたいな女だ。


 我慢できるわけがない。


「今日は妙に機嫌が悪いですね」


 昼前、紗良がそう言った。


「悪くない」


「そういう顔をしています」


「顔わかりやすぎるだろ」


「わかりやすいです」


 またそれだ。


 でも今日は、いつものように噛みつく気力が少し足りなかった。

 噛みつくより、早く夜になってほしかった。


「夜、少し出るわ」


 言うと、紗良の動きがわずかに止まる。


「理由は」


「外の空気吸いたいから」


「雑ですね」


「散歩だよ」


「嘘ですね」


「ほんと、お前そればっかだな」


 さすがに全部は隠せない。

 でも全部を言う必要もない。

 紗良はじっと朔也を見てから、小さく息を吐いた。


「帰宅時間は」


「遅くならない」


「具体的には」


「じゃあ、日付変わる前で」


「さらに怪しいですね」


「うるさい」


 紗良はそれ以上追及しなかった。

 でも、完全に見逃したわけでもない顔だった。


 その視線を背中へ感じながら、朔也は自室へ戻る。


 着替えを選ぶ。

 変に気合いを入れて見えるのも嫌だ。

 でも適当すぎるのも違う。


 そうやって服を選んでいる時点で、もう完全に浮かれている。

 自覚はある。

 あるのに止まらない。


 シャツを一枚、捨てる。

 別のものを出す。

 胸元が少しだけ開くやつ。

 玲奈が首筋を見たがるのを、何となく覚えていたからだ。


「...何やってんだ俺」


 呟く。


 でも、手は止まらない。


 ◇


 待ち合わせ場所は、駅から少し外れた高級ホテルだった。


 玲奈が指定してきた時、朔也は一瞬で意味を理解してしまった。

 カフェでもレストランでもなく、最初からホテル。


 そこに妙な遠慮がないのが、玲奈らしかった。


 ロビーで会った玲奈は、昨日までより少し落ち着いた格好をしていた。

 でも落ち着いているだけで、地味ではない。むしろ余計に女っぽく見える。


 柔らかい色のワンピース。

 胸元は深くないのに、体の線は隠しきれていない。

 髪はゆるく下ろしていて、動くたびに甘い匂いがする。


「待った?」


 玲奈が笑う。


「待ってないよ」


 朔也も答える。


 たったそれだけのやり取りなのに、二人とも少しだけ息が浅い。


「ほんとに来るんだって思った」


「呼んだの玲奈だろ」


「でも、来るって決めたのは朔也くんじゃん」


 その言い方が、妙に正しい。


 たしかにそうだ。

 今日ここに来たのは、自分の意思だ。

 欲しくて来た。

 玲奈の体を。

 玲奈の反応を。

 その事実が、自分でもひどく下品で、ひどく興奮した。


「...行こ」


 玲奈が小さく言う。


 朔也は頷いた。


 エレベーターに乗る。

 無言。

 でも沈黙は気まずくない。

 むしろ、音が少ないぶん、隣にいる玲奈の気配だけが濃い。


 腕が少し触れる。

 それだけで、昨日の続きみたいに熱が戻る。


 玲奈のほうを見れば、玲奈もこっちを見ていた。


「なに」


 朔也が聞く。


「いや」


 玲奈が少しだけ笑う。


「今日の朔也くん、最初からやばそうだなって」


「何それ」


「目」


 また顔か。

 でも今度は否定する気になれなかった。


 エレベーターの扉が開く。

 廊下を歩く。

 カードキー。

 部屋に入る。


 扉が閉まった瞬間、玲奈が振り返る。


「ねえ」


「ん」


「今さらだけど、やめる?」


「やめない」


 即答だった。


 玲奈の喉が上下する。


「だと思った」


「玲奈は」


「やめるわけないよ」


 そう言い終わる前に、朔也はもう玲奈を引き寄せていた。


 今度は最初から遠慮しなかった。


 腰を抱く。

 細い。

 でも抱くとちゃんと女の重さがある。

 そのまま壁際へ押しつけるように距離を詰める。


「っ...」


 玲奈が小さく息を呑む。


「早...」


「待てないって言っただろ」


 返しながら、朔也はもう唇を重ねていた。


 深いキス。

 昨日より、最初からもっと深い。

 玲奈の唇はすぐに開く。

 でも主導権は朔也が取る。

 舌先が触れる。

 玲奈の肩が震える。


「んっ...ぁ...」


 その声が、ひどく煽った。


 朔也は玲奈の背中へ手を滑らせる。

 肩甲骨。

 そのまま腰。

 くびれを掴む。


 玲奈がシャツを掴んだ。


「朔也、くん...やば...」


「何が」


「今日、ほんと...容赦ない」


「したくて来たんだろ」


「そうだけど...」


「俺だってそうだよ」


 言いながら、首筋へ唇を落とす。


「っ!」


 玲奈の体がびくりと跳ねる。


 耳の下。

 そこを軽く吸うように触れてから、喉元へ。

 玲奈はもう自分から朔也の肩へ腕を回していた。


「そこ、ほんと...だめ...」


「昨日も言ってた」


「だって、弱いもん...」


「知ってる」


 そう返して、もう一度同じ場所へ口づける。


 玲奈の膝が少し揺れる。

 その反応を見ると、もっとやりたくなる。

 前の世界では一生見ることがなかったかもしれない、美女が自分の手で崩れていく顔。


 それが気持ちよすぎる。


 朔也は玲奈のワンピースの肩へ手をかけた。


「...見る」


 玲奈が小さく言う。


「見てるよ」


「そういう意味じゃなくて...見たい顔してる」


「見たいから見てる」


「...っ」


 玲奈がまた赤くなる。


 その反応が可愛い。

 綺麗な女が、自分の視線でここまで熱くなる。

 それだけで腹の底がきゅっと熱を持つ。


 朔也は肩の布を少しだけ落とした。

 白い肩。

 鎖骨。

 呼吸に合わせてわずかに上下する胸元。


「やば...」


 今度は朔也のほうが呟く。


 玲奈が目を細めた。


「そういうの、言うんだ」


「だって、やばいだろ」


 正直に返す。


 玲奈の胸元へ、視線が落ちる。

 隠す気もなかった。


「見すぎ」


「見るに決まってる」


「何でそんな堂々と...」


「興奮してるから」


 その言葉に、玲奈が本気で言葉を失う。


 この世界では、女が男を欲しがるのは自然だ。

 でも男がここまで露骨に、女の体へ欲を向けるのは珍しい。

 だから玲奈は、嬉しいのに戸惑う。

 それがまた、朔也にはひどく効いた。


 朔也の手が、玲奈の胸元へ伸びる。


 服の上から。

 掌で包み込むように。

 重みを確かめるみたいに。


「っ......ぁ、さく...」


 玲奈の声が甘く崩れる。


 その瞬間、朔也の頭の中で何かが切れる。


 柔らかい。

 ちゃんと女の胸だ。

 前の世界で、見ることすらまともに許されなかったものが、今、自分の手の中にある。


 それだけで、理性がどこかへ飛ぶ。


「すご...」


 自分でもひどく情けない感想だと思う。

 でも本音だった。


 玲奈が目を閉じる。


「そんなの...言われたら、恥ずかしい...」


「じゃあもっと恥ずかしがれよ」


 言ってから、自分でびっくりする。

 こんなこと、普通に口から出るんだなと思う。


 でも玲奈は、その言い方にまた震えた。


「ほんと...最低」


「知ってる」


 返しながら、胸をもう一度確かめるように揉む。

 玲奈の脚が少しもつれる。

 そのままベッド際へ連れていく。


「朔也...待って」


「待たない」


「うわ...ほんと容赦ない...」


「玲奈が煽ったんだろ」


「そうだけど...」


「じゃあ責任取れよ」


 玲奈がそこで本気で黙った。

 その黙り方さえ煽りに見える。


 そのままベッドへ押し倒す。

 玲奈の髪が広がる。

 ワンピースの裾が少しずれる。

 脚の線が目に入る。


 綺麗だ。

 下品なくらい興奮する。


 朔也は覆いかぶさるように体を寄せた。

 キス。

 首筋。

 胸元。

 手が自然に腰から太腿へ滑る。


「っ...そこ...」


「嫌?」


「嫌じゃないけど...やばい...」


 玲奈のその言葉を最後に、灯りの色だけが静かに揺れて、あとの時間は熱と匂いと乱れた呼吸の中へ沈んでいった。


 ◇


 目が覚めた時、天井の色が少し白んでいた。


 最初に感じたのは、重さだった。

 眠気ではなく、熱の名残の重さ。

 体がだるい。

 でも、それは嫌なだるさじゃない。

 満たされたあとの倦怠に近い。


 隣を見る。


 玲奈がいた。


 シーツに半分埋もれるように眠っている。

 髪は少し乱れたままで、肩のあたりには自分が残したらしい薄い赤みがある。

 ワンピースはもう脱いでいて、代わりに薄いホテルのガウンを雑に羽織っていた。

 その胸元が少しだけ開いていて、寝返りの加減で白い肌が覗いている。


「...」


 朔也はしばらく黙って見た。


 綺麗だと思う。

 同時に、また触りたいとも思う。


 最低だな、と頭のどこかで思う。

 でも、その最低さを否定するほどの気力はなかった。


 玲奈が小さく動いた。


「...起きてる?」


「今起きた」


 玲奈が薄く目を開ける。

 朔也を見る。

 その顔が、ひどく柔らかかった。


「おはよ」


「...おはよう」


「すごい顔してる」


「どんな」


「満たされてる顔」


 そう言って玲奈が笑う。


 朔也は返事をしなかった。

 たしかに体は、変なくらい満たされていた。

 触れた。

 見た。

 欲しいものをちゃんと手に入れた。


 しかも玲奈は、幸せそうだった。

 自分に抱かれて、乱れて、そのあとでこんな顔をする。


 それが気持ちよかったのも本当だ。


「ねえ」


 玲奈が少しだけ近づいてくる。


「どうだった?」


「何が」


「昨日の続き」


 朔也は一瞬だけ黙る。


 どうだったか、なんて。

 そんなの、言葉にしたらもっと露骨になる。


「...すごかった」


「ふふ」


 玲奈が嬉しそうに笑う。


「朔也くん、途中からほんとに余裕なくなるよね」


「玲奈がそうさせるんだろ」


「そうかも」


 玲奈はそう言いながら、朔也の胸元へ指を滑らせた。

 軽い接触。

 それだけなのに、体はまだ正直に反応しそうになる。


「またすぐそうなる」


「うるさい」


「だってわかりやすい」


 玲奈は本当に楽しそうだった。


 その顔を見ていると、朔也の胸の中にも少しだけ満足が広がる。

 こんな女を、自分がこうしている。

 それが、やっぱりどこかで優越感だった。


 でも。


 窓のほうへ目を向けた瞬間。

 白い朝の光がカーテンの隙間から細く差し込んでいるのを見た瞬間。

 胸の奥が、ほんの少しだけ冷えた。


「...朔也くん?」


 玲奈の声がする。


「何でもない」


 そう答えるしかなかった。


 本当に、何でもないのかもしれない。

 ほんの一瞬のことだ。

 なのに、そのほんの一瞬だけ、昨日の熱が急に遠くなった気がした。


 女を抱いた。

 しかも自分から欲しがって。

 前の世界なら夢みたいな出来事だ。

 なのに、朝の光の中でそれを思い返すと、少しだけ胸が寒い。


 理由はまだわからない。


 わからないから、朔也はそのまま目を逸らした。


 考えたくなかった。


 玲奈がまた近づいてきて、顎先へキスを落とす。


「ほんとに、また会おうね」


「...うん」


 答えながら、朔也は玲奈の髪を一度だけ撫でた。


 その手つきに嘘はない。

 欲も、熱も、ちゃんと本物だ。

 それなのに、その奥のほうでだけ、小さな冷えがまだ残っていた。




最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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