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醜男だった俺が、男女比1:500の世界で王と呼ばれるまで  作者: きなこもち
第1章

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価値を与える


透子の涙は、翌日にはもう“噂”になっていた。


学内SNSのタイムラインは、白鳥透子の名前で埋まっている。


【透子、SSS+様に褒められる】

【整い顔なのに選ばれた?】

【あれって本命?】


“選ばれた”。


その単語が、妙に繰り返される。


俺はスマホを伏せる。


まだ何も選んでいない。


契約もしていない。

特別扱いしたわけでもない。


だが、この世界では違う。


SSS+の男に言葉をかけられた瞬間、それは“価値の付与”になる。


本人の意思とは関係なく、序列が動く。


それが、この世界の構造だった。


---


午後の図書館は静かだった。


高い天井。

本棚の間を流れる柔らかな空調音。

ページをめくる小さな音。


その奥の閲覧席で、透子は一人座っていた。


姿勢は真っ直ぐだが、落ち着きがない。

両手を膝の上で揃えているが、指先がかすかに震えている。


俺が椅子を引く音に、肩が小さく跳ねた。


顔を上げる。


目が合う。


その瞬間、彼女の呼吸が止まる。


「来てくれると思ってました」


声は小さいが、はっきりしている。


期待と、不安。


どちらも隠しきれていない。


「来ないと思ったのか?」


わざと、少しだけ間を置いて尋ねる。


透子は視線を落とす。


「少しだけ」


その“少し”の中に、長年の自己評価が詰まっている。


この世界で、彼女は低評価側だ。


整いすぎた顔。

華奢すぎる体。

儚すぎる雰囲気。


“主流じゃない”。


それだけで、価値が低いとされる。


前の世界で、俺がそうだったように。


俺は椅子に深く座らず、少し前傾姿勢になる。


距離を詰める。


逃げ場を作らない距離。


「昨日のこと、気にしてるのか?」


透子の指先がぎゅっと握られる。


「はい」


正直だ。


「どうして」


「だってあんなこと、言われたの初めてで」


喉が震える。


「私、可愛くないから」


その言葉は、長年繰り返してきた自己暗示だ。


誰かに言われたのか。

周囲の空気で悟ったのか。

はっきりしないまま、自分に刷り込んだ言葉。


俺は、視線を逸らさない。


「俺は、そうは思わない」


静かに言う。


断定は強すぎない。

だが、曖昧でもない。


透子の瞳が揺れる。


「どうして」


「俺の基準だから」


この世界の基準ではない。


“俺の基準”。


それが彼女の心を、正面から撃ち抜く。


透子の目に、涙が浮かぶ。


こぼれそうで、こぼれない。


必死にこらえている。


「でもみんなは」


「みんなは関係ない」


遮る。


「俺がどう思うかが、全部だろ」


その瞬間、透子の世界が狭まる。


“みんな”という曖昧な評価軸から、“俺”という一点へ。


依存の入り口。


透子の頬を、静かに涙が伝う。


「嬉しい」


その声は、ほとんど息だった。


図書館の静けさの中で、その一言だけが鮮明に響く。


胸の奥に、甘い感覚が広がる。


救った。


違う。


価値を与えた。


言葉一つで。


彼女の自己評価を、塗り替えた。


俺は、何も失っていない。


ただ、言葉を与えただけ。


それなのに、彼女はこんなにも揺れる。


「また話してくれますか」


透子が言う。


涙を拭きながら、こちらを見る。


不安と希望が、同時に宿っている。


俺は少しだけ考えるふりをする。


沈黙。


透子の呼吸が早くなる。


「君が話したいなら」


曖昧な承諾。


拒絶しない。

だが確約もしない。


透子は強く頷く。


「話に行きます」


その声は、さっきよりも強い。


決意が混じっている。


俺の言葉を、軸にしようとしている。


その変化が、はっきり分かる。


図書館を出ると、廊下の空気が少しざわついている。


何人かがこちらを見る。


透子の目元が赤いのに気づいている。


すでに、噂は広がるだろう。


俺はガラス窓に映る自分を見る。


整った顔。

落ち着いた表情。


胸の奥で、確信が芽生える。


これは、気持ちいい。


前の世界で、俺は否定された。


価値がないと笑われた。


今は違う。


俺が価値を決める。


俺が選ぶ。


俺の言葉で、誰かの立場が変わる。


透子の背中が、小さく見える。


だがその背中は、もう昨日とは違う。


俺の一言で、彼女は少しだけ世界の上に立った。


その事実が、甘く、静かに胸を満たす。


――これが、優越。


そしてその優越は、ゆっくりと陶酔へ変わり始めていた。


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