プロローグ――公開処刑
告白は、罰ゲームだった。
それを知ったのは、彼女が笑った瞬間だ。
教室の空気がやけにざわついていた。六月の湿った熱気。窓際のカーテンが揺れている。昼休み。
視線が集まっているのは、いつも教室の端にいるはずの俺だった。
「好きです。付き合ってください」
声が震えたのは、勇気を振り絞ったからだと思いたかった。
彼女――クラスで一番かわいいと言われていた女子は、一瞬だけ目を丸くした。
次の瞬間、口元を押さえて肩を震わせる。
「っ、無理。ごめん、ほんと無理」
教室が爆発したみたいに笑いに包まれた。
その時、気づいた。
教卓の上に置かれたスマホ。
廊下のドアの隙間から覗く顔。
後ろの席で必死に笑いを堪えている男子。
罰ゲーム。
誰かが小声で言った。
「ほら言っただろ、いけるって」
「マジでやったよあいつ」
耳鳴りがした。血の気が引く。けれど、足は動かない。逃げるという選択肢すら思いつかなかった。
彼女は顔をしかめ、はっきりと言った。
「鏡、見たことある?」
教室がまた揺れる。
俺はその場に立ち尽くしながら、やっと理解した。
勇気は、娯楽だった。
俺は、コンテンツだった。
誰かが動画を止める音がした。
昼休みは、何事もなかったかのように終わった。
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その日の夜。
スマホが震え続けた。
通知、通知、通知。
知らないアカウントからのフォロー。
「#公開処刑告白」
「#身の程知らず」
「#勇者現る」
動画はもう拡散していた。
自分の声が、画面の中で震えている。
何度も、何度も再生される。
コメント欄。
《さすがにキツい》
《女の子かわいそう》
《気持ち悪い男は存在が迷惑》
その一文が、やけに鮮明だった。
何百件の中で、なぜかそれだけが刺さる。
気持ち悪い男は存在が迷惑。
母が夕食を運んできた。
何も聞かなかった。
スマホの画面を見て、静かに目を伏せただけだった。
沈黙は、責められるより重い。
その夜、鏡の前に立った。
丸い顔。
低い鼻。
不均衡な輪郭。
ニキビ跡。
笑えば、さらに歪む。
「はは」
乾いた音が出た。
女は顔で選ぶ。
それが世界のルールだ。
俺は選ばれない側。
笑われる側。
値踏みすらされない側。
なら――
もし。
もしも、だ。
俺が選ぶ側になれたら?
笑う側になれたら?
価値を与える側になれたら?
スマホの画面に映る自分の告白姿が、何度目かの再生を迎える。
俺は目を閉じた。
心の奥に、ひどく醜い願いが生まれる。
――今度は、俺が選ぶ側になりたい。
その願いを抱いたまま、意識は暗転した。
まるで世界が、入れ替わるみたいに。




