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秘密兵器……になるの?



 マグリティア帝国が妙に強気な理由がわかりました。魔獣の蠱毒みたいな遺跡を発見し、しかも現在も稼働しているみたいだから秘密兵器に、という流れのようです。


 こんな不気味な秘密兵器、見なければよかったと本気で後悔しますが、なぜか帝国の好戦的な貴族連中は大喜びしていました。


 誰か止めろ! と大声で叫びたくなります。


 この場で唯一それができそうなのがマーケレス公爵の秘書であるリフーノさんだけなのに、彼も和平派から開戦派に乗り換えるどころか好戦派になってしまう勢い。


 どんどん状況が悪化していくのに、どうにもならないもどかしさ。


「では、実際にやってみせよう。蓋を開けろ」


 ベメロガ様があっさり言うのでびっくり。


 なんとか制止しようとします。


「いまからでしょうか?」


「無論、無論。なにか問題でもあるのか?」


「帝室魔法士筆頭たるベメロガ様の実力を疑うわけではございませんが、ここの魔獣は規格外の強さでは?」


「ここのところ、ずっと近衛騎士団が試しておったので、だいたいはわかっておる」


「どの程度でしょう?」


「うむ。近衛騎士団では刃が立たないわけではないが、かなり苦戦するのは確実で、相当な損害が出ることが予想される。ゆえに我々が助太刀するのだ」


「あれほどの護衛を引き連れてきたりは、このためということでしょうか?」


「その通り。近衛騎士団から壊滅を覚悟でやるしかないと連絡をもらったから、なんとか増援を送りたかったのだが、まとまった兵を動かす口実がなくて困っていたのだ。そんなときにタイミングよくマーケレス公爵が視察団を出したいと言ってきたから、ちょうどいいと、腕利きを集めた」


「そういうことでしたか」


 マーケレス公爵が利用された形になっています。これでは戦争阻止どころか、開戦まっしぐら。


 ここで私が暴れて全員を倒せるのなら考えますが、まず不可能ですね。先祖が偉かっただけで本人は大したことない貴族なら何人いようと負ける気がしませんが、帝室魔法士筆頭の肩書きは伊達ではありませんし、伯爵たちもかなりの戦闘力があります。


 昼食会のときに鑑定しまくったのでわかりました。帝国最強のドリームチームですよ、これ。


 さらには遺跡もあります。ふたたび封印するのではなく、二度と使えないレベルに破壊するのは無理。高レベルのダンジョンを1発で破壊するような大規模殲滅魔法は知りません――たぶん存在しないんじゃないですかね。基本的には乙女ゲーの世界ですから、完全にゲームバランスを崩すようなことはできないように設定されてそうです。


「いまこそ帝国の復権だ!」


 おーっ、とか盛り上がってますけど、本当にコレ大丈夫なヤツなんででしょうか?


 ゴゴゴゴゴと地震――ではないですね、地面ではなく蓋そのものが揺れています。真ん中から二つに割れていきました。この巨大なマンホールには封印系の魔法がかけられているようですが、こうやって開けてしまえば魔法の効力はなくなります。つまり下の魔獣が自由に地上に出てこられるようになってしまう。


 こんなの地獄の釜が開いたようなものじゃないかという疑いが。


 しかし、まわりにいる帝国の貴族や近衛騎士団の人たちは満面の笑み。すごい嬉しそうです。


 隣を見るとリフーノさんも喜んでいるじゃないですか。マーケレス公爵の方針は和平で、こういう状況をストップさせたがっていると思っていたのですが、その代理人が一緒になって「必殺の秘密兵器だ、わーい!」と大歓喜では困ります。


「どうするのでしょうか、これは」


「やるしかない」


「やるのですか? 本気で?」


「ストランブール王国、いや、これだけの戦力があれば大陸統一すら現実的だ」


 完全にリフーノさんは舞い上がっています。


「マーケレス公爵を誤解していたようだな。王国に媚びを売る腰抜けではなく、こういう機会を虎視眈々と狙っていたとは」


「よもや同士であったとは」


 脳筋の連中とリフーノさんが手を取り合っています。


 本当にそれでいいのか? 


「きたぞ!」


 そのとき穴の中を覗き込んでいたカヴェーヌ伯爵が叫んで、迎え撃つつもりなのか、腰の剣を抜き――ジャイアントバットらしき集団に飲み込まれました。呪法の蠱毒は最後の1匹になるまで共食いさせるようですが、このマンホールの下の世界はダンジョンですから、つねに魔獣が湧き続け、さっき私が見ただけでも何百といましたから、その中には飛行能力のある魔獣もいるのでしょう。


「なんだ……こいつらは……雑魚はどうでもいい」


 やたらと剣を振りまわしていますが、その様子を見る限り、どうでもいい雑魚にもまったく勝てないようですけど?


「風の盾よ、我を守れ!」


 風の盾を伯爵の前に出現させ、1メートルほどはありそうな巨大蝙蝠に叩きつけてやりました。


「いや、すまん。さすが侯爵家の騎士団教導だ。なかなかの腕をしている」


 お世辞とか、割とどうでもいいんで、それよりマンホールを閉じてもらえないでしょうか? 封印が解けて、下からどんどん魔獣が這い上がってきます。


 覗いたときは何百もの魔獣が穴の底でうごめいていると思いましたが、訂正。たぶん何千。ひょっとしたら万。


 穴の底だけでなく、横穴からも魔獣があふれてきました。


 ダンジョンの中心地に立坑を掘っただけで、各階層の残りが横穴になっているのでしょう。そこを棲家としている魔獣も結構いるようです。


 ゴブリンやオークやコボルトが横穴から上を目指し、ミノタウルスやオーガが気勢を上げながら棍棒を振りまわしています。そのうしろにはサラマンダーが火を吐きながらよじ登り、ケルベロスが駆け上がろうとしていました。


 キラーアントの群れがそろそろ穴から出てきそうです。


 他にも、ざっと見ただけでグール、トロール、バジリスクなどがいました。


 底のほうにいるのはベヒモス。


 サイプロクスもいますね。


 フェニックスやドラゴンがいないのは助かりますが、ベヒモスにしてもサイプロクスにしても凶暴な魔獣。


 しかも全体に数が多くて、照度が低い中で見ると魔獣たちが黒い川のようになっています。


 重力に逆らう闇の大河。


「混沌が這い寄ってくる……」


 思わず、呟きました。終わりの始まりのような光景です。












ブックマークありがとうございます。とても励みになります。

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