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憧れの冒険者登録


 やっと国境の街ヌーベルトに到着。囮や餌として使い潰すつもりだったオトエサは奇跡的にも生きていたので、そのまま衛兵に引き渡しました。


 そのとき現金の持ち合わせがないことに気づきまして……恥ずかしいことですが、まわりの使用人が全部やってくれますから、私の財布なるものは現在も過去も存在すらしてなくて、金貨や銀貨や銅貨の存在は知識のみ。手にしたことすらありません。


 改めて考えてみると、箱入り娘なんですねぇ、私。


 そんな箱入り娘が絶対に近寄らない、存在すら知らないことになっている下町とスラム街の境目あたりに冒険者ギルドはありました。


 馬車をつないで、中に入って1秒で後悔。


 なんなの、コレ?


 臭い。


 汚い。


 もう帰りたい。


 おまえら、いったい何日風呂に入ってないんだ? という汚い連中の巣窟じゃないですか。目から涙が出そう。


 まあ、この世界、風呂は結構な贅沢品で、平民だと風呂に縁がなくてもしょうがないですけど、体を拭くことすらしてないような奴がいっぱいいそう。


 それでも感じよく振る舞えばいいのですが、態度も、ねぇ。


 ギルドの中は騒々しいというほどではなくても、それなりに話し声が響いていたと思うんですよ。ところが、私が入っていくと、急にみんな黙ってしまいました。


 さりげなく、私に注目している、そんなふうなんですよ。


 なんだかテンプレきそうな雰囲気ですよね。駆け出しの冒険者にカラんでくるチンピラ先輩が登場しそうじゃないですか。


 回れ右しようかと思いましたよ。


 あるいは魔法できれいさっぱり燃やしてしまうか――昔から汚物は火炎で消毒することになってますし。


 ただ、ねぇ……お金がないのでは困りますから。王国内なら侯爵家の威光でツケにでもしてもらいますが、ここは敵国といってもいいような場所。


 現金がないのでは身動きが取れません。


 それに私としては冒険者になるのは夢の1つですから!


 ファンタジー系RPGが好きな人がファンタジーっぽい世界にやってきたら、絶対に冒険者になりますよね?


 むしろ、ならない要素が存在しない!


 私も失敗する可能性の高い和平交渉の密使を引き受けたのは、国外追放されても冒険者になればいいや、と思ったから。


 いや、第一王子の婚約者ですけど、あいつ、男爵令嬢に夢中ですし。


 だいたい見た目はいいとしても脳筋の王子様と結婚しても退屈しそう。


 というわけで、ギルド内の臭さには閉口しましたが、憧れの冒険者登録ですよ。


「お尋ねいたしますが、冒険者に登録したら討伐したモンスターなど買い取っていただけます?」


 受付はオッサンです。テンプレだと若くてかわいい女の子なんですけど。


 もう1つのテンプレ、さっき心配した「おまえみたいな奴が冒険者登録だと?」とカラんでくるチンピラ先輩ですけど、こっちもいまのところ大丈夫みたい。


 喧嘩はしたことありませんが、殺し合いだったら私、結構自信あるんですけど。ゲンコツでポカポカはダメですけど、魔法でガチ勝負なら負ける気しません!


 お約束でいくと、転生者は人間はもちろん、モンスターでも人型のものを殺すのに忌避感があるのですけど、私はもともとはゲーム感覚で転生後を生きていたので、好んでPKしないものの、どうでも嫌というほどでもなかったです。


 最初は確か5歳のときだったと記憶しています。奴隷商人の仕入れ担当者みたいな男に襲われて、とっさにファイヤーボールを撃ったら制御不能で最大火力になり、消し炭どころか爆砕してしまいました。


 まだ幼女のころですから「てへっ、ぺろペろ」と可愛く微笑んだら許してもらえそうなものですが、なにしろ街角が真っ赤なペンキをぶちまけた、ばっちい現代アートのような状態になってしまったので……怒ったお父様によって『この猛獣に魔法を使う口実を与えないでください』という看板を首からぶらさげて、街を1周するように命じられました。


 で、まあ、なにもヌーベルトの冒険者ギルドで、到着して早々にチンピラ先輩を粉砕して床に赤ペンキをまき散らそうとは思わないものの、どうしても芸術は爆発だと主張したいのなら、私としては協力するもやぶさかはないと感じていないこともなかったりします。


 ところが残念なことに――いえいえ、別に好んで人と争いたいわけではないので、カラまれなければカラまれないでいいんですけど、誰も直接文句を言ってくることはなく、ただギルドの受付の人がいぶかしげに私を見るだけでした。


「登録?」


 元は冒険者で、引退した人なのでしょうか。眼光鋭く私を見据えました。侯爵領で魔獣討伐をするときの装備ですので、冒険者みたいに見えないことはないと思うのですが……自分の身長より長い剣でも背負って登場したほうがよかったのかな?


「銀貨1枚」


「……先に買取はお願いできませんか?」


「かまわないが、登録してない奴から買い取る場合は2割引になるぞ」


「……しかたないですね」


 お金がないから道中で狩ってきた魔獣を換金できないかと思ったのですが、まず冒険者に登録するのに銀貨が必要。だけど、私は銀貨どころかお金はまったく持っていません。


 そうなると2割引になったところで、先に換金するしかないですよね。


 ところが、そんな私の手元に銀貨が飛んできました。


「もったいねーから、先に登録しとけよ。おごっちゃるから」


 飛んできた先にいたのは身長2メートルは超えている巨漢。人族でないのは頭の上にピン! と飛び出した三角耳。犬とか狼とか、そっちの獣人族みたいです。


 ベテランの冒険者なのでしょうか、年季の入った(あるいは廃棄処分寸前の)胸当てをしていました。短剣を腰に何本も差し、背中には身長と同じくらいの2メートルを超えそうな大剣。


 こんな大剣を自由自在に振りまわせるとしたら、フィジカルのみの勝負を挑めば瞬殺されてしまいそう。


 この世界では男は筋力、女は魔力が強い傾向にあります。別に男の魔法士がいないわけでもないですし、女が剣士になれないわけでもないですが……短所を伸ばすより、長所を伸ばすほうが合理的ですよね?


「ありがとうございます」


 親切は受けとっておきましょう。カラんでくるチンピラ先輩はいなくて、こんな親切な人がいるのですから、冒険者ギルドもいいものですね。


 臭いけど。


 すっごく臭いけど。


 この親切な獣人族に免じて許してあげましょうか。幸い、この人は変な臭い控え目ですしね。


 ついでに耳や尻尾をもふもふさせてくれれば嬉しいのですが、初対面の獣人族にもふもふをお願いしても怒られるだけだと私は知っています。なんで知っているかといえば、過去に何度も怒られているから。


 それから喋るときは語尾に「わん」をつけてくれると完璧なのですが、語尾に「にゃあ」をつけてくれる猫人族とともに絶賛募集中なのに、さっぱり見かけませんね。






第2章スタート

国境の街編となります

相方もかわりまして犬人族ですね

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