関係性の始まりと変化
番外編その1
静稀と出会ったのは、俺が小学校二年生の時だった。
当時の俺は、気弱で大人しい少年でいつもいじめっ子に泣かされていた。
その日、俺はいじめっ子に壊されたキーホルダーを握り締め、近所の公園のベンチで泣いていた。そんな俺に声をかけてきたのは、当時小学校一年生の静稀だった。
「どうしてないてるの?」
「これ、壊されて・・・・・・」
大きな目でじっと俺を見つめる彼女は、俺の手の中にある壊れたキーホルダーに気付いたらしい。「待っててね!」と言って、ごそごそとポシェットを漁る。
「・・・あった!
はい、コレあげる。元気だして」
そう言って彼女が俺に渡してきたのは、犬のマスコット付きキーホルダー。それを差し出す笑顔に、俺はドキドキした。彼女はそのまま立ち去ってしまい、名前を聞かなかったのを公開した。
しかし数日後、俺は彼女と再会した。いじめっ子たちが、彼女をからかっていたのだ。からかいの言葉に泣きそうになる彼女を見て、俺はいじめっ子たちに突っ込んでいった。
気付くと、俺と彼女の二人だけで、いじめっ子たちはいなくなっていた。俺が追い払ったらしく、彼女は何度もお礼を言った。
その安堵した笑顔に、俺は思った。
ーーーこの笑顔を、見ていたい。
「おれは、きりのあまね。
きみは?」
「しずき。かんざきしずき」
「しずき、これからはおれがまもるよ!」
「うん!」
こうして出来た、俺たちの関係性。
俺は静稀の番犬となり、静稀を危険から守ってきた。
時々、静稀に甘えると、彼女はとても喜んでいた。その時の笑顔はとても綺麗で、俺はその笑顔を見るためにますます静稀を守り、その分甘えた。
しかし、その関係性は変わりつつある。
きっかけは、静稀に出来た『男友達』。静稀も許容していたし、彼ーー田沼涼介は、静稀がクラスで浮かないようにしてくれているので、好感が持てた。
しかし、田沼に見せる静稀の笑顔は、俺が見たことがあるものとは、少し違っていた。
だから、見たくなった。
まだ見たことのない、静稀の表情を。
だから、欲しくなった。
『番犬』以外の役割が。
そして、気付く。
俺は、静稀を愛しているのだと。
俺は今日も静稀に愛を囁く。
静稀の『恋人』になるために。
「静稀、愛してる」
「・・・・・・私も、だよ」
鞄についている古びた犬のマスコットが楽しげに揺れた。