2.2-07 ほたる?7
「うわぁ……」
『すっごく嫌そうな表情をしてますね……テレサ様』
「いや、妾、ホント、この翁が苦手なのじゃ……」げっそり
そう言って頭にかぶったフードをギュッと握りしめながら、反時計回りに翁さんを回避して、外へと逃げようとするテレサ様。
一方、それとは逆に、狐の姿のアメさんが、何食わぬ顔で、外へと向かおうとするのですが――
ガシッ!
「きゃん?!」
――残念ながら、彼女は、床に頭を伏せたままの状態の翁さんに捕まってしまったようです。
直接見ること無く、アメさんのことを捕まえられるなんて、すごい人だと思います。
なんか……愛犬を捕まえるお爺ちゃんそのもの、って感じです。
その様子を見て――
「……その尊い犠牲……妾は忘れないのじゃ……!」キラッ
と言いながら、逃げ出そうとするテレサ様。
……ちなみに、こんな時、この世界の人々は、こう言うらしいです。
『しかし、まわりこまれてしまった!』
と。
「……ポテちゃん?それ、わざわざ、口にしなくてもいいと思う」
「…………」こくこく
『ちょうどいいタイミングと雰囲気だったと思ったのですが……いえ、冗談です』
苦々しい表情を浮かべて後ずさっているテレサ様を見ると、いつまでもふざけている場合ではない気がしてきました。
ルシアちゃんも主さんも、本気で嫌がっているテレサ様に対し、同情している様子です。
ただ、この翁さん――多分、この神社の神主さんだと思うのですが、彼に僕たちのことを害するつもりは無かったようです。
彼は、頭を下げた状態で、テレサ様に向かって、こんなことを言い始めたました。
「せ、先日はご無礼を働きましたこと、深く謝罪申し上げ奉り候……!」
「いや、普通に喋るが良いのじゃ……。お主がどう考えておるのかは知らぬが、妾は単なる町娘でしか無いのじゃからのう」
そんなテレサ様の言葉に――
「多分、そんな喋り方をする町娘って、どこにもいないと思うけどなぁ……」
「…………」こくこく
と、テレサ様に色々と言いたいことがあった様子のルシアちゃんと主さん。
ですが、それを口にしたテレサ様の方は、至ってマジメな様子で……。
翁さんに対し、構わないで欲しいオーラ全開、といった雰囲気です。
そんな彼女に対し、翁さんが返答します。
「……神使ではない、と?」
「うむ。こんな形ゆえ、勘違いしてしまうかも知れぬが、先程も申したとおり、妾は単なる町娘、単なる狐でしか無いのじゃ」
「いや、テレサちゃん?自分で何言ってるか分かってる?」
「む?妾、何か変なことでも言ったかの?」
「いや……うん……なんでもない……」
「……で、まぁ、そんなわけじゃから、神とか神社とか、妾にはまったく関係ない話なのじゃ。じゃから、妾たちのことを見ても、できるだけスルーしてほしいのじゃ?」
そんなテレサ様の言葉に――
「……かしこまりました」
と、頭を下げながら、一応はそう口にする翁さん。
彼が納得したかどうかは定かではありませんが、テレサ様の機嫌を損ねたことについて申し訳なく思っていることについては、間違いなさそうです。
それからテレサ様が、すすす……と、翁さんの横を通過しても、今度は彼がテレサ様のことを追いかけるようなことはしませんでした。
なので、僕たちもそれに続いて歩いていったのですが――
「……そうだったのじゃ。一つだけお主に言っておかねばならぬことがあったのじゃ」
テレサ様は本殿の入り口を降りたところで立ち止まると、翁さんの方を振り返って、こんなことを言いました。
「その狐……返してもらえるかの?」
そう口にした彼女の視線の先にいたのは、狐の姿をしたアメさん。
翁さんに捕まっておとなしくしている彼女は、どこからどう見ても翁さんの飼い犬のようで、放置しておいても問題なさそうでしたが、テレサ様はそんな彼女のことを救出することにしたようです。
以前、この神社を住処にしていたというアメさんは、もしかすると、人の姿ではなく、狐の姿で生活していたのかもしれません。
……それも翁さんの飼い犬として。
対して、テレサ様の質問を受けた翁さんは、アメさんを抱えて土下座をしたまま、その場で半回転すると、僕達の方を振り返って、こう答えました。
「此奴は、昔から我が家で飼っております『ヒメ』という犬で、最近、逃げだしておりまして、今日、ようやく返ってきたところでございますが……」
「……お主、其奴が犬に見えるのかの?」
「はて?犬ではないと?」
「……はぁ」
狐という動物に特別な感情を抱いているテレサ様は、翁さんが、アメさんのことを狐だと思っていることに、幻滅してしまったようです。
それからテレサ様は、頭にかぶったフードを跳ね除けると、そこにあった銀色の獣耳をピンと立ててから、アメさんに向かって問いかけました。
「……アメよ。今一度、問うのじゃ。お主はここに残りたいかの?それとも妾たちと一緒に行きたいかの?」
そんなテレサ様の問いかけに、アメさんは一瞬だけ迷った素振りを見せるのですが……。
しかし、テレサ様は、アメさんの返答を待たずに、こう口にします。
「……ふっ。主に、選択肢があるとでも思ったかの?……翁よ。今から其奴は『妾の所有物なのじゃ』。というわけで、妾に返すのじゃ?」
「……かしこまりました」
と、支配魔法を行使したテレサ様の前に、為す術無く、アメさんを放す翁さん。
結果、狐の姿をしたアメさんは、自由になれたのですが――
「…………?」
何が起ったのかさっぱり分からない、といった様子で、首を傾げていたようです。
まぁ、テレサ様の魔法は、かなり特殊なので、理解できなくて当然ですけどね。
「ほれ、アメよ。さっさとホタルを見に行くのじゃ?お主が、ゆっくりとしておるせいで、すっかり日が暮れてしまったではないか」
そう言って、自分のところへと歩いてきた狐の姿のアメさんを、軽々と持ち上げるテレサ様。
こうして、その場に翁さんを残したまま、僕たちはその場を後にしたのです。
……と、その前に。
「あ、そうそう。翁よ?『ここにはヒメという犬は存在しなかったのじゃ?』」
テレサ様は、最後にそんな言葉を、翁さんのために残して行きました。
それがどんな結果をもたらしたのかは……。
そこにいた翁さんが、まるで狐に化かされたかのような表情を浮かべて、頭を掻いていた、と言えば、大体分かってもらえるのではないでしょうか。
……本当は先月中に書き終わりたかったのですが、予定よりも1ヶ月以上遅れてしまいました……。
僕はもうダメかもしれません……。
仕方ないので、家の周りのG狩りに出かけてこようと思います……。
まぁ、それは置いておいて。
本当はもう少し、テレサ様のセリフをかっこよく書きたかったのですが、結局、普通に書くことにしました。
なんというか……こう、テレサ様って……かっこいいキャラではないんですよね……。
それが当てはまるキャラは別にいるというか……。
その話は、多分、次章辺りで、誰かがしてくれるんじゃないでしょうか。
……以外に僕だったりして。
いや、筆者が僕、って話ですよ?




