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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
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2.1-01 あうとどあ?01

緑色の木の葉の隙間から漏れる太陽の白い輝き。

ところどころ急流になっていても、歩いて渡れないほどではない小川。

そして、夏の存在を奏でる虫達の鳴き声……。


「う、うわっ!ぬ、主ら、離れるのじゃ!」


……これはテレサの()()声だ……。


要するに、今、私たちは、山の中に来ているんだ。

世間一般的にはアウトドアと言うらしいが、元いた世界で、食うか食われるかの大自然の中に身をおいていた私たちにとっては、単なる遠足みたいなものだな。

もちろん、自然を舐めていると、いつ足元をすくわれるか分からないっていう気持ちを、常に忘れない上での話だけどな?


「こ、これ!狩人殿!そこで遠い視線を空に向けてないで、妾を助けるのじゃ!」


「小さな虫にまとわりつかれてるくらいで、そんな文句を言ってたら、これから先やっていけないぞ?」


「そ、そういう問題では無いのじゃ!」


まったく……どうやらテレサは、箱入り娘として育ったせいで、虫が苦手なようだ……。


私はそんなことを考えながら、小川に入れていた竿を上げると、後ろを振り向いた。

するとそこでは……


「……何やってるんだ?テレサ……」


「し、知らぬ!どうしてこうなったのじゃ!?」


無数の蝶に纏わり付かれているテレサの姿が……。


「……なぁテレサ?もしかして、テレサの身体からは樹液でも出てるのか?」


「出ておるわけ無かろう!」


「だよな……。なら、後で、ルシアに虫除けスプレーを借りて、掛けるしか無いだろうな……。っていうか、何で最初に掛けて貰わなかったんだ?」


「いや、掛けてもらったのじゃ。そのはずだったのじゃが……この有様なのじゃ。これはきっと、嬢からの嫌がらせだったに違いないのじゃ!虫除けスプレーは実は、虫除けではなく、虫を寄せる、ふぇろもんすぷれー?、とか言うやつじゃったかも知れぬのじゃ」


「いや、無いと思うな……。売ってるのを見たこと無いしな……」


もしもそんなものがあったら、罠を作るのに、私が買ってるはずだからな……。


……そんなわけで、私たちがやってきているのは、前述の通り山の中。

もっと具体的に言うなら、長野県の南部にある南アルプスの山奥だ。

旅行が延期になったはいいが、テレサたちの家主殿の休みまでは延期にすることが出来なくて……それで、どうしようかと考えあぐねていた彼女たちに、私がダメ元で『山にキャンプに行こう!』って言ったら……不思議とそれが通っちゃったんだよ。


私としては嬉しい限りだが……でも、テレサの方は、様子を見る限り、あんまりうれしくなさそうだ。

……仕方ない。

山遊びの何たるかを、教えてやるか!


「おい、テレサ。とりあえず寄ってくる蝶は害がないから放っといて、この竿を川にいっぺん、垂らしてみろ」


「……?妾に釣りをしろと?」


「あぁ、そういうことだな」


「生まれてこの方、一度もやったことがないのじゃが……」


そう言って、蝶(クモマツマキチョウ?)だらけの手で、シンプルな仕掛けが付いた長さ5mほどの竿を受け取るテレサ。

所謂、渓流用のエサ釣りの仕掛け、ってやつだ。


「誰でもできるから、そんなに気を張らなくても良い」


「……そういうものかのう?」


「あぁ。実際試してみれば分かるさ。まずなぁ……」


私はそう言ってから、近くを流れていた、川幅4mほどの渓流へと視線を向けた。


そこには、大小様々な石ころや、倒木、それに川の流れによって形作られた窪みなどがあって、魚が隠れやすそうなポイントがたくさんあった。

そのポイントすべてを、初めて渓流釣りをするテレサに教えるのは難しいから……まず最初は、ピンポイントでどこに魚が隠れてるかを教えてやることにしよう。


「例えば、そこで川の流れを遮っている岩の陰。流れが淀んでいるだろ?そこに向かって、流れに逆らわないようにして、1mくらい上流から、針を流してみろ」


「むむむ……中々難しいことを言うのう……」


といいながらも……


ポチャン……


と、言った通りに、大きな岩がある上流1mくらいの場所から、川の流れにそってゆっくりと餌のついた針を流していくテレサ。

針と竿をつなぐ道糸(みちいと)には、赤と黄色の矢印のような印が付いていて、見えにくい糸の先に付いた針の在り処を教えてくれているんだが……それが岩の陰に流れ込んだ、その瞬間、


グイグイッ!


私からも分かるほどに、不自然に水の中へと吸い込まれていったんだ。


「……?!な、何じゃ?!」


「魚が食いついたんだ」


「ど、どうすればいいのじゃ?!」


「あー……どうすればいいかは、経験によって異なるから、とりあえず、バレないように、ゆっくりとこっちに引っ張ってくればいいんじゃないか?」


「て、適当なのじゃ……」


と言いつつも、なかなかのセンスで、魚が針からバレないように、ゆっくりとこちらに竿を引っ張るテレサ。

その結果、


「はい、おつかれさん!」ザバッ


体長25cm程度のアマゴという山魚が釣れた。

見た目はヤマメとほとんど同じだが……厳密には違う魚だぞ?


「…………ほぉ……」


「どうだ?初めての釣りは?」


「思ったよりも……簡単だったのじゃ」


「だろ?まだやるか?」


「う、うむ。それが妾たちの仕事じゃからのう」


「……そうだな」


そんなやり取りをする私たちの会話の内容通り、キャンプに来ていたメンバーには、それぞれに役割があった。


私たちは釣りをして、晩ごはんのメニューを増やすという役割。

ルシア……は、間違っても料理の手伝いはさせられないから、焚き火の準備。

アメ殿と家主殿……それに他数名は料理の準備、って感じだな。

まぁ、誰が来ているのかは、後で語るとしよう。


ちなみに、今回のキャンプでは、一つだけルールがあるんだ。

……魔法は使わない。

熊のような危険な動物と出くわしたなら、その限りではないが、極力魔法を使わないようにする、っていうルールだ。

もしもルシアが魔法を使ったら……キャンプの面白みが完全に無くなってしまうだろうからな。

昔、そんな経験をした覚えがあるんだよ……。


「……どうしたのじゃ?狩人殿?また遠い場所を眺めて……」


「いや、なんでもない。気にしないでくれ。さて……それじゃぁ、釣りの続きをするか」


「うむ!」


そんなやり取りをしてから、2本目の竿を準備して、テレサに渡し……そして川の縁を歩いて、ゆっくり釣りをしながら遡っていく私たち2人。

てっきり、テレサは虫が苦手かと思ってたんだが……ちゃんと餌の虫を自分でつけられていたところを見ると、どうやらそうではないみたいだな。

まぁ、餌に針を通すとき、死んだ魚みたいな眼をしてたみたいだが……許容範囲内だろう。

というわけで、ここからは、大自然の申し子(?)狩人がお送りする。

どうしてもアウトドアの話を書くたくて、書きたくて……ちらっとそんな話をテレサにしたら、『別にいいのじゃ?』的なことを言って、書かせて貰えることになったんだ。

本当は、山の中を歩いた時の、一挙手一投足すべての感覚について書きたいところなんだが……そんなことをすると、もう二度と書かせてもらえなくなると思うから、重要なところだけサラッと触れていこうと思う。


でも、書きたいなぁ……。

川の中を歩いた時の、水が肌を滑っていく感覚とか、足の裏で踏みしめる苔の感覚とか……。

風の流れの中に聞こえてくる木の葉が擦れ合う音とか、そこで暮らす動物たちの息吹とか……。

……おっと拙い。

この辺で切り上げておかないと、収拾がつかなくなりそうだ。

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