1-30 はなふぶき?6
風に舞う花びらが雪のように見える『花吹雪』という言葉は、誰が最初に使い始めたんでしょう?
それが誰なのかは、私には分かりませんが、ただ一つだけ言えることは……きっとそれは、桜の花が綺麗な国で生まれた言葉である、ということです。
だって、地面に生えている花びらでは、吹雪は起こらないんですから……。
……あ、草刈りした後は別ですよ?
「……ユリア?今、何か変なことを考えませんでしたか?」
「いえいえ、そんなことはありません……」
草刈りした後に立ち上るオオバコなどの花粉のことを想像して、自分でもよく分からない表情が顔に出ていたようです。
あれ、嗅いだ瞬間に、涙は止まらなくなるわ、鼻水は止まらなくなるわで、ヒドイことになるんですよね……。
草刈りなんてしなければいいのに……。
……それはそうと、です。
眼から輝きが失われて、鮮度の悪い魚のような眼をしていたシリウス様が、ようやく復活されたようです。
「もう大丈夫なのですか?シリウス様」
「はい……。この気持ち、悔しいと表現すべきか、何というべきか……複雑なところですね……」
と、言いながら外の景色に眼を細めるシリウス様。
雪女なのに、雪の成分が殆ど無いことに、嘆いているようです……。
……というわけで、今、私たちは、自宅のシリウス様の部屋の中にいます。
そう、私たちは、ルシアちゃんの言った3分の間に、戻ってきたんです。
……え?
前回の話のあとがきで、私が何か言っていた?
覚えていません。
それはどうでもいい話なので、この際、ゴミ箱の上かどこかに置いておきましょう。
問題は……
「ふぁっ……ふぁっ…………ふあっくしょん!んなろー!」
……家に戻ってきた途端、このザマなんですよ……。
ただ、家を出た時と大きな違いがあります。
それは……この世界にきてもメイド(?)をし続けているイブちゃんが、今日も欠かさず掃除をしてくれたおかげで、部屋の中に花粉が無くなっていたことです。
……なのに、私はクシャミを続けていました。
その理由は……
「うぅ……寒っ……」
……かれこれ、雪が降り始めて、2時間は経っているというのに、未だに止むこと無く降り続けていて……そのせいか、気温が随分と下がっていたからなんです。
「……綺麗ですね……。吹雪……」
「シリウス様!それ何か間違ってます!雪が綺麗なのは否定しませんけど……」
外の景色は、花吹雪どころじゃなくて、単なる吹雪です!
ルシアちゃん、どれだけ高出力な魔法を使ったんでしょうか……。
「……それにしてもおかしいですね」
ようやく雪が降り続けていることに気づかれたのか、シリウス様がそう口にされます。
「魔力の気配を感じる限りでは、もうすでに魔法の効果は切れているはず。……でも、雪が止む気配が無い……。一体、どうしてなのでしょう?」
「え?シリウス様、獣耳生えてないのに、魔力の気配が分かるんですか?」
「それは……どんな魔法を使ったかによりますね」
「あ、そういうことでしたか……」
どうやら、雪女であるシリウス様は、魔力ではなく、ルシアちゃんの氷魔法によって生じた温度差に反応しているようです。
恐らく、火魔法を使っても、シリウス様には分かるのではないでしょうか?
逆に言えば、氷魔法と火魔法以外の魔法は、使われても分からないんでしょうね……。
……そもそも、私には、何も分かりませんけど。
「それにしても、ホント困りますよね。この季節外れの雪というか……むしろ大雪というか……」
「そうですか?冬に戻ったような気がして、ボクとしてはありがたいですけれど……」
「……その分だけ夏が遠ざかりますよ?」
「……!」
それから両腕で頭を抱えて……ワナワナと震え始めるシリウス様。
相反する両方の季節が好きというのも、全く困ったものですね……。
……さて。
シリウス様は、もう放っておいても大丈夫そうなので、私はこの辺でお暇させて頂きましょう。
明日のことを考えるなら、もう寝なくてはならない時間です。
どこかの狐娘の上司とは違って、私はニートではないのですから。
「……ではシリウス様。今日はもう遅いので、私は部屋に戻らせていただきます」
「え?あ、もうこんな時間でしたか……。……ありがとう、ユリア。私のことを思って、残っていてくれたんですね?」
「もちろんではないですか!」
ふっ……これでまた点数が上がりましたね……。
何の点数か?
もちろん、上司からの評価ですよ?
私がそんなことを考えていると、何故か苦笑を浮かべてシリウス様が仰られます。
「……その、怪しげな笑みがなければ、何も言うことはないのですけどね……」
「えっ……」
えっ!?
顔に出てた?!
うそん?!
……と、まぁ、そんないつも通りのやり取りをしてから、私は自分の部屋の戻り……そして、眠りにつきました。
……言っておきますが、ちゃんと歯を磨いてですからね?
そして次の日の朝です。
「ふぁ〜〜〜っ……」
熟睡しました……。
ここまで熟睡出来たのは、いつぶりでしょうか。
やっぱり、部屋の中の気温が低いほうが、睡眠の質は上がるのかもしれませんね。
それと、明るさと音も重要です。
暗くて、静かな部屋がベストですよね。
そう、暗くて、静かな部屋……。
「……え?」
……ちょっと暗すぎません?
それに、小鳥の鳴き声も、街の喧騒も聞こえないって……おかしくないですか?
そんなことを考えた私は、ベッドから起きると、カーディガンを羽織って……窓を覆っていたカーテンを開けました。
するとそこからは……
「……えっと……まだ、夢を見てるんでしょうか?」
景色は見えませんでした……。
何故見えなかったかって?
……何か白いもので、窓が覆い尽くされていたからです。
そのせいで、外の光が、部屋の中に入り難くなっていたようですね……。
「ふぁっ……フアックション!!」
……しかし残念ながら、どうやら夢ではなさそうです。
「ど、どうするんですか?ルシアちゃん……」
昨日から降り続いた雪が、振りに降り積もって……家の2階の窓を塞いでしまう……。
これは由々しき事態ですよ?!
え?
書くの遅すぎ?
気のせいです。
というわけで、話を大きく動かさせていただきますよ?テレサ様。
さて、少しだけ補足をしようと思います。
2階に到達するほどに降り積もった雪。
この雪で私たちの家が潰れなかったのは……家がしっかりとした作りだったから、ということにしておこうと思います。
雪の重みも、それほど重くはなかったので、潰れなかった……と。
その辺の話は、本編が終わってからですね。
この後、雪が降ったことによって起こる話については……テレサ様に任せることにしましょう。
それでは、またいつか。




