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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
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1-26 はなふぶき?2

しばらくの間、ルシアちゃんやアメ様と一緒に談笑をしていると、テレサ様とユリアがお風呂から戻ってきました。


すると何故か……


「…………」カタカタ


……部屋の片隅で暗い顔をしながら、小刻みに震えている様子のテレサ様。


「ユリア?テレサ様の様子が気になるのですが、お風呂の中で、何かあったのですか?」


ボクは、ドライヤーで髪を乾かしている、誰の眼から見てもスタイル抜群のサキュバスであるユリアに対して問いかけました。


「それが……よく分からないんですよ。お風呂に飛ばされること自体は、何度かこれまでにあったので、慣れているものだと思ったのですが……。もしかして、あれですかね?飛ばされた際、私の胸に押しつぶされて、窒息しそうになったことと何か関係が……」


……うん。

恐らく、原因はそれですね。

体型に諦めがついているボクでも、そんなことされたら、氷魔法を容赦なく浴びせかけ……おっと。

危うく、本当に魔法を放つところでした。


「し、シリウス様?!」


「いえいえ。ちょっと思い出した事があって、一時的に憤っただけですから、気にしないでください。思い出し笑いみたいなものです。えっと……思い出し憤怒って言えばいいのでしょうか?」


「……あの……なんか、すみません……」


……あれ?

急にユリアが怒られた子どものような表情を浮かべながら、俯いてしまいました。

もしかするとこれが、隠すことのできない魔王の資質、というものなのかもしれませんね……。

ボクにもよく分かりませんけど。




それからしばらく経って、テレサ様が機嫌を直されて、昼食の容易が整った頃。


「ほれ、今日の昼食なのじゃ!」


食卓のそれぞれの席に陣取ったボクたちの前に、テレサ様が出されたのは……お茶碗に山盛りの真っ白なご飯でした。


「あの……えっと……」


その様子を見て、固まるユリア。

きっと彼女は、おかず無しの白いご飯だけが昼ごはんの献立だと思っているのかもしれませんね……。

ボクも、メインディッシュのお肉が待ち遠しです。


「あと、これのう」


コトン(塩)


お肉の味を引き立てるために、余計な香料を使わずに、塩だけで味を付ける……。

徹底していますね、テレサ様。

……で、お肉は?


「それでは、いただきます!なのじゃ!」

「いただきます」

「うむ。いただくのじゃ」


そう言ってご飯に塩だけを掛けて食べ始める3人……。


「あの……これだけですか?もちろん、ジョークですよね?」


それも、(たち)の悪いタイプの……。


「おっと、すまぬ。忘れておったのじゃ」


そう言ってテレサ様がオーブンの方へと向かって、そこから取り出し、そして持ってきたものは……


「オーブンの中に入ったままじゃと、匂いが弱まってしまうからの…………この骨」


……スペアリブ……の骨だけでした。

肉なんて付いていません……。


そんな骨をテーブルの上に置くと……


「んー、ご飯が進むのう?」

「うん。美味しいね?」

「この匂い、たまらぬのじゃ!」


と言いながら、この家の人たちは、美味しそうにご飯を頬張り始めました。

……どうやら、本当に、匂いと塩だけで、ご飯を味わっているようです……。

……一体、ボクは、どう反応すればいいのでしょうか……。


「おぉ、そうじゃ。ユキ殿には、特別に、一緒に食べてもらいたいものがあったのじゃ」


ボクが全くご飯に手を付けていなかったことに気づいたのか、そう言ってから再び食卓から立ち上がるテレサ様。

そして彼女が、棚から持ってきたものは……


「ほれ、主専用の調味料なのじゃ」


ボクの大好きな真っ赤な唐辛子のデザイン……ではなく、ユリアの髪の色に近い紫色をした、いかにも怪しげなラベルが張られた小瓶でした。

中には黒っぽい液体とともに、ピーマンの種のような粒が入っています。

果たしてこれは……本当に調味料なのでしょうか?


「えっと……はい。せっかくなので頂きます……」


……郷に入らば郷に従え。

そんな言葉が、この世界にはあるようですね。

先ほどルシアちゃんたちが言っていたイノシシ()がどうして出てこないのか気になるところですが、こちらは飽くまでも客……。

この家の人たちよりも贅沢な食事を要求するというのは、失礼に当たります。


……うん。

もしかしたら、このお米が何か特別なものかもしれませんし、この調味料も気になるので、頂いてみることにしましょう。


そして、ボクが、調味料をご飯にかけようとした……そんな時のことでした。


「あ、ユキ殿?それ、掛けるのは良いのじゃが、1滴だけにしておいたほうが良いと思うのじゃ。むしろ、爪楊枝の先端に少しだけつけるくらいの量でも十分じゃと思うのじゃ」


「えっ?」


「まぁ、食べてみれば分かるのじゃ。あぁ、それとじゃ。……それ、結構、高価なものじゃから、味わって食べるのじゃぞ?」


「えっと……はい……」


肉は出せないけど、高価なソースは持っている……。

一体、この家は、どんな財政状況にあるのでしょうか?


……でも、それについて考えることはテレサ様方に失礼なので、思考はここで中断します。


ポトッ


瓶を開けて、妙に粘度の高かった黒い液体をご飯の上に1滴だけ落とすと……


モワッ……


「ちょっ?!し、シリウス様?!」


隣りに座って、ボクと同じように困惑の表情を浮かべていたユリアが、突然涙を流しながら、そんな声を上げました。


「どうしたのですか?ユリア」


「な、何も感じないのですか?!」


「えぇ。特には何も……」


どうしたのでしょうか?

このご飯から、何か出ているのでしょうか?

サイボーグになってしまったせいか、ボクにはよく分かりませんね……。


あ、でも、何となく辛い匂いがするような気がします。

思わず食欲がそそられる香りです。


「あぁ……いい匂いがしますね。この調味料」すぅはぁ


『…………』


そんなボクに対して、皆さん、何か怪訝な表情を向けてくるのですが、何か失礼なことをしたでしょうか?

えっと……よく分からないので、これについても思考を停止します。


お腹も減ってきたことですし、ご飯が冷える前に、早く頂いてしまいましょう。


「それでは、頂きます」ぱくっ


もぐもぐもぐ


…………


「はっ?!はぁぁぁぁぁっ?!」


それ以外に口にできる声があるなら、教えてほしいものです。

何と言っても、それは言葉ではなく、思わず口から出て来た単なる音にすぎないのですから……。


「辛っ!!うはっ!!」


……ボクは歓喜したのです!

この世界には、まだまだボクの想像を絶する辛いものがあるのだと、この瞬間、気づくことができたのですから。

これ以上に喜ばしい出来事があるというなら、それはきっとワルツ様と…………おっと、ご飯が冷える内に食べてしまわないと……。


と、ボクがそんな考えていると、


『あー……さすがのユキ殿でも、辛すぎたようじゃな……』


テレサ様が、いつの間にか身に付けていたねずみ色のガスマスクの向こう側で、そんなことを呟きました。


『そうみたいだね。もう少しレベルを落としてもいいかもしれないね』


ルシアちゃんも同じようにガスマスクを着けながら言いました。

着けていないのは……


「うぅ……さすがのワシでも、この眼の痛みはキツイかも知れぬ……」


と話す、アメ様と……


「ぶはっ?!」


……何故か隣で悶えている様子のユリアだけでした。

どうしたのでしょうか?

不思議ですね……


パクッ……


「ハフハフッ……」


「ちょっ、やめて!シリウス様!それ以上食べ……んがぁっ?!」


……おかしいですね。

ボクがご飯食べて、口の中でハフハフすると、その度にユリアが苦しむような声を上げます。

調子でも悪いのでしょうか?


ボトボトボトッ!!


『…………』


この調味料、なかなか癖になりますね。

たっぷりと書けたいところですが……高いというお話なので、少しずつ使うことにします。


パクッ……


「ハフハフッ……んー!!辛い!!美味しい!!」


郷に入らば郷に従えとは、よく言ったものです。

まさか、これほどまでに美味しいご飯をいただけるとは思いもしませんでした。


……ただ気になるのは、みなさん、ボクがご飯に手を付けてから、急に自身の手を止めたことでしょうか?

それと……隣でピクピクと痙攣を始めたユリアのことも気になります……。

……まったく。

家に帰ったら、躾を考えなくてはいけませんね。


……ところで、その際。

苦悶している様子のユリアに対して、ガスマスクの向こう側でテレサ様が意味ありげに眼を細めていた気がするのは……ボクの気のせいでしょうか?

本当は、この調味料のモデルとなった製品の名前を書きたいところなのですが、法律的な制限があるらしいので、残念ながら伏せさせていただきます。

おおよその金額だけを書くなら問題無いと思うので、参考までに紹介させていただきますと……手のひらサイズの瓶1つで、35000ゴールド……じゃなくて円くらいらしいです。

……テレサ様のお宅では、肉が用意できないというのに、それほどまでに高価なソースを購入されているなんて……一体、どのようなお金の使い方をされているのでしょうか……?

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