1-27 はなふぶき?3
……この季節は、本当に憂鬱な季節、と言わざるを得ません。
どうしてこの世界は、花粉なる小さな粉を使って、私の眼と鼻を責め立ててくるのでしょうか……。
故郷の世界ではこんなことはなかったので、もしかすると、ワルツ様の言ってた『ナノマシン』とか言う小さな機械が、悪さをしているのかもしれませんね。
まったく、困ったものです。
……と、さっきまでそう考えてました。
「し、シリウス様…………(息止めてください!)」
……シリウス様が呼吸をする度に、私の眼と鼻を激しい痛みが襲ってきます……。
これは花粉によるものではありません。
花粉はこの家に来た時点で、ルシアちゃんのオートスペルによって排除されています。
だから、本当ならこの家の空気は綺麗なはずで、私は一時的にも苦痛から開放されるはずだったんです。
でも、シリウス様があんなモノを食べるから……
「どうしたのですか?ユリア?そんな辛そうな顔をして……」
と言いながら、件のシリウス様がこちらに向かってそんな言葉を飛ばしてきます。
言葉だけなら、いくらでも受け止める自信はあります。
なんと言っても、私の主様(4番目)なのですから。
……でも、その吐息だけはどうにからないでしょうか……。
っていうか、いつの間に、ルシアちゃんとかテレサ様は、どこかのホラー映画で出て来そうなガスマスクを着けてるんですか?!
私にもそれください!
と言おうとして、私は口を開こうとしました。
ツーン……
その瞬間を狙ったようにして、鼻と喉と、そして眼を焼くような鋭い痛みが、私を襲います。
「ゲホッゲホッ?!」
……正直洒落になりません……。
するとようやく、私のHPがマイナスになっていることに気づいたのか、テレサ様が私に向かってガスマスクを差し出してきてくれました。
『ひ、酷いですよ!テレサ様!』
私はそれを受け取って、顔につけると、すかさず抗議の言葉を口にします。
もう、わざとやっていたとしか考えられないレベルですよね……。
私がそんなことを考えていると、テレサ様は鋭い視線をこちらに向けながら言いました。
『お主……風呂の中で、妾に何をしたか覚えておるか?』
『えっと……胸を押し付けたとかですか?』
『そうなのじゃ……。許されざる愚行なのじゃ……万死に値するのじゃ……!』ゴゴゴゴゴ
あー……。
本当にわざとやっていたんですね……。
これは失態を働いてしまったようです。
テレサ様にしても、シリウス様にしても、自身の胸の大きさについては気にしていないと思っていたのですが……どうやら、コンプレックスを隠されていたようですね……。
『……申し訳ございません……』
……ダメージコントロールは速やかに、そして、確実に行うべきものです。
何のためのダメコンか?
もちろん、上司の私に対する評価を、可能な限り下げないようにするためのものです。
……幸いなことに、テレサ様に対するダメコンは比較的簡単です。
それでは早速、実践したいと思います。
『……ワルツ様のブロマイドを2枚追加で……』
『……うむ。許すのじゃ!』
ガシッ!
そして手を握り合う私とテレサ様。
……正直、ちょろいですね。
ちなみに、シリウス様の方も比較的簡単です。
辛いお菓子を渡せば、どんな最悪の機嫌であっても、一瞬で最高の機嫌まで持ち直しますからね。
ただ、その辛さが足りなかった場合、逆に機嫌を悪くすることがある点だけは注意が必要です。
加熱したヘルチェリー並の辛さ(100,000スコヴィル)程度なら、まず間違いなく問題ないかと。
それはそうと、ダメコンはまだ続きます。
『ところでテレサ様……』
と、話題を変える私。
いつまでも同じ話題の会話を続けると、要求が追加されたり、マイナスな思考が残ってしまったりと、あまりいいことはありませんからね。
ポンポンと、テンポよく次の話題に切り替えていきます。
『どうしてこんな貧s……えっと、食事を節制されているんですか?』
おっといけませんね……。
もう少しで、『貧相』という言葉を使うところでした。
テレサ様も、シリウス様も、どういうわけか妙にこの単語に敏感なんですよ。
一体、何に反応しているのかは分かりませんが、発言には注意が必要です。
『実はのう……旅に出るためのお金を貯めておるのじゃ』
『……旅……?』
……テレサ様方が……旅?
一体、どこへ、何をしに行くというのでしょうか?
というよりも、旅にお金をかける……というのは、どういうことなのでしょう?
テレサ様の家主様や、あるいはワルツ様に頼めば、いつでもどこでも短時間で移動できると思うのですが、それではダメなのでしょうか?
私がそんな疑問を抱いていると、シリウス様が食事を終えたことを確認してから、テレサ様はマスクを外して話し始めました。
「うむ。この世界にある色々な乗り物に乗って、様々な景色を見に行こうということになってのう?そのための資金捻出をしておるところなのじゃ!」
と、どこか嬉しそうに話されるテレサ様。
余程、楽しみにされているようですね。
おっと。
テレサ様がマスクを外されたというのに、私が付けたままだと失礼に当たるので、私も見習います。
幸いなことに、室内の空気は、すでにオートスペルで浄化されたみたいです。
「あぁ……そういうことだったのですね。てっきり、家主さんやワルツ様が、移動料を請求し始めたのかと思いましたよ」
「いや、それは無いじゃろ」
「でも、ワルツ様は移動に食費がかかりますし、家主さんの方は燃料費がかかりますよね?まさか、お世話になるだけ、というわけにもいかないんじゃないですか?」
「うー……うむ……」
……私の言葉に、顔を曇らせて俯くテレサ様。
……これはまた失言をしてしまったようです。
私の場合だと、上司から世話になりっぱなしというのは、背筋が痒くなってくるので、お世話になることに対価を支払うことを前提に考えてしまうのですが……どうやらテレサ様とは少し考え方が違っていたようです。
「えっと……でも、テレサ様方は旅をするために節約をしてお金をためていらっしゃるようなので、それについては考えなくても良さそうですね」
という感じで、すかさずフォローします。
「……そうかのう?なら良いのじゃが……」
……どうにかダメコンには成功したようです。
全く、上司の機嫌を損ねないようにするというのも簡単ではありません。
それから、再び、食事を再開する私たち。
……でも正直、白いご飯と塩、それと匂いだけでは中々辛いものがあります。
せめて、汁物があれば……
……あれ?
そういえば……
「……テレサ様?」
「む、何じゃ?」もぐもぐ
「この骨を使って、スープなどは作られないのですか?」
「ぬ?骨からスープ……じゃと?」
あー、やっぱり、骨を使った料理の方法を知らなかったみたいですね。
というか、テレサ様が作る料理は、基本固形物が多いんですよ。
これまで見た中でスープ系の料理は……味噌汁以外に見たことはないですね。
「この猪の骨ですと、豚骨スープが作れると思うのですが……」
そんな私の言葉に反応したのは、大きなルシアちゃんのような風貌をした、狐耳の立派なアメ様でした。
「ふむ。豚骨スープ……とな?うわさに聞く、らーめんという料理に使うスープじゃったか?」
「はい、そうです。普通に作れば骨を数日煮込まなくてはなりませんが、圧力鍋を使えば、数時間ほどで十分食べれるレベルのスープになるかと」
倹約生活を送っていることを考えるなら、本来なら、数時間も鍋を火にかけるなど以ての外かも知れません。
しかし、ここには半無限に各種魔法が使えるルシアちゃんがいるので、光熱費については考えなくても良いんです。
なら、時間は掛かっても、材料費のかからない方法で料理を作ればいい……。
その手を逃すなんて、もったいないですよね。
「あと……別に猪、というか豚の骨じゃなくても良いんですよ?鶏の骨でも、魚の骨でも……。ただ、牛の骨はダメらしいですけどね」
『…………』
そんな私の言葉に、満腹状態でお腹を擦っているシリウス様を除いた3人が、驚いたような視線を向けてきました。
よほど、困窮された生活を送っていたんでしょうね……。
もしかすると、野菜などに関しても、買ってくるのではなく、山に入って山菜を採ってきているのかもしれません。
「う、うむ。早速、骨を煮こむのじゃ!ルシア嬢!」
「うん!えっと、圧力鍋、圧力鍋……」
「その前にまずはこの御飯を…………いや。ラップに包んで仕舞っておいて、あとでスープが出来てからゆっくりと食べることにしようかの。うむ、それが良いの」
と、骨を持って、ドタバタとキッチンへと行ってしまった3人。
……うん、計画通りですね。
もちろん、上司からの評価向上の計画、ですよ?
シリウス様に変わりまして、ここから私、ユリアがお送りいたします。
今回書かせて貰って思ったことは……シリウス様と私の喋り方が非常に近いことでしょうか。
少しだけ言い回しが異なるのですが、分かり難いかもしれませんね。
具体的に言うと、「〜なんですか?」と、砕けたような言い回しをするのが私で、「〜なのですか?」と口にされるのがシリウス様です。
ただ、その辺の違いについて説明を始めると、後輩ちゃんや新入りちゃんとの書き分けはどうするのか?という、混沌とした話になってくるので、収拾がつかなくなってくるんですけどね。
その内、機会があれば、その混沌とした会話を紹介させていただこうと思います。
……多分、すごく読み難いと思いますよ?




