第81歩 御意見無用
Fさんは23歳の頃から頻繁に怪我をするようになった。
転職した関係もあるが、やんちゃだった当時の自分を振り返る
『反省点が多い』と恥ずかしそうに語るFさんに私は、より親しみを持った。
新聞広告の募集に応募してFさんは肉屋さんに就職した。
肉屋といっても解体作業専門の工場だった。
道具はどれも扱いに注意が必要な危ないものばかりで
毎日、解体用の刃物を使用し手には細かい生傷が絶えなかった。
ある日、同僚が「やめろ」と言うのを聞かずに
『枝肉』と呼ばれる牛の半身をかついで重さに耐えられず押しつぶされ
肋骨を骨折して緊急入院することになった。
話を聞いていて、つい私は言ってしまった。
「なんだって、やんちゃなんですか、しょうがないなあー」
「いやー自分でも思うよ、しょうもないって」
こんな人そうそう居ない。
Fさんは緊急手術となって肺を圧迫している骨をワイヤーで
元に戻し絶対安静で入院、6人部屋に入った。
骨折の痛みに耐えながら薬も効いてきてFさんは眠りに就いた。
夜中Fさんは胸が苦しくなって目が覚めた。
何かが体に乗っているように重い。
目を開き寝ぼけまなこで確認すると
知らないおじさんが、ぐいと顔を近づけてのしかかっていた。
Fさんは『何この人?』どけてもらおうとしたが声が出ない。
その時
『なんだ生きてる人間じゃないのか』と気が付き
『いま骨折で痛いから勘弁してくれ』心の中で、やめるように頼んだ。
次に気が付くと朝になっていて、同じ部屋の人に夜中の出来事を言うと
「あー、それ昨日、亡くなったAさんだわ」
聞けば今Fさんの寝ているベッドは亡くなった人が居て間もなかった。
すぐ看護婦さんに苦情を入れて部屋を変えてもらった。
退院後26歳になったFさんは冬道で転倒、肩を脱臼し
再び入院した。
病室の窓から見える近所の工場に煙突があって
「ぼんやり煙突の煙を眺めていたら100メートル程の巨大な円盤が飛来してきて煙突横に浮かんでいたが一瞬で飛び去ったの見た」と、ついでに話してくれた。
この時の入院・通院は三ヶ月にも及び怪我の多い、この職場に限界を感じて退職することにした。




