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箱館・怪談散歩  作者: オブチアスマ


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第79歩 Fさん囲まれる

 Fさんが22歳の時まだ世の中に携帯電話は無かった。


お寿司屋さんを辞めて有名スーパーのレストランで働いていた。


肝試しで黒い男に怒られて以来、不思議な体験もなくなり

平和な日々を過ごしていた。

勤務時間も時々残業が多かったり忙しかったのもあり、はめを外して遊ぶということもなくなった。


 ある日、職場で怖い体験が話題になりFさんもその話に参加していると非番に職場の仲間と二人で肝試しに行くかということに、つい同意してしまった。

 

 Fさんは、ずいぶん前に突撃したものの、ろくに肝を試す事もなく、

その場所の空気の重さに怖気づいて逃げ出したことがある

曰(いわ)くつきの墓地に同僚と二人で向かった。


 時刻は夜7時頃、街から車で30分ほど走ったところに山があり

その山の中腹に目的の墓地がある。

墓地は敷地の半分が古い土葬のままで、もう半分が火葬された墓だと

聞いていた。


 その夜は、あいにく雨が降っていたが時間も早く

『夜七時に幽霊?大丈夫だろう・・・』

Fさんは、ちょっと覗く程度のつもりで墓地に向かった。


山道を車で登る。


周囲には草木が生い茂り街灯もなく暗い山道だ。


ほどなく目的の墓地についた。


雨の日だというのに墓地の墓にロウソクの火が灯っていた。


「うおっロウソクついてる」

同僚は何も言わずに黙って前を向いている。

かなりビビっている様子だ。


同僚でなくともFさんは、その墓地の異様さを誰よりも知っている。


山の中で電灯もなく苔むした手入れのされてない無数の墓石。


雨が余計に不気味さを増していた。


「あのさあ、これだけ雨降っててロウソクが何本も灯(つ)いてるって、あるのかなあ普通」

同僚が独り言のように言う。


車を墓地の敷地内に止めた時Fさんはもっとビビらせようと、

わざとライトを消し車のエンジンを切った。

―ブルル・・・・

強い雨音が聞こえる。


それ以外は思った以上に静かでロウソクの灯りが、ぼんやりと墓地を浮き上がらせている。


「もう帰ろうよ」

同僚が言うと続いて

「あれっ」と声を上げた。


Fさんも周囲を見ていると前方の墓石が横にス(・)ー(・)と(・)移(・)動(・)した。

『え?』

そんなことは物理的に絶対ありえない・・・はずだ・・・


同僚が後ろを向き叫んだ。

「おいっ、うしろっ」

Fさんも後ろを向くと、いつの間にか墓石が道を塞ぐように、

ぎっしり並んでいる。


しかも所々ロウソクの火が見える。

反動で前を見ると

―スーッ

墓石が次々に移動して、やがて車を取り囲んだ。


Fさんは、とにかく逃げようと思いエンジンのキーをひねったがウンともスンとも言わずエンジンが掛からない。


ひしめき合う墓石に八方を塞がれてエンジンも掛からず

逃げることができなくなってしまった。


「おい、どうすんだよ、これ」

「どうするたって・・・・」

「お前が連れてきたんだろう、なんとかできねぇのか、お前が悪いんだからな」

「行きたいって言ったの、お前じゃないか」

未熟な若者同士、特に男の22歳なんて、まだ子供だ。


すると

『やれっ、やれっ』と言わんばかりに

―ゴツ、ゴツ

墓石同士がぶつかる音が聞こえた。

「なんだよこれぇ・・・」

同僚は目の前の光景に恐怖した。


「とにかく謝ろ、二人で謝るしかないっ」


Fさんは念仏やら、お題目やら拝みながら


「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り同僚も

「ごめんなさーい、すいませんでしたあー」

と二人共、必死になって手を合わせ謝った。


 雨は降り続きロウソクに照らされ、ひしめき合う無数の墓石。

 

Fさんは謝りながらも、こんな事があるのかと

周囲の墓を、まじまじと見ていた。


暗い山中で大小さまざまな、ひしめき合う墓石。

雨の降る中ぼんやりと灯るロウソク。

墓石が生きていて呼吸でもしていそうな存在感。


暗闇からか幽霊が出てきそうで怖い…


 30分経ってもエンジンはかからず墓に囲まれたままであった。


「ごめなさぁーい!」Fさんは人生の中で一番必死に謝った。


気が付くと、お経でも読むように

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返していた。


同僚は疲れきって手を合わせたまま茫然としている。


するとロウソクの火が


―フッ


一斉に消えて周囲が真っ暗闇になり同時に墓石が後ろに下がりだした気配がする。


―ギュンギュン、ブゥウウン・・・・ 

 車のキーを回していないのに勝手にエンジンが掛かってラジオが鳴り出した。


「うわぁーっ!!」


びっくりしたもののFさんは車のギアをバックに入れ慌てて山を降りた。


時計は21時になろうとしており一時間も墓地に閉じ込められていた。

 

そのせいなのか翌日から同僚は職場に来なくなってしまい、それ以来、二度と会うことも無くなった。


 何年も経った今でも、あの横に「スーッ」と移動する墓を夢で見るのだという。

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