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箱館・怪談散歩  作者: オブチアスマ


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第35歩 初めての紅茶

 私が小学五年の時クラスメイトのA君と帰り道が同じで、いつも一緒に下校していた。


その道沿いには蓋も何もない排水溝があり生活排水が流れていた。

 

 ある日、下校時A君と歩いていると排水溝の脇に何かが落ちている。

近づいてみると大きさ30センチ程の藁人形(わらにんぎょう)だった。


所々縛ってあり頭や手足も綺麗な切り口で揃(そろ)えられた大の字型の本格的な物だということは子供が見ても明らかだった。


「うわあー気持ち悪りぃ」私が言うと


「なあに、こんな物っ」A君は人形を手に取り


―べっべっと唾を吐きかけ地面に叩きつけると足で、ぐしゃぐしゃ踏みつけた。


私は

「やめれ、やめれっ」と言った。


「あ、れ」急にA君はペタンと地面に座り込んだ。


「なにやってんの?」聞くと


「力が入らない立てない、あれ、あれっ」座ったまま両腕を地面につっぱって立ち上がろうとするが立てない。


「立てない助けて・・・」


それを見ていた私は、ふざけているのだと思い

「自分で立て」と言うと


「ホントに力が入らない立てないんだよ!」目が点になっている。


地面にはA君に踏まれた藁人形が転がっている。


「あーあー、しょうがねぇなぁー…」


私は両手でA君を抱き起こし、おんぶして自分のランドセルを引きずりながら彼の家に向かった。


 A君の家に着くと玄関でA君のお母さんを呼んだ。


「おばさーん、おばさーん、A君が歩けなくなった」


友人は俯(うつむ)き玄関に座り込んでいる。


「どうしたのっ!?」

奥から出てきたA君のお母さんに、いきさつを説明して私は帰った。


 翌朝、通学時に昨日の藁人形を探したが、どこにも見当たらなかった。


学校に行くと教室にはA君が来ていて無事な様子だった。

あれからどうしたのかA君に聞いたが


「聞くな」という。


 その日の帰り道A君が

「家に寄っていけ」というので、お邪魔した。


いつも同じ服と穴の空いたズボンを履いていた汚い小学生の私だったので正直、彼のお母さんには嫌われていたと思うのだが、

その日は『ニコニコ』お愛想して下さりテーブルにはケーキが置かれた。


「食べて良い」と言う。


よその家で少しでも、ご馳走になると私の母親は

「乞食みたいな真似をするな」とヒステリーを起こし

怒鳴り散らすので遠慮したら


「誰にも言わなければ良いから食べなさい」と言う。


「昨日は、ありがとうね」


小学五年生にして私は生まれて初めて

苺ショートケーキと紅茶という飲み物を食した。


 

 後日、近くの官舎に住んでいる同級生が、こんな話をしてくれた。


近所の公園で遊んでいたら、すぐそばの木に藁人形が打ち付けられているのを見つけたそうだ。


それは数体あって人形には髪の毛と写真と住所・名前が書かれて

『死ね』と書かれた紙が釘で打ち付けられていたそうだ。


 人形の詳細を聞いてみると私とA君が見つけたものと同じような感じだった。


まぁそういうのは公園の木じゃダメなような気もするが

同級生が腰を抜かしてしまったのも

私が紅茶・ケーキをごちそうになったのも事実だ。

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