第34歩 穴場
Hさんの趣味は釣りで主に気楽な岸壁釣りが好きだった。
何かあれば近くのコンビニに行くことも出来るし
天候が悪くなっても直ぐ引き上げることが出来る。
街は三方を海に囲まれた地域で東西に岸壁がたくさんある。
すると友人が最近、知人に穴場を聞いたという。
「チカやイワシも釣れるが、そこから投げるとカレイも釣れる」という。
「そこ、いいじゃないか行こ行こ」
夜中は大した事ないが夜明けからが勝負だという。
釣り場に到着すると道具を持って岸壁に向かった。
辺りは港で所々照明があり風も強くなく申し分ない静かな場所だった。
しばらく様子を見たがイマイチ反応が無い、ふと奥の方を見ると先の岸壁に五人程の人影がある。
「おい穴場あっちじゃないか、ちょっと聞いてこいよ」とHさんが友人に促すと
「そうだな、ちょっと聞いてくるわ」
友人は岸壁の先端にいる人影に向かって歩いた。
Hさんは、のんびりタバコをくゆらせて海を眺めていた。
『ハタ』と我に返り
『友人は?』と岸壁の先を見ると人影はなく友人の姿もない。
「おや?」
心配になったHさんが小走りに向かうと友人は岸壁の地べたに、あぐらをかいて座っている。
「あー、あーあ、はいはい、なるほどー」独り言を言っている。
先ほどHさんが見た人影はどこにもいない。
「おい、あの人たちは?」
Hさんは座っている友人に聞いてみたが要領を得ない。
「海にね、酒やら餅やら投げ入れいないと釣れないんだってぇー」
明らかに友人の様子が、おかしい。
誰もいない方向に向かって話しかけたりしている。
友人の目は据わっていて無表情だ。
Hさんは気味が悪くなってきた。
「おい誰と話してんだよ、いいから来い」
友人を抱えるように連れて大急ぎで道具を車に積み友人を家に送り返した。
朝になると友人の奥さんからHさんに連絡が入り主人の様子がおかしいので直ぐ来て欲しいという事だった。
友人は水をがぶ飲みしたり生米をボリボリ食べていた。
『なんてこった・・・』
Hさんは思いつきで塩を友人に振りかけると
「パタン」と横になり眠ってしまった。
友人は眠ったまま、仕事を休んだ。
その後、友人は時折ぼーっとするものの、こまめに奥さんが塩を振っているうちに三日ほどで正気に戻った。
「あの夜、確かに人影は見たんだけど暗いはずの岸壁に黒い影がハッキリ見えたのは、やっぱり変ですよねぇ・・・」
その後ふたりは夜釣りをやめ昼だけの釣り専門になった。
友人には、いろいろ聞いてみたが、その夜の事と、
この数日は、あいまいで、ほとんど憶えていなかった。




