カルケーストの街で
ライラリッジとアインラスクを結ぶマハダビリア街道は、レガルディアで最も往来の激しい街道だ。そのぶん軍の魔法戦士の警備も厳重である。街道筋には魔法戦士の詰所がいくつもある。平時は普通に警備をしているだけだが、何かあったら検問をするそうだ。もちろん、その時にはかなりピリピリしている。
今日は何もないので平和…と言いたいところだが、すれ違う魔法戦士は誰もが緊張感を漂わせている。もしかしたら…いや間違いなく俺達のせいだ。普段はまったく意識していないが、ユリーシャはレガルディアのお姫様なのだ。ピリピリするのも仕方がないか。
そのおかげかどうかは分からないが、カルケーストへの道中は拍子抜けするほどに何もなかった。アマユキにばかり仕事をさせる訳にもいかないと思い、俺も不可視の錫杖を飛ばして周囲の警戒をしていたのだが、そんな必要はまったくなかったな。
無事にカルケーストに到着すると、俺達の到着を今か今かと心待ちにしていた町長が温かく出迎えてくれた。その後は町長宅で会食である。
会食か…慣れてはきたが、どうも苦手なんだよな。などと思っていたら、カルケーストの貴族も参加するこの会食には、俺達全員の席を用意できなかったようだ。ユリーシャとカレン、それからティアリスの3人が来賓として招かれ、残りの3人はしばらくお役御免である。
今日はついてるぜ。街中の食堂で適当に昼食をとり、その後は会食が終わるまでカルケーストの街の散策でもすることにしよう。
カルケーストはそれほど大きな街ではないから、そんなに見所がある訳でもない。そんな中で目を引いたのが、中央広場に建てられた銅像だ。どっしりとした台座の上に立つ立派な銅像は、静かな威厳を漂わせている。誰の銅像なんだ?
「ザカリヤ・エステルマギ…」
別に意識していた訳ではないが、俺は台座に取り付けられた銘板の名を声に出して読んでしまった。
「ショウ君もザカリヤさんのことが気になりますかぁ?」
振り返るとそこには目をキラキラさせたフェリシアさんと、今にも「あ~ぁ…」と言い出しそうなアマユキがいた。
どうやらザカリヤ関連のことは、フェリシアさんのスイッチを入れてしまうようだ。そういうところはユリーシャと似ているね…そのユリーシャ達の会食がいつ終わるのかはよく分からない。でも、すぐに終わりそうな感じはしない。ザカリヤのことはまったく知らない訳ではないが、後学のために話を聞いてもいいだろう。
「どんな人だったんだ?」
俺がフェリシアさんに尋ねると、ジト目のアマユキを尻目に、フェリシアさんは嬉しそうにザカリヤ・エステルマギの話を始めてくれた。
「ザカリヤさんは300年ほど前のアインラスクの市長だった人ですよ。市長になる前はカルケーストで町長をやっていました。良くも悪くもいろいろあった人なのです」
いろいろあったのは間違いない。そこんところを詳しく頼むぜ。
「そんなザカリヤさんはウォルライエの村で生まれ育ちました。ウォルライエの村はここからだと歩いて5時間くらいですね。ちょっと遠いけど、村にはザカリヤさんの生家が残っていますよ」
今日は無理だが、時間がある時に行ってみるのもいいかもね。
「子供の頃はヒツジやヤギを上手に使って、雑草の除草をする仕事をして家計を助けていたそうです」
「親孝行な人だったんだな…」
子供の頃に家計を助けるなんて、考えたこともなかった。
「ザカリヤさんは子供の頃からデキる子だったんです。それから仕事と言ってもそんなにキツくはないから、仕事をしながら勉強もしていたみたいですね」
二宮金次郎かよ…たいしたもんだぜ。
「私も子供の頃、イノシシを捕まえてたよ。みんな喜んでくれたよ」
アマユキも子供の頃から凄かったんだな…。
「アマユキは嫌々やってただけですよ~。お母さんがフォンラディアの人だから、厳しかったのです」
本当のことをばらされ、アマユキは仏頂面である。仲がいいのは良いことだ。
「大人になったザカリヤさんは、レガルディアの文官になります。優秀な人だったので、とんとん拍子で出世していったみたいですね」
「私もすんなり一位武官になったよ」
アマユキはなんとしてもフェリシアさんの邪魔がしたいみたいだ。
「さすがだな…」
「そして、ザカリヤさんはカルケーストの町長に任命されたのです」
フェリシアさんはまったく意に介さない。こちらもさすがである。
「ザカリヤさんが町長になってからカルケーストは大きく生まれ変わりました」
いよいよだな。




