焦りは禁物
翌日は二手に分かれて行動することになった。俺とアマユキ、フェリシアさんは昨日と同じくアインラスクの街をウロチョロだ。
ユリーシャはナターリアさんから借りた資料に目を通す。ちょっとした辞書のような資料だけに、ユリーシャだけでは埒が明かないので、カレンとティアリスが手伝い兼護衛だ。
あの資料から次に狙われるのは誰か…それが分かる可能性はあるが、ファゼルが最後のターゲットだった可能性もある。その場合は事件の解決はかなり難しくなるな。
今日も歩いて歩いて歩き回り、何の成果もなかった。ゲオルク達も特に何もなしだ。その代わりと言ってはなんだが、ファゼルの奥さんに話を聞ける段取りはついた。明日の昼過ぎだ。
ユリーシャ達も資料からこれといった手がかりを見つけ出すことはできなかった。何人かの子孫や一族の末裔を発見し、ルアンザラーン商連合の方で雇うことになった事例はあったものの、その際の出自の証明でお守りの話はまったくなかった。
密かに、それでも大掛かりに調べていたようだが、情報の精査も甘かったようで、ガセネタを掴まされることも多々あったようだ。こちらも空振りか…。
「こうなってくると、明日のファゼルの奥さんのお話が重要になってきますね…」
ユリーシャの表情は曇り勝ちだ。
「きっと…何か知ってますよ」
カレンがユリーシャを励ますが…そこには何の根拠もない。
「あのお守りの意味が分かればいいんだけどねぇ…」
そこなんだよな。アマユキの言う通りで、それが分かればこの事件の首謀者の目的も分かりそうだが…。
「ファゼルさんは…ザカリヤさんの…」
フェリシアさんは今日も夢見る人だ。人の趣味嗜好にケチをつけるつもりはないが、マジでいい加減にしてほしい。
「こういう時こそ美味しいものを食べて前向きになるでし!」
そうだな。このままだと気が滅入ってしまう。
「そろそろ夕飯にしようぜ!」
どこかに食べに行くか?俺はノープランだけど…。
「それなら問題ない。そろそろ来るはずだ」
時計を見ながらカレンが不可解なことを言った。誰か来るのか?とカレンに尋ねようとした時だった。
コンコン
絶妙なタイミングで、真鍮のドアノッカーを鳴らす音が響いた。この民家のドアノッカーには、訪れた人に合わせて音が変わる機能なんてない。それはちゃんと理解している。それでも事務的で、ある種の自信を感じさせる音を聞くと、そういう機能があるんじゃないかと疑ってしまう。出ようとした俺を制して、カレンが応対した。
話し声を聞くに、どうもケータリングを頼んでいたようだ。気配り名人の本領発揮ですね。そんな訳で今日の夕飯は『訪問調理ロイテエッセン』にお任せである。
カレンが認めただけあって、『ロイテエッセン』の料理は一級品だった。お皿にもなるフライパンに盛り付けられたハンバーグと、そのハンバーグに負けず劣らずの存在感を放つ色とりどりの野菜達。フライパンをお皿にしているだけあってグツグツ言ってるぜ!いやあ…コイツは旨そうだ。
メインのハンバーグを割ると…出てきた出てきた肉汁が!ジュワーって!この肉汁、堪りませんな。ひき肉の醍醐味が感じられます。色とりどりの野菜軍団もほくほくしていて実に美味しい。ご飯が進みますね。
それから、冬野菜をたっぷり使ったクリームシチューも忘れてはならない。野菜の甘みが溶けこんだクリーミーなシチューは、文句なしに美味しい。デザートのリンゴとみかんをふんだんに使ったフルーツタルトも逸品だ。まさに食いしん坊万歳である!
美味しいものを食べて英気を養ったら、みんなで遊べるカードゲームでワイワイ盛り上がろう。どんなものをやるのかと思いきや、トランプのババ抜きのようなゲームみたいだ。これならルールが分かりやすくていいね。
要は手持ちのカードがゼロになったら上がりだ。勝つためにあの手この手を使って引かせたいカードを引かせようとするのは、単純だけど面白い。こんなにも飽きずに遊べるとは思わなかったな。
よく食べて、よく遊び、そしてよく寝る。焦っても仕方がない…心と体を気遣うことが困難に立ち向かう唯一の方法なんだ。




