062-学級委員、小林凛の思い
その頃、迷宮にて。
四層を通過した一行は、五層手前で野営していた。
迷宮攻略はこれで二度目だが、流石に野営慣れした一行は羽を休めていた。
中島が〈炎王〉のスキルで短時間だけ火を熾したので、各員のマグにはまだ温かいスープが注がれていた。
「........」
その中でも輪から少し外れた位置にいた小林凛。
彼女は、疲れから聞き専と化しており、時折マグの中身を飲む機械となっていた。
「しっかし、疲れたな」
「休めよ、見ててやるから」
「わかってるよ」
凛はその光景を見て、何かが足りないと感じた。
それは、クラスの中心人物の不足だ。
だが仕方ない事だ、彼等は今王都へ向かっていて、置き去りになった自分たちはただ待遇を受けることをよしとせず、迷宮攻略の為にここまで来たのだから。
「それにしても、私達っていつまでこうなんだろう?」
「いつまで? 魔王ってやつを倒すまでだろ」
「そうだけどさ、何年くらいとか」
「内田なら一年も待たせないさ」
「確かに、湊君ならね」
メンバーたちからの信頼は厚い。
内田湊はバスケ部所属で、実質エースだから、というのもあるだろう。
少なくともクラスの中ではトップクラスに運動能力に優れている。
「それに、ナイス判断だったよね。あいつがいたら....」
「ああ、まあな」
話題は別の人物へとシフトする。
クラスの中では、死してなお悪いイメージを持たれ、責任を押し付ける対象とされている男。
だが、凛は。
「....やめて!」
「こ、小林?」
「死んだ人が言い返せないからって、好き勝手言うのは違うでしょ」
立ち上がって制止した。
その勢いで、靴がマグを蹴飛ばして中の液体が零れる。
「あ、ああ......ゴメン」
「それに私、ちょっと後悔してる。彼にもう少し寄り添って上げれたらって」
「コイバナ? それってコイバナ?」
「好きだったのか? あんなヤツ?」
すぐに恋愛に結び付ける馬鹿を見て、凛は深い溜息を吐く。
そして、ある事ない事を考察し出す中島らを無視してマグを拾う。
零れた中身は、岩の地面を滑って砂の間に染み込んでいた。
覆水盆に返らず、もはや取り返す事は出来ないのだ。
「(私が真面目に取り合わなかったから...)」
凛は心の内で懺悔する。
彼女は昔、佐藤春樹へのイジリが限度を超えていると思い、個別に相談したことがあった。
だが、クラスで直接佐藤春樹に聞けば、
「ああ....大丈夫。..........................................いじめじゃないから」
と答え、内田と柏木に同じことを聞けば、
「真面目過ぎるって、ただのイジリだから」
「馴染みたがってるから、俺たちで輪の中に入れてやってんの」
という答えが返ってきた。
彼女自身も、二人を疑う事は一切しなかった。
彼女の中では、二人のイメージは中学の頃から変わらず、気配り上手でクラスの中心にいて、男女ともに人気が高いといった風だった。
そして、何より残酷だが――――
二人を疑わない以上、この件に深入りする義理を彼女は持たなかった。
学級委員長としてはクラスに協調しない存在を見過ごせないが、女としては佐藤春樹が発する拒絶の意思を読み取っていた。
長い沈黙の中には、彼なりの拒絶と対話の拒否が込められていた。
そう直感したのだ。
「(もう少し彼に取り合っていれば、少しは馴染める手伝いが出来たかもしれない)」
中らずと雖も遠からず。
そんな考えを浮かべながら、凜は次の戦いに備えて目を閉じた。
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




