031-シーアルーン
シーアルーンは、王都から見て西部に位置する都市である。
さらに西部に位置する迷宮から来る魔物を、王都に通さないためにという意味合いもある。
シーアルーンのすぐ東を流れる大河に阻まれているとはいえ、本格的な魔物の侵攻が発生すれば王都へは魔物が来る。
東部に位置するもう一つの都市は攻城戦に備えた作りではないため、三十年ほど前に急遽建造されたのがシーアルーンという都市であった。
「はぁ...サイアク」
その都市のメインストリートを、一人の女が歩いていた。
白石七海である。
勇者として、歓迎を受けた後で、他の仲間はこの都市にはいない。
「最悪、ですか? とても栄誉ある事と聞いていますが」
「最悪よ、置いてけぼりだもの」
不満を隠そうともしない七海に、付き添いの騎士が尋ねるものの一蹴される。
七海は佐藤を助けた事を些細な会話から見抜かれ、カースト上位の女子たちによって王都行きをハブになったのである。
そして、シーアルーンの防衛として一人欲しいという話がちょうど出ていたため、イォルドの判断によって都合よく置き去りになったのだ。
「そうですか...詳しい事情はお聞きしません、どうかこの都市をお守りください」
「言われなくてもそうするって」
七海のスキルも、都市防衛であればちょうど良いものである。
彼女自身も納得はしていないが、適材適所であることは理解していた。
この国はいくつもの脅威に直面していて、その中でも最重要なのが魔王軍の侵略であり、自分たちはそれに対抗するために召喚された。
全体的に軽視されていたハルキは聞いていなかったが、七海は聞いていた事だ。
「都市長が湯浴みのできる宿をご準備させていますので、ご案内します」
「分かってる...ありがとう」
騎士の後を、彼女は追った。
もう何週間も身綺麗にできていない勇者チームの中で、王都に旅立った面々に先立って湯浴みができる事は、七海にとって少し嬉しい事でもあっただろう。
「勇者様らが迷宮を攻略していただいたおかげで、根本は断てました。魔物は一度集結してからここへ来るでしょうから、一週間程度はお休み頂けるかと」
「そっ」
興味なさげに七海は返した。
彼女はこの世界に興味はないし、戦闘にも関心はない。
終わらせられるなら、さっさと終えて帰りたいのだ。
だが、彼等は。
この世界の人間にとってはそうではない。
様々なスキルを持ちながら、一人につき一つというルールが変わりないというのにもかかわらず、それらは勇者ほど強力ではない。
魔王を退けた後も、ずっと居てほしい。
それが切なる願いであった。
しかし、勇者の中に...その願いを叶えてくれる者が誰一人いないということを、今は誰も知らない。
そしてまた、七海も知らなかった。
自分たちが攻略した迷宮で、何の芽が育ち、どのような悪意の花を咲かせるか。
咲いた花がどんな実を結ぶのか。
「いい宿じゃん」
「では、おやすみなさいませ」
何も知らない彼女は、安堵の心と共に宿へと入って行った。
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