001-因果応報
新連載です。
よろしくお願いします。
...人を恨んだことはあるだろうか。
ある?
そうだろうな。
じゃあ、人を憎んだことは?
ない人もいる、だけど大抵のやつは首肯するだろう。
大した質問じゃない。
もう一度、質問を挟もう。
人を殺したいと思ったことはあるか?
無いだろうな。
だって俺たちは「善良」で「普通」の「日本人」なんだから。
海外はいざ知れず、誰かを本気で殺そうと思ったことなんか、無いだろう?
なら、殺したいほど憎んだことはあるか?
こっちはきっと、掃いて捨てるほどいるだろうな。
俺たちは常に厄介ごとを避けて生きていく。
ただ、避けて生きていけない人生もあるというだけで。
「あ?」
「いや、ほら。仲良くなりたくて」
高校一年。
俺に対人経験値が致命的にないと悟ると同時に、井の中の蛙だったと思い知らされる事になった年。
「何だそれ」
「おもろ」
ただ、中学のノリで話しかけた俺を待っていたのは、嘲笑だった。
それに深く傷ついた俺は、誰しもが選ぶ手段を選んだ。
いや、違う。
選ばなかった。
選ぶことを恐れて、誰とも関わらない事を選んだ。
しかし、それで解決するほど、皆が大人になりつつある高校生活は甘くなかった。
「痛い! やめて!」
「ぎゃははは!」
元々過激なスキンシップをよくしていたクラスの人気者たちは、それを俺にもイジリの一環として行うようになった。
金玉を蹴られそうになった事もよくある。
更には、
「何するんだ!」
「暑いだろ? 涼しくしてやったんだよ」
イジメが始まった。
といっても、分かりやすいイジメを彼等がするわけもない。
何故なら、奴らは俺をイジメている自覚は無い。
どこまで行っても、イジリの延長線であるという自認なのだから。
トイレで制汗スプレーを浴びせかけられたり、授業で盗撮をSNSに上げられたり。
俺の他にももう一人イジリの対象になっていた人物がいたが、今にして思えば彼は上手く立ち回っていたんだと感じていた。
俺は何も選ばずに逃げた。
だから、イジメられた。
イジメだと言えばいい、誰かに相談すればいい、逃げる事も自由だ。
そんなキレイゴトを言えるのは、やはり本当に苦しい立場に立ったことのない人間だけなんだ。
「注意してみる」
俺なんか眼中になく、クラスの雰囲気重視の担任はそうとだけ言い、そして何も変わらなかった。
「せっかく受かった高校なのよ、我慢しなさい」
「経歴に傷がつく、安易な考えで中退なんてやめろ」
親もそう言った。
彼等の目に、俺はどんなふうに映ったんだろうな?
お前たちも昔はそうだったかもしれないのに、昔の自分は美化されて強く映っている。
だから、俺も同じように強くて乗り越えられる。
そんなふうに思ったのか?
「お、何書いてるんだ?」
「あ...小説だよ」
そんなとき。
イジメも無くなってきたな、と思っていた時期があった。
俺は何だかんだ、人の善性を信じたい人間だったと、後からは思う。
自分の書いてる小説のリンクを、よりにもよってイジメの中心人物ではないからと、他人に見せてしまうなんて。
その結果は。
『この小説を書いている人:佐藤春樹 東京都 西島高校 17歳』
『フイッターへのリンク上げてまーす 作者の顔写真』
『つまんねえ小説書くのやめて授業に集中してくださーい』
晒し。
暴言。
何度消しても行われるそれに辟易して、俺は小説アカウントを消した。
その事でいじられ続けたが、構わなかった。
要らないんだ、小説なんて。
こんな奴らに穢された創作なんて。
――――いや、本当は怒っていた。
憎んでいた。
恨んでいた。
殺したいほど憎んでいた。
殺す妄想で胸が躍るほどに。
でも、俺はどこまでも人間だった。
「模範的な学生」に縛られた。
それが降伏だったのかは、結局分からない。
それが幸福だったとは、今は思っていない。
「(まあ、どうだっていい事だ)」
くだらない回想に付き合ってくれてありがとう。
俺はこれから死ぬ。
唐突だろうが、人生なんてそんなものだ。
走馬灯の前借りみたいなものだ。
そう、割り切れるほどメンタル強くも無いが。
選ばなかった俺に選択肢はない。
「――――〈堕落〉」
俺の体は化け物共に消費されようとしている。
ここは異世界で、俺は特別な力を貰っていた。
それでも俺は、選ばなかった。
きっとそのツケを今、支払うんだろうな。
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