Ep.2「理解する話」
素人文章注意。
後半から激しいグロ描写がありますので苦手は方はブラウザバック推奨。
「契約者さん。ありがとうございます」
なんで...あんなクズ男ムーブが通るんだ...?
いやもう過ぎたことはどうでもいい。早く忘れないと俺が持たない...
彼女のおかげ...と言ったら最低だけど、少し頭を冷やせた。 彼女も落ち着いたようだし、色々話をしてみよう。
「あの...」
「なんですか?契約者さん」
「その、なんで俺を『契約者』って呼ぶんですか?」
今1番気になることはそこだ。契約もなにも、俺は全く身に覚えがない。契約書にサインした覚えもない。
「それは...契約者さんは、私の契約者さんですから」
彼女はこちらを微笑み、そう返す。
うーん。可愛い。目の前の天使さんはどうして俺みたいなクズにこんな笑みを見せてくれるのだろう。
...っと危ない。ついつい流されてしまうところだった。何も情報はないが...ひとまず、彼女と何かしらの、『契約』を結んでいるんだろう。身に覚えがないが...意識がない状態での契約は無効になるんじゃなかったっけ...
「じ、じゃぁ...あなたの名前はなんですか?」
これはするかどうか迷った。
さっきの会話?で「私は...誰なんでしょうか?」ちっていたからあまり期待はしてないが...
「......」
「あの、どうかしましたか...?」
さっきまで優しい微笑みを絶やさなかった彼女から笑みが消え、何か事務的とも言える真顔に変わった。やばい、何か地雷を踏んだか…?
「…メイス…」
「メイス…それはあなたの名前ですか?」
「...多分?」
「多分て...」
彼女...メイスさんはポカンとした表情を浮かべている。
不思議な人だ。姿格好はすごいが、礼儀正しいし、背筋もピンと伸びて、ぴっちりとした風格っていうのが素人目で見てもわかる。でも、どこか抜けていて、心がガラス細工みたいに繊細だ。
...オタク脳を発揮してんじゃないよキモイなぁ...
「えぇと...メイスさんはここがどこだか分かりますか?」
「...ごめんなさい。わからないです...」
メイスさんはあたりを見渡し、わからないとわかるとしょんぼりとした顔をする。明らかにテンションが下がった。
うーん。なんだろうこの可愛い生物。マジでこれ夢じゃないよな。夢だったら許さないわ。
「あの、契約者さん」
「へゃ?あっはい...?」
やばい。話しかけられるとは思わなくて変な声が出てしまった...
「私の事、どう思いますか?」
な、なんだと...?どう、思うか...?これって選択を間違えるととても、非常に、大変にまずいんじゃ...!?
「え...えぇぇと...」
メイスさんを見れば、期待に満ちた目をしている。
何を求めている...メイスさんは何を求めているんだ...
「可愛いと...思います」
あーあ。言っちゃった。プレッシャーに弱くてすーぐ本心を口走るんだから。最ッ低。
「可愛い...可愛い...えへへ...」
「...」
えっこれが正解?マジで言ってる?女の人ってこんなにもちょろいもんなの?そんなバカな...
「えへえへえへへへ...」
あーだめだ。メイスさん微笑みどころか顔とろ〜っとしてる。表情筋柔らか過ぎじゃない?
やっぱ可愛いってメイスさん。なんだか小動物みたい。でかいけど。
「ガルル...」
「!?」
唸り声が聞こえ、後ろを振り向く。狼だ。それも7匹。美味そうな獲物を見つけたとばかりに涎を垂らしている。
いや、冷静に分析してる場合じゃない。あれはどう見たって俺らを食い殺す気だ。
「メ、メイスさん、早く逃げ―」
逃げよう。そう言おうとした時、メイスさんの顔を見た。
俺はその時、背筋が凍りついた。あんな顔をする人を直接この目で見ることになるなんて、想像もできなかった。
さっきまでの、慈愛満ちた微笑みも、子供のように泣きじゃくる姿も、嬉しそうに顔をニマニマしていたメイスさんとは全くの別人だった。
人殺しの顔。
前に本を読んだことがある。人を殺して、命を奪う楽しさを知ってしまった『異常者』の、邪悪な笑みを。
今にも、俺らのはらわたを食いたそうにしている狼と対峙したメイスさんの顔は、その、命を奪う楽しさを知ってしまった、『異常者』の笑みと一緒だった。
「...契約者さんを傷つける存在は―」
メイスさんは狼の元へ歩み寄っていく。狼達は、ご馳走が歩いてきたと興奮している。
メイスさんの手が黒く変色していく。黒の絵の具をぶちまけたように、指先から肘の辺りまで、真っ黒く。
やがて、指先から鋭く、鋭利な金属のようなものが波打つように表皮に現れていく。
「一切、その存在を認めません」
言い切ったメイスさんは、地面に右手を突っ込んだ。肘まで、深く突き刺さる。
同時に、我慢の限界に達した3匹の狼が一斉にメイスさんに襲いかかった。
「メイスさん!」
世界がスローモーションのように動きが遅く感じる。叫ぶ必要はなかった。なにも心配いらなかった。俺は、ただ腰を抜かして見ているだけだった。
メイスさんは狼に食われるよりも早く、右手を地面から抜く。手には柄が握られており、勢いよく引っ張り出す。
メイスさんの右手が掴んでいたものは、『メイス』だった。古代から中世にかけ、硬い鎧に対し恐ろしい効果を誇った、モーニングスターやハンマーと並ぶ、有名かつ代表的な打撃武器。
唯一、俺の記憶との相違点は、サイズ。
メイスさんの大きい身長と腕の長さを足しても余りあるほどの長さで、打撃する頭部は、メイスさんが余裕で隠れてしまうほどの大きさだった。
引き抜く際に生じた地面の破片を喰らい、先鋒の3匹は弾かれる。
「あはっ♡」
メイスさんはそれを見逃さず、凶悪な武器を振るう。
片手で巨大なメイスを軽々と振り回し、弾かれた3匹をまとめて攻撃する。
髪が揺れ、顔をよく見える角度になった時、俺は戦慄した。
目の前で、鈍い音と共に3匹の狼が一瞬でミンチになった光景を見て、メイスさんは笑っていた。
先ほどの優しさも、暖かさも感じない。冷徹で、命をなんとも思っていない表情。
「まずは3匹っ」
動揺した後の4匹は逃走を試みたが、メイスさんは圧倒的だった。跳躍したメイスさんは四メートルをゆうに超えるほど高く跳んだ。
「そりゃぁぁ!」
逃げようとした狼のうち一匹の脳天にメイスが突き刺さり、振動で他の狼も体制を崩す。抵抗しようと噛みつきにかかる2匹の狼を、メイスさんは素手で制する。
「いらっしゃいっ」
両手で二匹の頭を掴み、それぞれを激突させる。
頭蓋が破損し、脳髄が弾け、メイスさんは返り血を浴びる。
「最後の一匹♡」
残った狼は、恐怖で体がすくんだのか、一切動きを見せなかった。
「よいしょ」
メイスさんは狼の首根っこを掴み、軽々と持ち上げる。
狼はキャンキャン、と吠えるが、まるで意味をなしていない。
「うーん...」
メイスさんは左手で頭を持つと、力を込め頭と胴体を分けようと引っ張る。
魚の骨を抜くように、ぶちぶちと肉の繊維が千切れる音と、骨が折れる音を響かせ、狼を二つに分ける。
「ふぅ...契約者さん。怪我はありませんか?」
俺に向き直り、冷たい笑みではなく、優しい微笑みを向けるメイスさんは、二重人格であるのかと思うほどだった。
返り血に塗れ、酷い匂いを漂わせているメイスさんの事を、俺は一つだけ理解した。
メイスさんは、絶対に、確実に、人間じゃない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
メイスさんの由来は打撃武器のメイスです。イメージは某機動戦士のアレを想像していただければサイズ感を掴めると思います。




