その1 奇跡の参上
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第二話『奇跡は綺譚を紡ぎ出す!』
その1 奇跡の参上
teller:スズベル=エメラルダー
◆
ブリキハートを走らせ、マップを確認しつつ目的地へとスピードを上げていく。
第一の目的地は、大陸北部の荒野地帯。
詳細不明の巨大な戦闘反応が起きたらしき場所。
さくっと第一の問題を解決して、さっさと次の雪原地帯の問題も終わらせて、かわゆいかわゆい愛しのアリスちゃんを迎えに行く為にも、オレはブリキハートをますますかっ飛ばしていく。
『スズベルくん、やけに急いでるねー? そんなにあのアリスちゃんが心配?』
茶化すように、冥助のオッサンの通信が入る。
何を当たり前のこと言うんだか、とは思ったが、折角だから語り聞かせてやる。
「ったりめえよ。アリスちゃんはオレだけのフェアリー・メイドだぜ? オレを癒してくれる最強に可愛い天使! アリスちゃんの可愛いとこならオレ、三日三晩くらいは余裕で語れ――」
『目的地到着まで、推定残り30分。引き続き周囲を警戒しつつ前進してください』
「めんどくさくなる予感がしたからってわざとらしくナビの振りすんじゃねえよオッサン。野郎の声でナビされるよりは合成音声の方がマシだわ」
『あはは、ごめんて。声色もルビもなんもかんも鬱陶しかったからつい』
「その台詞は謝罪の体を成してねえんだよ」
『でもなんでそこまであの子にメロメロなの? そんなにああいう子好みだっけ? 入れ込むほど?』
「アリスちゃんはかわいい」
『あっ、ハイ』
「かわいい! 優しい!! たぶんオレに気がある!! パーフェクト!!」
『あっ、カスみてぇな理由だった……普段モテないからちょっと脈アリな反応見ただけで浮かれてやんの……』
「こき下ろすつもりなら聞くんじゃねえよ!!」
『ごめんて。安心しなよ、スズベルくんはまあまあいいやつだから。まあまあクソ野郎でもあるけど』
「一瞬で相殺させてんじゃねえ!!」
このオッサン、隙あらばオレをからかってこき下ろして吊し上げてくるから話してると気分わりい。
こういう時こそアリスちゃんのことを思い出せば……あ゛~~……そうそうそうそう、マジ可愛い、オレのことあーんなに慕ってますって顔で見てきて……ちまちま懸命な感じがして……かわいい~~~~……。
「はあ……オレのアリスちゃんほんとにかわいい……仮に、仮にだ。あの子がオレじゃない誰かとくっつくとしたら、オレよりイイ男じゃないと許さん……」
『……え……本当にその条件で大丈夫……? 当てはまる男、星の数ほどいるよ……?』
「遠回しにクソ野郎っつってる?」
『さっき直球でも言ったから、まあもう二回も三回も変わらんし良いかなって』
「なんもよかねえよ!!」
ああクソ、オッサンうるせえな。
もう一度、アリスちゃんの視線とか、声のトーンとか、仄かに色付いた頬を思い出す。
……うん、めっちゃ可愛い。最高に可愛い。
あの子、今のオレのことをかっこいいって目で見てくれたんだ。
オレの11年を、あの子は認めてくれた。
それだけで、オレは――。
『ん……?』
「あ? どした、オッサン?」
『キャロッタ村に、魔女の反応があったような……?』
「は!? んだそりゃ!? アリスちゃんが危ねえじゃねーか!?」
『……いや、今確認したら反応は無し。キャロッタ村からは魔女の反応が検出されない』
「……んだよ、マジで気のせいか? 珍しいな……」
『……うん、珍しい。俺いっつも色々張り巡らせてるから……魔女居た気がしたけど気のせい、はあんまりないんだけどなー……? っと、おや、着いたかな?』
アリスちゃんの為にも、もう少しキャロッタ村付近の魔女反応を洗ってもらおうと思ったが。
冥助のオッサンの『着いた』の言葉に反応し、オレは操縦桿を握る手に力を込め、前方を注視する。
機体を進める度に景色から緑が失われていることは実感していたが、もうすっかり大地は荒れ果て枯れ果てている。
無駄に広大な、荒野地帯にご到着ってわけだ。
戦闘反応があった割にはがらんとしていて、やけに静か――だと、思ったが。
視界が拓けていくにつれ、オレは息を呑んだ。
戦闘反応はあったが魔女の反応ではなかった、って話だったのに、だ。
少なくとも十体以上の魔女リカルカが、ごろごろと倒れていた。
とは言っても全て、弱点である角をズタズタにされている。
緩やかに消失を待つだけの、魔女たちの残骸がそこに転がっていた。
全ての魔女が地に伏した世界で、たった一人だけが立ち尽くしている。
そいつは、男だった。
歳はオレと近いかもしれない。
金髪碧眼。つり目の、ムカつくことにツラが良い、おまけに背が高い男。
どこかぼうっとした調子で、しかも手ぶらで立ち尽くしていた野郎が、ブリキハートの気配に気付いて振り向く。
そしてそいつは、ハッキリとオレを睨み上げた。
「その機体は【レディ】……貴様、WITTSの人間か?」
集音性能に優れたブリキハートが拾い上げた声と、それからやけに古風な物言いに、オレは眉を顰める。
『貴様』って。
どこの時代の人間だよ。
呆れる気持ちはあったけども、まず状況把握が先決だとして、その声に応える。
「……ああ。WITTSイース・トーヴ支部所属戦闘員・スズベル=エメラルダーだ。おいテメエ、一体ここで何が――」
「――見下げ果てたぞ、WITTSッ!!」
「……は!?」
金髪の、男は。
急にそう叫んで――生身のまま、高く高く跳躍し。
宙に浮いた状態のまんま、素手でブリキハートに殴りかかった。
「っ、な……!?」
ぐらり、とコックピットに衝撃が走る。
魔女に一撃を叩き込まれた時のような、強い揺れだった。
何の備えもしていなかった身体が、この揺れを機に一瞬で覚醒する。
姿勢をすぐさま整えて、片手で操縦桿を握り締める。
もう片手をコックピットの前方部分に広がったパネルに滑らせる。
今のパネル操作により生まれた緊急用バリアでブリキハートを覆ってから、ようやく全神経を研ぎ澄ます。
なんだ、今の。
人間が生身で、【レディ】の頭部くらい……5mを軽く跳んで、災いである魔女とだって渡り合えるレディの機体に、素手でダメージを与えて。
なんだよ、こいつ。何が起きてる?
相手を見極めようと、金髪のヤロウを見据えると。
そいつはまたもオレを強く睨んだ。
オレに狙いを定めて、敵意を向けて。
オレに怒りをぶつけるように、怒鳴った。
「何故だ!! 貴様がWITTSだと言うなら何故……何故、もっと早く此処に来なかった!!」
言うやいなや、ヤロウはブリキハートの脚部に飛び蹴りを入れる。
またも強い揺れがコックピットを襲ったが、緊急用バリアを張っておいたから脚部が破壊されるほどのダメージじゃない。
野郎の位置を確認し、野郎の生体反応に合わせてマップに追尾用マーカーを付けておく。
ついでに、ふと嫌な予感がしたからマップの探知機能も強化して。
対応を考えている間にも、金髪ヤロウは脚部を駆け上がるようにしてブリキハートの胴体を何発も何発も殴りつけていった。
確かにパワーは強い。あまり食らうと緊急用バリアだってもたないかもしれないレベル。
けど動きは単調だ。
まるで、ガキが癇癪起こしたような――。
「っ……好き勝手ボコスカ殴りやがって……!!テメエ、何モンだよ!!」
「ぼくは、みっともなく生き延びた愚者だ!! 生き残るべきは!! ぼくではなかった!! 貴様がもっと早く来れば!! 我が友の命は、手折られずに済んだ!!」
生き延びた?
手折られた?
命って――。
嫌な予感が走った頃、冥助のオッサンの珍しく真面目なトーンの声が通信機越しに響いた。
『……解析終了。スズベルくん、気をつけて。その子、人間じゃない』
「は……? 人間じゃないって……じゃあアイツ、なんなんだよ!?」
『同時に起きた強い砂嵐に妨害されて探知や解析がこんなに遅れたけど……約一日前、この地で魔女リカルカの大量発生が起きた。その場に居合わせた19歳の青年が一人、そしてモンスターが一体、エネルギーを欲した魔女たちが急遽作った器官……言わば、炉に呑み込まれている』
――モンスター。
魔女とは別に、生態系の一種としてこの世界【ナーサリフィア】に生息する存在。
人間に危害を加える個体が多く、意思疎通も難しい……が、場所によってはモンスターを飼い慣らす部族がいる。
生活の為にモンスターを狩猟の対象とする地方も多い。
完全な災いである魔女と比べたら、まだ人間の生活に近しい存在。だけどまあ、相入れるかは怪しい生き物。
嫌な予感が、強まる。
冥助のオッサンが、話を続けた。
『……半日前、青年の生体反応が消失。直後、モンスターが強いエネルギーを宿し……炉の中から魔女を一体破壊。その後、大量発生していた魔女を半日で潰滅させた。……そうして、今だ。モンスターの力の反応が強すぎて、魔女の反応をセンサーから打ち消していたんだ』
地に転がった魔女たちの残骸を見下ろし、19歳と言われたら納得する容姿のヤロウを見つめ返す。
オレに敵意を燃やすそいつは、人間の姿をしていて――でも、ただの人間ではない膂力を持っている。
その男は、またもオレに怒り叫んだ。
「この名を刻め!! WITTS!!
凪也=ラブクラフト!!
我が友の名だ!! 貴様が取りこぼした、命の名だ!!
……ぼくのようなケダモノに、命と姿形を託した、気高き善なる男の名だッ!!」
その名を、刺すように告げたそいつは。
人の姿をしたモンスターは、叫んでいた。
――泣くように、吠えていた。
◆




