その1 終末襲来、祝言前
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第四話『夢想家どもの、終末糾弾』
その1 終末襲来、祝言前
teller:スズベル=エメラルダー
◆
……狭い。
クッッソ狭い。
雪原なのにアホみてえに暑苦しい。
っつーか、むさ苦しい。
なんでかって言うと。
「……オイ凪哉、もうちょい詰めろや。狭ぇんだよ」
「無茶を言うな。先程からコックピットの壁に身体が何度もぶち当たっている。これ以上は詰められん」
「めり込んどけ。それで距離空くだろ」
「無理は言うな」
ただでさえ狭いブリキハートのコックピット内。
コレは一人乗りだってのに、座席の横の隙間に今は無理くりと野郎が入ってるから、狭い上にむさ苦しくて冗談じゃねえ。
雪原地帯に入ったから機体の外には雪景色が広がってんのに、やっぱりどことなく暑苦しい気がする。最悪だ。
こちらスズベル。
WITTSイース・トーヴ支部所属戦闘員、21歳。
【レディ】、ブリキハートのパイロットだ。
この無理くりブリキハートのコックピットに入ってる野郎の名前は凪哉=ラブクラフト。
見た目は金髪碧眼、19歳の若造。
その正体は、謎の青年・凪也=ラブクラフトが魔法で己の命、姿かたち、知性その他もろもろを受け継がせた――モンスター。
結構、前代未聞の存在。
凪哉は妙に古風な口調で喋るわ、妙に正義感が強いわ……とうるせえ野郎だが、なんやかんやでWITTS入隊志望らしく、オレと旅を共にすることになったヤツ。
オレにとっちゃ後輩……になるんだろうけど、どうも生意気で可愛げのねえヤロウ。女の子じゃねえんだからどっちみち可愛げは永遠にねえけど。
なんで凪哉のヤロウがブリキハートのコックピットに無理やり同乗してるのかと言うと、凪哉の【レディ】、『ジェーン・ドゥ』は発掘したばかりの旧型の【レディ】で、まだ雪原地帯に対応できるほどの設備が整っていない。
余計な消耗を避けるべくジェーン・ドゥは現在、保護魔法が付与された布に覆われた状態でブリキハートに引きずられている。
布はWITTSの支給品だけど、ここで役に立つとは。
で、搭乗【レディ】が使い物にならねえ凪哉は雪原地帯の寒さから逃れるべくブリキハートのコックピット内に避難中ってわけだ。はよ終われこの任務。
「はぁ……ヤロウと同乗とか気分下がるぜ……これが美女やかわい子ちゃんとかだったらやる気ブチ上がって任務だって爆速で終わらせんのによ……」
『ごらん凪哉くん。これが人間のクズだよ。真似しちゃダメだからね』
「承知した、冥助殿。人間とは難しいな……」
『まあスズベルくんは特殊個体みたいなもんだからさ。キングオブクズ、キングオブカス、キングオブアホの三冠くらいは制覇してるから。適度に目を逸らすがいいよ』
「冥助殿、そこまでは思ってない。そこまで言わんでも良い」
「横っちょでうるっせーんだよオッサン!! うるせえのは間に合ってんだから話に入ってくんな!!」
凪哉のグローブに取り付けられた通信用の球状レンズから、ゆらゆらしたホログラム映像と共に軽い調子の声が響いてやがる。うるせえ。
……この声の主は冥助=ララバイ。
実年齢は37歳のオッサン。
ただし全ての【レディ】を管理するマザーコンピュータに魂ぶち込むっていうイカれたことやらかした影響で成長が止まってるから、見た目だけはオレと同い年くらいのオッサン。ややこしい。
おっさんらしい渋さのカケラもないくらい軽いノリだが、コイツはこんなんでもWITTSの【レディ】開発室長。
戦闘ロボット【レディ】の生みの親だけども、まあ、そんなに威厳は無い。
オレにとっては、特に。
「ったく、クズだのカスだのアホだの好き勝手貶しやがって。言ってろよオッサン。そんなオレにも理解あるアリスちゃんが……♡♡」
『ちょっと最近鬱陶しいなコイツ』
「うるせえな!! 少しは妄想に浸らせろ! 最近マジで女の子不足なんだよ! アリスちゃんのあのきゃわわな愛くるしさを思い出さねえとやってらんねえ!! ……もうすぐ迎えに行くから待っててね、オレだけのフェアリー・メイド♡♡」
『じゃかあしいよ』
「一蹴すんな!!」
冥助のオッサンに茶々入れられつつも、脳裏では必死に愛しのアリスちゃんとのイチャイチャ予定を繰り広げる。
が、妙に黙り込んでいた凪哉が不思議そうに口を開いたことで状況は一変した。
「……そのアリス殿と言うのは……スズベルの伴侶か?」
「は!?!?」
「む……すまない。祝言前だったか」
「っ、はぁあ!?!?!? ま、てまて凪哉! アリスちゃんはもっとなんかこう……オレにとっての天使って言うか女神って言うか心の聖母って言うかそんな感じのアレでだな……」
「……?? せめて例えを統一してくれ。天使なのか女神なのか聖母なのか、人物像を覚えにくい」
「てめえオレのアリスちゃんの情報を覚えようとしてんじゃねえ!!」
「胸ぐら掴むな操縦桿から手を離すな阿呆か貴様!! コックピットが傾く!!」
パシっと一瞬で操縦桿に片手を戻した時、気付く。
冥助のオッサンが、静かだ。
今のオレと凪哉の騒ぎは、いつもの冥助のオッサンにとっちゃ絶好のからかいチャンスだったはずだ。
いつものオッサンなら凪哉へのオレの態度を『理不尽逆ギレ野郎』だのなんだの言ったり、はたまたアリスちゃんへのオレの姿勢を『クソ野郎』だのなんだの言ってはこき下ろしてくるはずだけど、オッサンはしーんと黙り込んでいる。
……嫌な予感がする。
「……オッサン……何かあったのか?」
問いかけると、数拍置いてから。
凪哉のグローブから、意を決したような声が響いた。
『……えー……スズベルくん、凪哉くん。悲しい……? うん、たぶん悲しいおしらせです』
「は?」
「……何があった、冥助殿」
『解析により、雪原地帯の異常戦闘反応の原因が判明しました。この先に、10歳の少年がいます。【妖精因子】持ちです。……恐らく観測史上最大の精神過剰活性が起きてます』
「【妖精因子】……? アリスちゃんのとは、また違う感じか?」
『違いますね。……って言うか切羽詰まった状況だからなるべくさくっと話すね。10歳のちびっ子がヤバめの【妖精因子】暴走させてます! 戦闘反応はそのせい! 暴走は継続中!』
……ん?
機体の外に広がる景色が、急に明らかにおかしくなる。
雪景色だったはずが、一面に白が広がっているはずが。
――黒が混ざっている。
ちょうど進行方向の奥の奥から、闇が延びてくる。
『君たちの任務は、この先にいる10歳の少年を助けること! ……失敗したら、暴走した【妖精因子】がぜんぶ飲み込んで世界が終わります! ファイト!』
冥助のオッサンの通信を聴きながら、オレはブリキハートを走らせる。
ぽつりと、オレと凪哉は、オッサンの言葉を反芻して。
「世界が……」
「……終わる……」
行く先の奥から延びた闇が広がってきて、世界の異変はとっくに進んでいて、きっと終末にも向かっていて――。
世界が、終わる。
「…………はああああ!?!?!?」
急に降って湧いた世界の危機に、オレはとりあえず操縦桿を今度こそ離さないよう集中することしか出来なくて。
そんな大きなもんをオレらに託すなふざけんなと思いながら、オレは――たぶん本格集中前の最後の逃避なんだろうけど。
世界の危機の真っ只中、オレは。
……アリスちゃん、元気かなあ、と、頭の隅でほんの一瞬思っていた。
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