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狂想爆炎ピアチェレディ!  作者: ハリエンジュ
第三話『ガール・ミーツ・ガール』 ~アリスパート~
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その1 元・屍体の旅路

狂騒(きょうそう)爆炎(ばくえん)ピアチェレディ!

第三話『ガール・ミーツ・ガール』

その1 元・屍体(したい)旅路(たびじ)


teller(語り手):アリス=クロスロード





 この世界、【ナーサリフィア】は、魔女リカルカと言う名の災いに、常に脅かされている。

 私――アリス=クロスロードはそれを、本を通して、でしか知らなかった。

 ずっとキャロッタ村という小さな村で、狭い世界で、ほぼほぼ家に独り籠もって活字を追いかけていた日々だった。

 魔女のことだけじゃなく、私は知識でしか世界を知らなかった。


 そんな、ちっぽけな想像しかできなかった世界そのものに。

 ――私は今、やっと触れている。





 ギギ、ギチギチと。

 決して軽快とは言い難い音が響いていた。


「もう少し、だから……頑張ろう、クイーン・オブ・ハート……!」


 クイーン・オブ・ハートのコックピットで、私は操縦桿(そうじゅうかん)を強く握り締め、前へ前へと押し込んでいく。

 その度に、クイーン・オブ・ハートの両腕部が徐々に、徐々に下がっていく。

 その両腕に、積み重なった木箱の山を抱えながら。


 旅立つ時にグローブを用意したから、操縦桿の摩擦でこれ以上手のひらを怪我することはない。

 でもキャロッタ村での戦闘で負った身体の傷は、まだどこも完治していない。

 だから今もたまに、手のひらも身体のあちこちも、じくじくと痛むけど。

 そんな痛覚はいつも、諦め俯きかける私の心を呼び覚ます。覚醒させる。


「アリスちゃん、その箱で最後だよー! 気張んな!」


 活気の良い女性の声が、耳に届いた。

 キャロッタ村を出て最初に訪れたこの街の、宿屋の女将さんの声。


「は、はい……! ……行こう、クイーン・オブ・ハート! もうちょ……っ、と!」


 操縦桿(そうじゅうかん)を押し込んで、コックピットのペダルを踏んで、クイーン・オブ・ハートに歩いてもらう。

 大好きな、足音を聴く。


 クイーン・オブ・ハートが、抱えていた木箱の山を慎重に慎重に、荷台へ下ろした頃。


「……お疲れさん! 何時間も集中して荷物運び、良くやってくれたよ! お昼ご飯用意するから降りといで!」


「は……はい!」


 女将さんの声に返事をして、私はそっとコックピットのパネルに触れる。

 いい子いい子と頭を撫でるように、想いを込めて。


「……お疲れ様、クイーン・オブ・ハート。今日もありがとう……私、貴方に頼りっぱなしだね」


 コックピットを照らすモニターの灯りがとても優しかったから、それが私の愛機からの返事に思えて、私は一人笑って、それから。

 コックピットのハッチをゆっくり開けて、まだまだ知らないことだらけの『世界』を肌で直に感じる。


 晴れ渡る青空。愛おしい青色。

 一瞬目を眩ませるほどに燦々(さんさん)とした陽の光。

 木々の匂いを乗せた風。

 賑わう人々が行き交う街並み。


 キャロッタ村でクイーン・オブ・ハートと一緒に魔女リカルカを倒した時とはまた違った景色が、そこに広がっていた。

 それはそれは、とても綺麗に。



 アリス=クロスロード、16歳。

 WITTS(ウィッツ)所属戦闘員のスズベル=エメラルダーさんに恋して、故郷キャロッタ村を飛び出して。

 旅の途中、この小さな街――『シルキオ』に辿り着きました。


 街の人々は優しく、商業が栄えているのか全体の空気は活き活きとしていて、キャロッタ村で俯いてばかりいた私には、何もかも全てが新鮮。


 スズベルさんを追いかけてWITTS(ウィッツ)イース・トーヴ支部を目指し……たは、いいけれど。

 家の本棚から持ち出した古い文献の中の地図を見ても、クイーン・オブ・ハートのコックピットで支部までの距離を調べても、支部までは少し遠くて。

 クイーン・オブ・ハートという移動手段があるにしても、無事辿り着くには、食費含めてまだまだお金が必要だということがわかってしまった。


 世間知らずの私が知識として知っているよりも世界情勢は変化しているだろうし、物価だってかなり変動しているはず。


 それに、自分の目標の一つとして治癒術の勉強だってしたいから、手持ちの初級治癒術の教本以外にも、もっと詳しい書物が欲しい。


 ……あの人の、スズベルさんの、お役に立ちたい。

 もしまたスズベルさんが傷付いても、今度は私が治したい……と思う。


 そういうわけで、WITTS(ウィッツ)イース・トーヴ支部への旅費と治癒術教本の費用を稼ぐ為に、私はこのシルキオの街で、バイト……というものを始めた。

 主な仕事は宿屋の女将さんが割り振ってくれるけど、クイーン・オブ・ハートを使って街中の倉庫整理や荷運びの作業をお手伝いすることが特に多い。



 ――私が今まで生きていて、活字で追った知識でしか知らなかったことは、本当にたくさんあって。


 世界は、魔女に脅かされてる。

 これもそのひとつ。大きな、ひとつ。


 この街に辿り着いて知ったことは、魔女リカルカの脅威に怯えながらも力強く明るく生きる人々も居るということ。

 スズベルさんに憧れて始まった私の心は、シルキオの街に生きる人々の強さにもまた衝撃を受けて――感銘に、身を焦がしていた。



 コックピットのハッチを開けたまま感じる風をぎゅうと抱き締めるように、重ねた両手を胸に当てる。

 自分の心臓の鼓動に、安堵を覚える。



 ああ、今日も。

 スズベルさんとの出会いで生まれた、この心が愛しい。



 私にはあまりにも色鮮やかすぎる、新しい世界。

 それらをこの心に、この全身に全て焼き付けようとただただ必死で。

 そうすると色々目まぐるしくて、時に呼吸も忘れそうになるけど。

 時々苦しくて、でもその倍は喜ばしい今の日々が、私はとても愛しくて。

 出会う景色が色鮮やかだからこそ、私がずっと籠もっていた暗闇にさえ、今なら笑いかけられる気がした。



 クイーン・オブ・ハートに乗って旅に出て、街であくせく働いて。

 大変なことばかり、疲れることばかり。

 時には怪我だってする。

 学びたての治癒術は、まだまだうまくいかない。


 ――だけど私、今の日々、結構好きだ。



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