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20.掲示板

 翌朝



 最悪だ。

 兵士のおっさんは黙っとくからねと、いい笑顔で去ったが、俺はあれから寝られなかった。

 逆にフウカは覚えていないのかスッキリとした顔だった。

 よくテントで寝られるな。

 俺より余程、冒険者向きな気がしてきた。



「おはようイフト」

「おう、おはよー…」


「何よ、元気ないわね?」

「ちょっと寝られなくてな」


「ふーん、しっかりしなさいよ」


 誰のせいだと思ってんだ。



「そういえば昨夜誰か来なかった?」

「いや、誰も来てないよ…」


「そう? 気のせいだったかしら?」

「気のせいだろ、よく寝てたよ」


「まぁいいわ、朝御飯の支度するわね」

「頼む。俺は少し寝るから出来たら起こして…」


 ちょっとだけ寝る事にした。



 ♢



 朝食後

 俺とフウカはギルドに顔を出した。

 ギルド内には多くの冒険者がいた。



「へ〜昨日よりも更に賑わってるわね」

「昨日は朝一だったからな」


「じゃあ昨日のお偉いさんはずっとイフトが帰ってくるの待ってたのかしら?」

「そういえばそうだな、だったら面白いな」


 あれ?

 もしかしてあの場にいた他の冒険者も俺の授与式を待ってた?

 想像したらちょっと笑えてきた。

 少し元気出てきた。





ギルド掲示板


 ギルドの1階にある、ギルド掲示板。

 通称、クエストボード。

 クランに所属している冒険者は、クランリーダーがクエストを指示したりもする。俺なんかは直接、担当のミラさんにオススメを教えてもらう。


 フウカの場合は、王者の剣に正式に所属している訳ではないので、担当の受付嬢もいない。


 所謂、ソロ冒険者や野良冒険者と言われるものに分類される。

 俺も最初の頃は野良冒険者だった。

 まぁ色々あって、アイリスさんのクランに所属する事になったのだ。


 なので、クエストボードから依頼を取るのは割と久々だ。



「うーん、どうしようかしら」


 フウカはクエストボードを見ながらめっちゃ悩んでいる。

 わかる、わかる。この探す時が割と楽しいんだよな。



「受けたいクエスト見つけたか?」

「あ、イフト。見てよ、私に相応しいクエストがないのよ! 教会の掃除や、薬草採取とか、手紙を届けるとか、荷物の運搬とか!」


 そりゃまぁフウカは1番下のGランクだからな。



「そりゃまぁな」

「護衛任務や魔物退治は?」


「強さも信頼度も分からないのに、そんな依頼任せられる訳ないだろ。フウカは仮冒険者だから実技試験受けてないし」

「嘘でしょ⁉︎ じゃあどうしたら受けられるのよ?」


「そりゃランクを上げるしかないな」

「どうやって?」


「依頼をこなして信頼度を上げるしかないな」

「がーん…」


 フウカはめっちゃ項垂れてる。

 憧れの冒険者のする内容じゃなくて落ち込んでるのだ。



「やれやれ」


 俺はクエストボードから幾つか依頼書を剥ぎ取った。



「でもなフウカ。こうやって王都の中にも困ってる人達はいるし、そういう人達を助けるのも冒険者の仕事だと俺は思ってる。フウカがBランクに上がるまで俺も手伝うからさ、フウカも頑張ろうぜ」

「イフト…うん、そうだよね」


 そう、最初から皆んな凄いわけじゃない。

 小さな依頼をコツコツと積み重ねて少しづつ信頼を勝ち得て、そうやって皆んな強くなっていく。


 俺は3枚の依頼書をフウカに渡した。



「これ、ここだけの話し…Gランクのキークエストだから。これクリアしたらFランクになれるぞ」


 俺はフウカと目を合わせず、小声でそう言った。

 フウカは嬉しそうに目が少し潤んでいた。



「イフト…あなた…意外とせこいのね」


 ガクッときた。

 いやいや、普段はしないよ!

 フウカが冒険者になりたかったのは知ってるし、早く上のクエストをしたい気持ちも分かるから、敢えてそうしたのに。



「でも、ありがとね」


 フウカは満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに受付嬢の所へ依頼書を出しに行った。

 やれやれ…忙しい奴。


 ……あの笑顔にドキッとしたのは内緒にしとこう。





 暫くするとフウカは嬉しそうにこちらへ駆け寄って来た。念願の冒険者としての初依頼だ、嬉しくないわけがない。



「じゃあ行くか」


「あれ? Sランクの依頼受けないの?」

「ああ、1階の掲示板に張り出されてるのはAランク以下の依頼だけだ。Sランク以上はあっち」


 俺はギルドの2階を指差した。そのまま俺達は2階へと進んだ。



「なんか、私まで緊張するわね」

「俺も上がるのは初めてだ、ここはSランク以上しか行けないから」


 なんか俺まで緊張してきた。



「イフト、随分遅かったな」

「おはようございます、ファルガさん。遅いってまだ朝ですよ」


 クラン『銀狼の牙』、『衝撃』のファルガさん。ドラッセン渓谷の火竜の討伐任務以来だ。



「そういう意味ではない」

「?」


「おはよ〜にゃ〜イフト」

「あ、ニャコナさん。おはようございます」


 俺と同じクラン、『王者の剣』の『遊撃』のニャコナさん。それと、



「久しぶりねイフトくん」

「お久しぶりです、カイネさん」


 女性だけで組織されているクラン『雪華綺晶(きらきしょう)』のクランリーダーでもあり、あの『大英雄』と並ぶ王都最強の1人。



 S Sランク冒険者・『月光花』カイネ・ザガード



 『大英雄』アルベルト・ザガードの奥さんだ。うちのリーダー、アイリスさんの憧れの人でもある。というか、この人に憧れてない女性冒険者などいない。



「ドラゴンスレイヤーでSランクか、君は相変わらず面白いわね」

「ははっ、たまたまっす」


「ちょっとイフト」

「何?」


「誰よこの綺麗な人、紹介しなさいよ」

「ああ、カイネ・ザガードさん。クラン雪華綺晶のクランリーダーで、この国に2人しかいないSSランク冒険者の1人、二つ名は『月光花』。ちなみに『大英雄』の奥さん」


「はぁ⁉︎ 超絶有名人じゃない! あの『煌江』の大河を斬り裂いたとか、毒龍を全部殺したとか、氷龍を従えてるとか!」

「ふふ、どれも嘘ね。私はスロッカスの沼地には行った事がないし、氷龍も従えてる覚えはないわ」


 カイネさんはクスクスと笑っていた。



「そうだぞ、でも煌江を斬り裂いたのは本当だ。そんなカイネさんがいたから、アルベルトさんは虹竜討伐に集中出来たんだ」

「どんだけ凄いのよ」


「あら、イフトくん。その子は?」

「ああ、こいつは…」


「初めましてカイネ様。私フウカと申します。出身はアルムド帝国で、半年程ここ王都での滞在を許可されております」

「まぁまぁ、それでイフトくんとはどんな関係なの?」


「イフト様ですか? そうですね、滞在中の護衛です」

「にゃにゃ、アイリスにゃんが命じたのにゃー。フウカにゃんは帝国の貴族らしいのにゃ」


「そうなのね、あの子も忙しいわね。Sランクの任務にこんな可愛い子を同伴させるなんて」

「にゃにゃ、アイリスにゃんはSランクの任務をイフトに押し付けたいだけにゃ」


「だが溜まってるのも事実だ、アイリス様は色々と忙しい身だ。そんな事も分からないのか猫人族は?」

「しゃー、喧嘩にゃら買うにゃファルガ」


「まぁまぁ、喧嘩なら他所でやりなさい。それじゃあイフトくん、フウカちゃん、またね」

「あ、はい」

「は、はい」


 カイネさんは優雅に立ち去っていった。

 すれ違い様凄く良い匂いがした。





 朝から凄い人と会った。これが2階か。



「それでイフト」

「ん?」


「あれは放っておいていいの?」

「ああ、あれは放っておいていいよ。あの2人はああだから」


「ふーん」


 ニャコナさんとファルガさんの喧嘩に首を突っ込んだらこっちにまでとばっちりがくるからな。

 あれは放っておくに限る。



「それでどれを受けるの?」

「うーん、そうだな」


 2階の掲示板には沢山の貼り紙が貼られていた。


♦︎

『煌江』水竜の群れ討伐→Aランク以上

『煌江』宝玉・水雲→納品

『ドラッセン渓谷・最奥』火龍討伐

『ミテト大森林』木龍→調査依頼

『ミテト大森林・中央』世界樹の枝→納品

『ザザンカ大砂漠』水晶蠍20匹→討伐

『ザザンカ大砂漠・流砂の滝』黄金蠍1匹討伐→素材納品

『スロッカスの沼地・最深』毒龍討伐

『死氷山アイスバーン』宝玉・緋水→納品

♦︎



 他にも未だ沢山あった。どれもこれも厄介な依頼ばかりだ。

 あ、でも火龍は倒したな。素材納品したらクリアになるかな?


 今はフウカを手っ取り早くBランクにしないとだし、これで1/5ノルマ達成だとおいし過ぎる。



「じゃあドラッセン渓谷で火龍討伐にしようかな」

「承りました」


 あれ?



「ミラさん?」

「はい」


「なんで2階に?」

「1階での王者の剣担当は別の者になりました。今までの2階担当の者が寿退社いたしましたので、本日付けで2階のSランク以上の皆様の担当となりました」


 ザックよ、ご愁傷。

 いや、これはアレだ。ミラさんに会いたかったらSランクになれとの神の啓示だ。

 頑張れ、ザック!


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